神様の喫茶店 ~こだわりの珈琲とともに~

早見崎 瑠樹

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欲しいものとは

記憶には

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「記憶があるかって…」

 朧気が問い返す。

「はい、少し違和感がしたんです」
「…違和感?」

「朧気さんは神様らしすぎるんです」

 朧気はあっけにとられた表情をした。
 そして、呆れたように言う。

「神が神らしいのは普通だろう?」

「そうですね。ですが、神様らしさって勝手に人が決めていることなんですよ。普通の人には神様がどんなか格好をしているのか知らなくて」

 朧気はだまってこちらを見ている。
 先を促しているのか。

「僕から見たら、朧気さんが人の想像する神様らしさを演じているようにしか見えない。だから、もしかしたら、朧気さんは自らのあるべき姿を忘れてしまっているのではないかって」

 朧気は相変わらずこちらを、見つめている。いや、にらみつけていると言うべきか。

 どちらにしても、なんとも言えない沈黙がこの空間を満たした。

 耳が痛くなる。
 一秒が何秒にも感じられる。

「…ふにゃ」

 高良玉垂命こうらたまたのみことの寝言が間抜けに響き渡った。

「…っ、はああぁぁぁ」

 最初にため息をついたのは朧気だった。

「…ふっ」

 気が抜けた。
 朧気は降参だと言いたげにこちらを見た。

「よく気づけたな」

「恐らく、人だから気づけたんだと思います」

「なるほど、篠ノ木くんがいうように、私は記憶の多くを失っているはずだ」

 朧気は椅子に深く腰掛け直す。

「はず?」
「自分では何を忘れてしまったのか分からないからな。記憶がない故に」

 なるほどと思う、記憶がない故に記憶がないことに気づけない。

「それで、一番古い記憶は…?」

「…一番古い記憶」

 朧気は少し考え、まもなく答える。

「5年前程だろうか、私はここに立ち尽くしていた」

 あまりにもはっきりとした記憶の抜け落ちではないか。ここまで明確であれば、気づかない方が不自然ではないか。

「あの、違和感とかなかったのですか?」

「そうだな、皆無だった。自分が誰であるか理解できたし、さらに言えばとても古い記憶は思い出せた」

「とても古い記憶?」

「そうだ、神代のことだ」

「神代…」

 人が人でない頃の時代。

「私がこの世を認識したときには、すでに天孫が降臨していたがな」

 話のスケールが大きすぎて、どんな反応をしたらいいか分からなくなる。

「…そういえば、朧気さんは高良玉垂命さんのことを様をつけて読んでいましたけど」

「ああ、それは高良玉垂命様は私にとって神様だからだよ」

 朧気はこともなげにそう言う。神様にとっての神様とはどういう事なのか。

「神様の神様?」

「そうだ。私が生まれて間もなくして、九州平定が起こった。多くのあやかし、神が死に、私が生き残るすべはないと思った。そこで私を助けたのが彼女なのだ」

「高良玉垂命さんが」

「ああ、彼女は降伏したんだ」

 どんな戦いを繰り広げたのかと想像していたのが、降伏という言葉で目を丸くする。

「彼女は九州北部で絶大な力を持っていたんだ。彼女が降伏することで力のない神々を匿ったんだよ。私が天山の土着の神になったのはその後のことだ」

「へええ…、あ、それで朧気さんの記憶がないのは何でなんですかね」

 話が壮大に逸れていったので、慌てて元の話に戻す。

「…わからん」

 記憶がないのに、なぜ忘れたのを思い出せというのは、やはり無理がある。

 神代の記憶はハッキリしているのに、天山での記憶だけが抜け落ちるのはなにかおかしい。誰かが何か意思を持ってそこだけ抜き取っているように感じる。


「朧気が望んで記憶を消しているんですよ」

 高良玉垂命の声が聞こえる。振り向くといつの間にか起きていて、珈琲を飲んでいた。
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