11 / 45
欲しいものとは
記憶には
しおりを挟む
「記憶があるかって…」
朧気が問い返す。
「はい、少し違和感がしたんです」
「…違和感?」
「朧気さんは神様らしすぎるんです」
朧気はあっけにとられた表情をした。
そして、呆れたように言う。
「神が神らしいのは普通だろう?」
「そうですね。ですが、神様らしさって勝手に人が決めていることなんですよ。普通の人には神様がどんなか格好をしているのか知らなくて」
朧気はだまってこちらを見ている。
先を促しているのか。
「僕から見たら、朧気さんが人の想像する神様らしさを演じているようにしか見えない。だから、もしかしたら、朧気さんは自らのあるべき姿を忘れてしまっているのではないかって」
朧気は相変わらずこちらを、見つめている。いや、にらみつけていると言うべきか。
どちらにしても、なんとも言えない沈黙がこの空間を満たした。
耳が痛くなる。
一秒が何秒にも感じられる。
「…ふにゃ」
高良玉垂命の寝言が間抜けに響き渡った。
「…っ、はああぁぁぁ」
最初にため息をついたのは朧気だった。
「…ふっ」
気が抜けた。
朧気は降参だと言いたげにこちらを見た。
「よく気づけたな」
「恐らく、人だから気づけたんだと思います」
「なるほど、篠ノ木くんがいうように、私は記憶の多くを失っているはずだ」
朧気は椅子に深く腰掛け直す。
「はず?」
「自分では何を忘れてしまったのか分からないからな。記憶がない故に」
なるほどと思う、記憶がない故に記憶がないことに気づけない。
「それで、一番古い記憶は…?」
「…一番古い記憶」
朧気は少し考え、まもなく答える。
「5年前程だろうか、私はここに立ち尽くしていた」
あまりにもはっきりとした記憶の抜け落ちではないか。ここまで明確であれば、気づかない方が不自然ではないか。
「あの、違和感とかなかったのですか?」
「そうだな、皆無だった。自分が誰であるか理解できたし、さらに言えばとても古い記憶は思い出せた」
「とても古い記憶?」
「そうだ、神代のことだ」
「神代…」
人が人でない頃の時代。
「私がこの世を認識したときには、すでに天孫が降臨していたがな」
話のスケールが大きすぎて、どんな反応をしたらいいか分からなくなる。
「…そういえば、朧気さんは高良玉垂命さんのことを様をつけて読んでいましたけど」
「ああ、それは高良玉垂命様は私にとって神様だからだよ」
朧気はこともなげにそう言う。神様にとっての神様とはどういう事なのか。
「神様の神様?」
「そうだ。私が生まれて間もなくして、九州平定が起こった。多くのあやかし、神が死に、私が生き残るすべはないと思った。そこで私を助けたのが彼女なのだ」
「高良玉垂命さんが」
「ああ、彼女は降伏したんだ」
どんな戦いを繰り広げたのかと想像していたのが、降伏という言葉で目を丸くする。
「彼女は九州北部で絶大な力を持っていたんだ。彼女が降伏することで力のない神々を匿ったんだよ。私が天山の土着の神になったのはその後のことだ」
「へええ…、あ、それで朧気さんの記憶がないのは何でなんですかね」
話が壮大に逸れていったので、慌てて元の話に戻す。
「…わからん」
記憶がないのに、なぜ忘れたのを思い出せというのは、やはり無理がある。
神代の記憶はハッキリしているのに、天山での記憶だけが抜け落ちるのはなにかおかしい。誰かが何か意思を持ってそこだけ抜き取っているように感じる。
「朧気が望んで記憶を消しているんですよ」
高良玉垂命の声が聞こえる。振り向くといつの間にか起きていて、珈琲を飲んでいた。
朧気が問い返す。
「はい、少し違和感がしたんです」
「…違和感?」
「朧気さんは神様らしすぎるんです」
朧気はあっけにとられた表情をした。
そして、呆れたように言う。
「神が神らしいのは普通だろう?」
「そうですね。ですが、神様らしさって勝手に人が決めていることなんですよ。普通の人には神様がどんなか格好をしているのか知らなくて」
朧気はだまってこちらを見ている。
先を促しているのか。
「僕から見たら、朧気さんが人の想像する神様らしさを演じているようにしか見えない。だから、もしかしたら、朧気さんは自らのあるべき姿を忘れてしまっているのではないかって」
朧気は相変わらずこちらを、見つめている。いや、にらみつけていると言うべきか。
どちらにしても、なんとも言えない沈黙がこの空間を満たした。
耳が痛くなる。
一秒が何秒にも感じられる。
「…ふにゃ」
高良玉垂命の寝言が間抜けに響き渡った。
「…っ、はああぁぁぁ」
最初にため息をついたのは朧気だった。
「…ふっ」
気が抜けた。
朧気は降参だと言いたげにこちらを見た。
「よく気づけたな」
「恐らく、人だから気づけたんだと思います」
「なるほど、篠ノ木くんがいうように、私は記憶の多くを失っているはずだ」
朧気は椅子に深く腰掛け直す。
「はず?」
「自分では何を忘れてしまったのか分からないからな。記憶がない故に」
なるほどと思う、記憶がない故に記憶がないことに気づけない。
「それで、一番古い記憶は…?」
「…一番古い記憶」
朧気は少し考え、まもなく答える。
「5年前程だろうか、私はここに立ち尽くしていた」
あまりにもはっきりとした記憶の抜け落ちではないか。ここまで明確であれば、気づかない方が不自然ではないか。
「あの、違和感とかなかったのですか?」
「そうだな、皆無だった。自分が誰であるか理解できたし、さらに言えばとても古い記憶は思い出せた」
「とても古い記憶?」
「そうだ、神代のことだ」
「神代…」
人が人でない頃の時代。
「私がこの世を認識したときには、すでに天孫が降臨していたがな」
話のスケールが大きすぎて、どんな反応をしたらいいか分からなくなる。
「…そういえば、朧気さんは高良玉垂命さんのことを様をつけて読んでいましたけど」
「ああ、それは高良玉垂命様は私にとって神様だからだよ」
朧気はこともなげにそう言う。神様にとっての神様とはどういう事なのか。
「神様の神様?」
「そうだ。私が生まれて間もなくして、九州平定が起こった。多くのあやかし、神が死に、私が生き残るすべはないと思った。そこで私を助けたのが彼女なのだ」
「高良玉垂命さんが」
「ああ、彼女は降伏したんだ」
どんな戦いを繰り広げたのかと想像していたのが、降伏という言葉で目を丸くする。
「彼女は九州北部で絶大な力を持っていたんだ。彼女が降伏することで力のない神々を匿ったんだよ。私が天山の土着の神になったのはその後のことだ」
「へええ…、あ、それで朧気さんの記憶がないのは何でなんですかね」
話が壮大に逸れていったので、慌てて元の話に戻す。
「…わからん」
記憶がないのに、なぜ忘れたのを思い出せというのは、やはり無理がある。
神代の記憶はハッキリしているのに、天山での記憶だけが抜け落ちるのはなにかおかしい。誰かが何か意思を持ってそこだけ抜き取っているように感じる。
「朧気が望んで記憶を消しているんですよ」
高良玉垂命の声が聞こえる。振り向くといつの間にか起きていて、珈琲を飲んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる