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14. レク準備!
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「光ちゃん、先生に頼んできたよ!」
「よし、ばっちり」
光ちゃんが手を差し出す。私も手のひらを差し出して、ハイタッチした。
その手があったかくてムズムズする。光ちゃんとの距離の近さを実感するたびに、「仲直りしたんだ」って分かってうれしい。
私たちは数日、レクの準備に取りかかっていた。何をするか、っていうのはまだクラスメートには秘密なんだけど、無事にやることも決まったし。
レクの内容は、なんと私のアイデアなんだ!
大丈夫かな、って不安に思ってた。だけど光ちゃんと仲直りしたことで、何かがふっきれたみたい。思いついた言葉を、ゆっくり、私なりに伝えてみたら、光ちゃんは「いいじゃん」って言ってくれた。
「それになんだか……七星らしいね。ほんと、好きなものになるととんでもない発想するんだから」
こんなことも言われた。いや……そうかな? 確かに、私が出した案は、星に関係することで。
そんなことを言われるとちょっと恥ずかしかった。「星のことになると……」って言われるのは、いつものことなのにね。
「でも、レクの準備しててちょっとびっくりしたな。おひつじ座って春の星座なんだね。こないだの羊を思い出たよ」
あぁ、そうだ。まだそっちも片付いてなかったんだった……。
私は隠れて、ちょっぴり苦い顔をする。光ちゃんは気付いていないみたいで、「やばかったね、あれ。どうなったんだろ」とつぶやいた。
たぶん、どうもなってない。あれは、暗黒星座だから。動物園や牧場に、戻せる羊じゃないもんね。
今もどこかで街をさまよってるのかな。あれから、私たちの前に現れていないけれど……。
私は無意識に、羊とそれから、ステラのことを思い出していた。
──あの日。羊をとりあえず撃退して、学校に戻った光ちゃんと入れ替わりに現れたステラ。
私は、彼に尋ねた。
「ねぇステラ、使い方はあれで合ってるの? からす座の時といい、今といい……」
「当たっている」
ほっと息をついた。
だってステラ、指輪を渡すだけ渡してきて使い方は教えてくれなかったんだもん……って、前回は私が「星座を戻す」ことに対して乗り気じゃなかったのが悪いんだけどさ。
「からす座の時……どこかで見てた?」
あの時ステラは見かけなかったけど、どこかにいた。そんな気がする。普通の男の子じゃないもんね。
「見ていた。上出来だ」
「あ……ありがとう」
即答にちょっとびっくりしてしまう。
ステラって表情が動かないからこそ、恥じらいもなくてまっすぐなんだよね……そんなまっすぐ目を見てほめられると、照れるな。
「でも、見ていたなら助けてくれてもよかったのに」
「そーだよ! ワタシたち、大変だったんだよ!?」
「僕がいてもどうしようもないだろう。僕には、暗黒星座をどうにかする力は無いからな」
ステラ、ばっさり。
そうなのかな? ステラって暗黒星座のことを知ってるみたいだし、「元に戻す」方法だって知ってた。なのに「どうにかする」力だけ無いのは何で……? この指輪だって、ステラがくれたのに。
今は、聞くべき時ではないのかな。
「……じゃあ、次また羊のあの子が来たら同じようにすればいいんだね」
この指輪で新しい星座を作って、物語を与えてあげる。
「そうだ。……そして、いつかこのくまにも」
一等星のような青い目が、ホクトに向く。
ホクト……そうだ。ホクトの星座も、まだ見つけられていない。
つぶらな瞳と、目が合った。そうだよね。ホクトも、いつか星座として帰らなきゃいけないし、元の場所に戻らないといけない。
……なんだろう。ちょっと、さみしい……。
「……ステラ。ステラは、ワタシがなんのおほしさまだったか知ってるの?」
重たくなった私の心を悟って、そこから目をそらすように。ホクトがステラに聞いた。
この質問にも、またうなずく。やっぱり知ってるんだ。
「でも……教えては、くれない?」
「あぁ。ナナセと、くま。自分で考えてくれ」
自分で、か。
暴れ続けている羊に、ホクトの星座。まだまだ解決することは山積みだ。
不安だけど……やってみるよ。
うなずいた私に、ステラは目を細めた。満足、しているみたいだ。
「感謝する。……僕も、ナナセたちのことはいつも見守っている。助けが必要な時は、参じよう」
さ、参じようって、助けが必要な時はすぐ行くよってこと? 相変わらず言い回しがむずかしい……。
「うん。ありがとう」
「七星ー!」
あ、光ちゃんの声だ。ふっとそちらに目を移して、それから、またステラへと戻す。
予想はしてたけど、やっぱりいつの間にか、ステラはいなくなっていた。
安心はまだ出来ない。羊はなぜかあの日、ホクトじゃなくて光ちゃんを狙っているみたいだった。私たちの知らないところで、ああいう目にあってる人がいると思うと、怖い。考えたくもないけど。もしかして、先生の言ってた「最近小中学生の女の子が行方不明になる」っていう事件は、あの羊のせい?
あの羊は、何がしたいの?
そもそもあの子たちは、なんで「暗黒星座」なんてものになってしまったの?
ステラは「『光』を奪われたことで記憶や正気を失う」って言っていたけど……「光」を奪う、悪い誰かがいるってことなの?
あーもう! 考えても次のナゾが浮かぶだけ! 何も分からないよ!!
「とりあえずレクに集中しよう……」
「うん、そうだね。あの羊がどうなったのかなんて、私たちには分からないし」
私の独り言を、光ちゃんが拾う。
うん、光ちゃんには何も気にしないでいてほしいよ。
「そういえば七星さ。また昔みたいに呼んでくれたらうれしいんだけど」
昔……昔って、え!?
きゅっと細い目が、私をのぞきこむ。
「わすれちゃった?」
「わすれてないよ! わすれてないけど……はずかしくない?」
「なんで! 私ははずかしくないよ」
「なら、いいけど……」
懐かしい名前を頭に思い浮かべながら、私は小さく口を開いた。なんだか緊張しながら。
「……ひぃちゃん?」
頭の中で、小さい頃の私が駆け回っていた。「ひぃちゃんひぃちゃん」って呼びかけては、「うんうん」って話を聞いてくれる、そんなところに甘えてたっけ。はずかしくて、なつかしい。
心がとくとくとはね上がって、あたたかくなった。
たぶん、私の中の幼い私が、喜んでるんだと思う。
「うん」
光ちゃん……ひぃちゃんは、少し頬を染めてほほ笑んだ。
「……やっぱり照れるね。レクまであともう少し、がんばろう」
「もちろん!」
レク係に決まった時は、どうなることかと思ったけど。
今は本気でがんばろうってそう思えるよ。すごく楽しみになってきた!
……いやな思いも、したけど。やっぱりこれは、ホクトのおかげだ。改めて、あの子に感謝しないと。私はホクトが中にいるであろうかばんを見つめた。
……でも私は、自分のことばっかりで、気づいていなかったんだ。
今ホクトが、どんな気持ちでいるのかってこと。
「よし、ばっちり」
光ちゃんが手を差し出す。私も手のひらを差し出して、ハイタッチした。
その手があったかくてムズムズする。光ちゃんとの距離の近さを実感するたびに、「仲直りしたんだ」って分かってうれしい。
私たちは数日、レクの準備に取りかかっていた。何をするか、っていうのはまだクラスメートには秘密なんだけど、無事にやることも決まったし。
レクの内容は、なんと私のアイデアなんだ!
大丈夫かな、って不安に思ってた。だけど光ちゃんと仲直りしたことで、何かがふっきれたみたい。思いついた言葉を、ゆっくり、私なりに伝えてみたら、光ちゃんは「いいじゃん」って言ってくれた。
「それになんだか……七星らしいね。ほんと、好きなものになるととんでもない発想するんだから」
こんなことも言われた。いや……そうかな? 確かに、私が出した案は、星に関係することで。
そんなことを言われるとちょっと恥ずかしかった。「星のことになると……」って言われるのは、いつものことなのにね。
「でも、レクの準備しててちょっとびっくりしたな。おひつじ座って春の星座なんだね。こないだの羊を思い出たよ」
あぁ、そうだ。まだそっちも片付いてなかったんだった……。
私は隠れて、ちょっぴり苦い顔をする。光ちゃんは気付いていないみたいで、「やばかったね、あれ。どうなったんだろ」とつぶやいた。
たぶん、どうもなってない。あれは、暗黒星座だから。動物園や牧場に、戻せる羊じゃないもんね。
今もどこかで街をさまよってるのかな。あれから、私たちの前に現れていないけれど……。
私は無意識に、羊とそれから、ステラのことを思い出していた。
──あの日。羊をとりあえず撃退して、学校に戻った光ちゃんと入れ替わりに現れたステラ。
私は、彼に尋ねた。
「ねぇステラ、使い方はあれで合ってるの? からす座の時といい、今といい……」
「当たっている」
ほっと息をついた。
だってステラ、指輪を渡すだけ渡してきて使い方は教えてくれなかったんだもん……って、前回は私が「星座を戻す」ことに対して乗り気じゃなかったのが悪いんだけどさ。
「からす座の時……どこかで見てた?」
あの時ステラは見かけなかったけど、どこかにいた。そんな気がする。普通の男の子じゃないもんね。
「見ていた。上出来だ」
「あ……ありがとう」
即答にちょっとびっくりしてしまう。
ステラって表情が動かないからこそ、恥じらいもなくてまっすぐなんだよね……そんなまっすぐ目を見てほめられると、照れるな。
「でも、見ていたなら助けてくれてもよかったのに」
「そーだよ! ワタシたち、大変だったんだよ!?」
「僕がいてもどうしようもないだろう。僕には、暗黒星座をどうにかする力は無いからな」
ステラ、ばっさり。
そうなのかな? ステラって暗黒星座のことを知ってるみたいだし、「元に戻す」方法だって知ってた。なのに「どうにかする」力だけ無いのは何で……? この指輪だって、ステラがくれたのに。
今は、聞くべき時ではないのかな。
「……じゃあ、次また羊のあの子が来たら同じようにすればいいんだね」
この指輪で新しい星座を作って、物語を与えてあげる。
「そうだ。……そして、いつかこのくまにも」
一等星のような青い目が、ホクトに向く。
ホクト……そうだ。ホクトの星座も、まだ見つけられていない。
つぶらな瞳と、目が合った。そうだよね。ホクトも、いつか星座として帰らなきゃいけないし、元の場所に戻らないといけない。
……なんだろう。ちょっと、さみしい……。
「……ステラ。ステラは、ワタシがなんのおほしさまだったか知ってるの?」
重たくなった私の心を悟って、そこから目をそらすように。ホクトがステラに聞いた。
この質問にも、またうなずく。やっぱり知ってるんだ。
「でも……教えては、くれない?」
「あぁ。ナナセと、くま。自分で考えてくれ」
自分で、か。
暴れ続けている羊に、ホクトの星座。まだまだ解決することは山積みだ。
不安だけど……やってみるよ。
うなずいた私に、ステラは目を細めた。満足、しているみたいだ。
「感謝する。……僕も、ナナセたちのことはいつも見守っている。助けが必要な時は、参じよう」
さ、参じようって、助けが必要な時はすぐ行くよってこと? 相変わらず言い回しがむずかしい……。
「うん。ありがとう」
「七星ー!」
あ、光ちゃんの声だ。ふっとそちらに目を移して、それから、またステラへと戻す。
予想はしてたけど、やっぱりいつの間にか、ステラはいなくなっていた。
安心はまだ出来ない。羊はなぜかあの日、ホクトじゃなくて光ちゃんを狙っているみたいだった。私たちの知らないところで、ああいう目にあってる人がいると思うと、怖い。考えたくもないけど。もしかして、先生の言ってた「最近小中学生の女の子が行方不明になる」っていう事件は、あの羊のせい?
あの羊は、何がしたいの?
そもそもあの子たちは、なんで「暗黒星座」なんてものになってしまったの?
ステラは「『光』を奪われたことで記憶や正気を失う」って言っていたけど……「光」を奪う、悪い誰かがいるってことなの?
あーもう! 考えても次のナゾが浮かぶだけ! 何も分からないよ!!
「とりあえずレクに集中しよう……」
「うん、そうだね。あの羊がどうなったのかなんて、私たちには分からないし」
私の独り言を、光ちゃんが拾う。
うん、光ちゃんには何も気にしないでいてほしいよ。
「そういえば七星さ。また昔みたいに呼んでくれたらうれしいんだけど」
昔……昔って、え!?
きゅっと細い目が、私をのぞきこむ。
「わすれちゃった?」
「わすれてないよ! わすれてないけど……はずかしくない?」
「なんで! 私ははずかしくないよ」
「なら、いいけど……」
懐かしい名前を頭に思い浮かべながら、私は小さく口を開いた。なんだか緊張しながら。
「……ひぃちゃん?」
頭の中で、小さい頃の私が駆け回っていた。「ひぃちゃんひぃちゃん」って呼びかけては、「うんうん」って話を聞いてくれる、そんなところに甘えてたっけ。はずかしくて、なつかしい。
心がとくとくとはね上がって、あたたかくなった。
たぶん、私の中の幼い私が、喜んでるんだと思う。
「うん」
光ちゃん……ひぃちゃんは、少し頬を染めてほほ笑んだ。
「……やっぱり照れるね。レクまであともう少し、がんばろう」
「もちろん!」
レク係に決まった時は、どうなることかと思ったけど。
今は本気でがんばろうってそう思えるよ。すごく楽しみになってきた!
……いやな思いも、したけど。やっぱりこれは、ホクトのおかげだ。改めて、あの子に感謝しないと。私はホクトが中にいるであろうかばんを見つめた。
……でも私は、自分のことばっかりで、気づいていなかったんだ。
今ホクトが、どんな気持ちでいるのかってこと。
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