神様の喫茶店 ~こだわりの珈琲とともに~

早見崎 瑠樹

文字の大きさ
18 / 45
現世

木花

しおりを挟む
「ようこそいらっしゃいました」

 木花咲耶姫このはなさくやひめはそう言ってお辞儀をする。僕もつられてお辞儀をしてしまう。

 このひとの前では、立つことはおろか、その人の前にいること事態が、罪のような気がした。

「科斗よ、なぜそんなに挙動不審なのじゃ?」

 宇迦之御霊が呆れ顔でこちらを見る。

「なぜって、僕にもよく分からないですけど」
「それは、木花咲耶姫はお綺麗ですから」

 高良玉垂命がそう言う。

「い、いえ、そういうわけでは」

「なるほど、科斗も男という訳じゃな。ん、と言うことはワシはお綺麗ではないと!?」

 高良玉垂命の皮肉に気づいたのか、宇迦之御霊はすっとんきょうな声をあげる。

「ふふ、相変わらずですね」

 木花咲耶姫がクスリと笑う。

「ところで高良玉垂命殿、かの姫は息災ですか?」

 木花咲耶姫は真面目な顔になって、高良玉垂命に向き直る。

「ええ、それはもう」
「…よかった」

 木花咲耶姫はホッとため息をつく。

「それでは、立ち話も何ですから。社のなかに参りましょう」

 木花咲耶姫が背を向けると、本殿の方に向かう。つられるようにして、彼女の背中を追う。

「あれ、人が…」

 ふとあれだけ賑やかだった人たちがいないことに気づく。

「神域に入ったのですよ」

 高良玉垂命が僕に追い付きつつそう答える。

 いつ神域に入ったのか、人々が消える瞬間は全く気づかなかった。あるいは、自身が人だから気づけないのか。

 本殿の中は、教科書で見たことがある。いわゆる、書院造りという作りになっていた。
 障子や襖、床の間など、今まで上がったことのある神社と比べて一番日本的だが、やはり外見と内部は全く一致していない。

 試しに障子を開けてみると、そとには人工的な建築物はなく、奥に富士山の頂が見えた。

「人が外の様子を見すぎるのは、あまり良くありません」

 背後から木花咲耶姫が声をかける。
 おとなしく指示に従って障子を閉める。確かにこの景色を見ていると、何か不安な気持ちにさせられた。

「神域というのはどういうものなのですか?」

 つい疑問が口に出る。
 木花咲耶姫は首を捻る。少しの間のあと、口を開く。

「神域は、神そのものという表現が一番近いかと思います」

 神域は神そのもの、だったら目の前にいる木花咲耶姫はどんな存在なのか。

 なんとなく、それを知るのはいけないような気がして、喉まで出かかった言葉を飲み込む。

「ところで、宇迦之御霊殿が言っていた桜についてお話しくださいませんか?」

 木花咲耶姫は座布団に正座している高良玉垂命と宇迦之御霊の方に顔を向ける。

「うむ、もちろんじゃ。その前にとりあえず座るのじゃ。ワシらだけ座って家主が立っているのは気分がすぐれんからのぉ」

 宇迦之御霊は目の前にある座布団をテシテシと叩く。

 木花咲耶姫はそれではという感じで、その座布団に腰を落ち着かせた。僕は高良玉垂命と宇迦之御霊の後ろに座る。

「これじゃ」

 一言そう言って、宇迦之御霊が懐から取り出したのは例の桜の枝だ。相変わらず、水を必要とせずに咲き誇っている。

「これは…」

 木花咲耶姫がしげしげと眺める。

「呪いとも違うような気が致します。少なくとも私の影響ではないですね」

「うむ、もう一週間以上もこの状態なのじゃ。明らかに不自然じゃろう?」

 木花咲耶姫は「さわっても?」と断りをいれて、手を伸ばす。

 すると、木花咲耶姫が触れるやいなや、急速に花びらが萎れ、みどりの葉が生える。その葉もそれほど時間が経たないうちに散ってしまった。

「……!」
「木花咲耶姫の神威ですかね?」

 高良玉垂命が聞く。

「ええ、恐らく。桜は私自身ですから、あるべき姿に戻ろうとしたのでしょう」
 
 桜は季節に逆らって、花を咲かせ。木花咲耶姫さくらに触れると元の姿を取り戻す。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。  

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...