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現世
木花
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「ようこそいらっしゃいました」
木花咲耶姫はそう言ってお辞儀をする。僕もつられてお辞儀をしてしまう。
この神の前では、立つことはおろか、その人の前にいること事態が、罪のような気がした。
「科斗よ、なぜそんなに挙動不審なのじゃ?」
宇迦之御霊が呆れ顔でこちらを見る。
「なぜって、僕にもよく分からないですけど」
「それは、木花咲耶姫はお綺麗ですから」
高良玉垂命がそう言う。
「い、いえ、そういうわけでは」
「なるほど、科斗も男という訳じゃな。ん、と言うことはワシはお綺麗ではないと!?」
高良玉垂命の皮肉に気づいたのか、宇迦之御霊はすっとんきょうな声をあげる。
「ふふ、相変わらずですね」
木花咲耶姫がクスリと笑う。
「ところで高良玉垂命殿、かの姫は息災ですか?」
木花咲耶姫は真面目な顔になって、高良玉垂命に向き直る。
「ええ、それはもう」
「…よかった」
木花咲耶姫はホッとため息をつく。
「それでは、立ち話も何ですから。社のなかに参りましょう」
木花咲耶姫が背を向けると、本殿の方に向かう。つられるようにして、彼女の背中を追う。
「あれ、人が…」
ふとあれだけ賑やかだった人たちがいないことに気づく。
「神域に入ったのですよ」
高良玉垂命が僕に追い付きつつそう答える。
いつ神域に入ったのか、人々が消える瞬間は全く気づかなかった。あるいは、自身が人だから気づけないのか。
本殿の中は、教科書で見たことがある。いわゆる、書院造りという作りになっていた。
障子や襖、床の間など、今まで上がったことのある神社と比べて一番日本的だが、やはり外見と内部は全く一致していない。
試しに障子を開けてみると、そとには人工的な建築物はなく、奥に富士山の頂が見えた。
「人が外の様子を見すぎるのは、あまり良くありません」
背後から木花咲耶姫が声をかける。
おとなしく指示に従って障子を閉める。確かにこの景色を見ていると、何か不安な気持ちにさせられた。
「神域というのはどういうものなのですか?」
つい疑問が口に出る。
木花咲耶姫は首を捻る。少しの間のあと、口を開く。
「神域は、神そのものという表現が一番近いかと思います」
神域は神そのもの、だったら目の前にいる木花咲耶姫はどんな存在なのか。
なんとなく、それを知るのはいけないような気がして、喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「ところで、宇迦之御霊殿が言っていた桜についてお話しくださいませんか?」
木花咲耶姫は座布団に正座している高良玉垂命と宇迦之御霊の方に顔を向ける。
「うむ、もちろんじゃ。その前にとりあえず座るのじゃ。ワシらだけ座って家主が立っているのは気分がすぐれんからのぉ」
宇迦之御霊は目の前にある座布団をテシテシと叩く。
木花咲耶姫はそれではという感じで、その座布団に腰を落ち着かせた。僕は高良玉垂命と宇迦之御霊の後ろに座る。
「これじゃ」
一言そう言って、宇迦之御霊が懐から取り出したのは例の桜の枝だ。相変わらず、水を必要とせずに咲き誇っている。
「これは…」
木花咲耶姫がしげしげと眺める。
「呪いとも違うような気が致します。少なくとも私の影響ではないですね」
「うむ、もう一週間以上もこの状態なのじゃ。明らかに不自然じゃろう?」
木花咲耶姫は「さわっても?」と断りをいれて、手を伸ばす。
すると、木花咲耶姫が触れるやいなや、急速に花びらが萎れ、みどりの葉が生える。その葉もそれほど時間が経たないうちに散ってしまった。
「……!」
「木花咲耶姫の神威ですかね?」
高良玉垂命が聞く。
「ええ、恐らく。桜は私自身ですから、あるべき姿に戻ろうとしたのでしょう」
桜は季節に逆らって、花を咲かせ。木花咲耶姫に触れると元の姿を取り戻す。
木花咲耶姫はそう言ってお辞儀をする。僕もつられてお辞儀をしてしまう。
この神の前では、立つことはおろか、その人の前にいること事態が、罪のような気がした。
「科斗よ、なぜそんなに挙動不審なのじゃ?」
宇迦之御霊が呆れ顔でこちらを見る。
「なぜって、僕にもよく分からないですけど」
「それは、木花咲耶姫はお綺麗ですから」
高良玉垂命がそう言う。
「い、いえ、そういうわけでは」
「なるほど、科斗も男という訳じゃな。ん、と言うことはワシはお綺麗ではないと!?」
高良玉垂命の皮肉に気づいたのか、宇迦之御霊はすっとんきょうな声をあげる。
「ふふ、相変わらずですね」
木花咲耶姫がクスリと笑う。
「ところで高良玉垂命殿、かの姫は息災ですか?」
木花咲耶姫は真面目な顔になって、高良玉垂命に向き直る。
「ええ、それはもう」
「…よかった」
木花咲耶姫はホッとため息をつく。
「それでは、立ち話も何ですから。社のなかに参りましょう」
木花咲耶姫が背を向けると、本殿の方に向かう。つられるようにして、彼女の背中を追う。
「あれ、人が…」
ふとあれだけ賑やかだった人たちがいないことに気づく。
「神域に入ったのですよ」
高良玉垂命が僕に追い付きつつそう答える。
いつ神域に入ったのか、人々が消える瞬間は全く気づかなかった。あるいは、自身が人だから気づけないのか。
本殿の中は、教科書で見たことがある。いわゆる、書院造りという作りになっていた。
障子や襖、床の間など、今まで上がったことのある神社と比べて一番日本的だが、やはり外見と内部は全く一致していない。
試しに障子を開けてみると、そとには人工的な建築物はなく、奥に富士山の頂が見えた。
「人が外の様子を見すぎるのは、あまり良くありません」
背後から木花咲耶姫が声をかける。
おとなしく指示に従って障子を閉める。確かにこの景色を見ていると、何か不安な気持ちにさせられた。
「神域というのはどういうものなのですか?」
つい疑問が口に出る。
木花咲耶姫は首を捻る。少しの間のあと、口を開く。
「神域は、神そのものという表現が一番近いかと思います」
神域は神そのもの、だったら目の前にいる木花咲耶姫はどんな存在なのか。
なんとなく、それを知るのはいけないような気がして、喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「ところで、宇迦之御霊殿が言っていた桜についてお話しくださいませんか?」
木花咲耶姫は座布団に正座している高良玉垂命と宇迦之御霊の方に顔を向ける。
「うむ、もちろんじゃ。その前にとりあえず座るのじゃ。ワシらだけ座って家主が立っているのは気分がすぐれんからのぉ」
宇迦之御霊は目の前にある座布団をテシテシと叩く。
木花咲耶姫はそれではという感じで、その座布団に腰を落ち着かせた。僕は高良玉垂命と宇迦之御霊の後ろに座る。
「これじゃ」
一言そう言って、宇迦之御霊が懐から取り出したのは例の桜の枝だ。相変わらず、水を必要とせずに咲き誇っている。
「これは…」
木花咲耶姫がしげしげと眺める。
「呪いとも違うような気が致します。少なくとも私の影響ではないですね」
「うむ、もう一週間以上もこの状態なのじゃ。明らかに不自然じゃろう?」
木花咲耶姫は「さわっても?」と断りをいれて、手を伸ばす。
すると、木花咲耶姫が触れるやいなや、急速に花びらが萎れ、みどりの葉が生える。その葉もそれほど時間が経たないうちに散ってしまった。
「……!」
「木花咲耶姫の神威ですかね?」
高良玉垂命が聞く。
「ええ、恐らく。桜は私自身ですから、あるべき姿に戻ろうとしたのでしょう」
桜は季節に逆らって、花を咲かせ。木花咲耶姫に触れると元の姿を取り戻す。
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