19 / 45
現世
人と祝
しおりを挟む
「桜の代表であるソメイヨシノは種を作りません。それゆえに今ある桜のすべては接ぎ木をしたものなのです」
木花咲耶姫は言う。
「つまり、クローンってことですか?」
高良玉垂命が問い返す。
「ええ、そうともとれます。ただ、桜はその場所、その環境でまた違った性質を表していくのです。いわば個性と言うのでしょうか」
木花咲耶姫は遠くを見るように、中空を見つめる。彼女にはこの場にはない何かが確かに見えるのだろう。
「ふむ、桜が花を咲かせているのは個性、いや意思だと、そういうことかの?」
宇迦之御霊が首を捻る。
「その可能性もあるのではないかと」
木花咲耶姫が頷く。
「しかしじゃ、この桜の木は、桜が満開に咲き誇る前に奉納されたのじゃ。それに、いくら桜に意志があろうとも、動けぬのでは奉納もできまい」
宇迦之御霊がもはやただの枝になった桜を見やる。
「確かに、それはわからぬことです」
木花咲耶姫は眉をひそめる。
「妖怪の仕業という訳ではないのでしょうか?」
少し質問してみる。
「妖怪は自然そのものじゃ。自然が自然を乱すようなことはせんと思うのじゃが」
宇迦之御霊がすかさず意見を否定する。今まで出た全ての意見は、どれも可能性の域を出ていない。
議論の余地が無くなった一同は、沈黙してしまう。耳のいたい沈黙が部屋を包み込む。
「妖怪でも神の仕業でもないなら、人…」
少しして、高良玉垂命が口を開く。
「人じゃと?」
宇迦之御霊がすっとんきょうな声をあげる。無理もない、僕も人だが桜の花を満開にさせるなど不可能だ。
「人を代表して話しますけど、ただの人がそんなことを出来るんでしょうか?」
僕の疑問に、高良玉垂命はしばらく口を閉ざす。
「…そうですね、1人ではできないかもしれません。ですが、大多数の人ならば」
「出来るのですね?」
木花咲耶姫の確認に彼女は頷く。
「ええ、古代から雨乞いや祭の類いは大勢の人によって執り行われるものです。もちろん、呪術の類いも普通は複数人でやるものです」
高良玉垂命に言葉はそこで途切れる。その先に話を進められれば、回答に近くなるような気がして。なんとなくモヤモヤとした気持ちが脳を占める。
「つまりあれかのぉ、どこか謎の団体が一年中桜を見たいと呪いでもかけておるのか?」
宇迦之御霊が首をかしげる。
「それはない」
「ないですね」
「宇迦之御霊さん…」
それぞれが宇迦之御霊を可愛そうなものでも見たように声をかける。
「な、なんじゃ?」
本気で動揺しているところを見ると、どうやら本気で発言していたらしい。
「何でもないですよ。ところで、聞き忘れていましたけど、奉納した人物って分からないのですか?」
「分からぬ」
気を取り直して、そんなことを聞いてみるが、宇迦之御霊は横に首を振る。
「知っておったら、既に話しておるな」
「そうですよね、でも奉納した人が誰か分かれば、何か掴めるかもと思うんですけど…」
「そうじゃのぉ」
宇迦之御霊が分からないというのなら、分からないのだろう。
「ところで、あの稲荷神社によく通ってた人っている?」
高良玉垂命が唐突に質問する。
「いるぞ?気のいいお婆さんじゃ。そういえば最近見ないのぉ」
宇迦之御霊が遠くを見るように、目を細める。
「…見つけた」
高良玉垂命が呟く。
「え?」
高良玉垂命はどこかつっかえが取れたような、清々しい笑顔を見せる。
「さあ、犯人の所に行きましょう」
木花咲耶姫は言う。
「つまり、クローンってことですか?」
高良玉垂命が問い返す。
「ええ、そうともとれます。ただ、桜はその場所、その環境でまた違った性質を表していくのです。いわば個性と言うのでしょうか」
木花咲耶姫は遠くを見るように、中空を見つめる。彼女にはこの場にはない何かが確かに見えるのだろう。
「ふむ、桜が花を咲かせているのは個性、いや意思だと、そういうことかの?」
宇迦之御霊が首を捻る。
「その可能性もあるのではないかと」
木花咲耶姫が頷く。
「しかしじゃ、この桜の木は、桜が満開に咲き誇る前に奉納されたのじゃ。それに、いくら桜に意志があろうとも、動けぬのでは奉納もできまい」
宇迦之御霊がもはやただの枝になった桜を見やる。
「確かに、それはわからぬことです」
木花咲耶姫は眉をひそめる。
「妖怪の仕業という訳ではないのでしょうか?」
少し質問してみる。
「妖怪は自然そのものじゃ。自然が自然を乱すようなことはせんと思うのじゃが」
宇迦之御霊がすかさず意見を否定する。今まで出た全ての意見は、どれも可能性の域を出ていない。
議論の余地が無くなった一同は、沈黙してしまう。耳のいたい沈黙が部屋を包み込む。
「妖怪でも神の仕業でもないなら、人…」
少しして、高良玉垂命が口を開く。
「人じゃと?」
宇迦之御霊がすっとんきょうな声をあげる。無理もない、僕も人だが桜の花を満開にさせるなど不可能だ。
「人を代表して話しますけど、ただの人がそんなことを出来るんでしょうか?」
僕の疑問に、高良玉垂命はしばらく口を閉ざす。
「…そうですね、1人ではできないかもしれません。ですが、大多数の人ならば」
「出来るのですね?」
木花咲耶姫の確認に彼女は頷く。
「ええ、古代から雨乞いや祭の類いは大勢の人によって執り行われるものです。もちろん、呪術の類いも普通は複数人でやるものです」
高良玉垂命に言葉はそこで途切れる。その先に話を進められれば、回答に近くなるような気がして。なんとなくモヤモヤとした気持ちが脳を占める。
「つまりあれかのぉ、どこか謎の団体が一年中桜を見たいと呪いでもかけておるのか?」
宇迦之御霊が首をかしげる。
「それはない」
「ないですね」
「宇迦之御霊さん…」
それぞれが宇迦之御霊を可愛そうなものでも見たように声をかける。
「な、なんじゃ?」
本気で動揺しているところを見ると、どうやら本気で発言していたらしい。
「何でもないですよ。ところで、聞き忘れていましたけど、奉納した人物って分からないのですか?」
「分からぬ」
気を取り直して、そんなことを聞いてみるが、宇迦之御霊は横に首を振る。
「知っておったら、既に話しておるな」
「そうですよね、でも奉納した人が誰か分かれば、何か掴めるかもと思うんですけど…」
「そうじゃのぉ」
宇迦之御霊が分からないというのなら、分からないのだろう。
「ところで、あの稲荷神社によく通ってた人っている?」
高良玉垂命が唐突に質問する。
「いるぞ?気のいいお婆さんじゃ。そういえば最近見ないのぉ」
宇迦之御霊が遠くを見るように、目を細める。
「…見つけた」
高良玉垂命が呟く。
「え?」
高良玉垂命はどこかつっかえが取れたような、清々しい笑顔を見せる。
「さあ、犯人の所に行きましょう」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
お疲れOLあかりの、今日のごほうびスイーツ
鈴樹
キャラ文芸
ルート営業OL・あかり(表示名:お疲れOL)が開設したピンスタグラムのアカウント。
ローカルコンビニ「39ストア」のスイーツ情報を中心に投稿。
頑張った自分へのごほうび✨日々の小さな幸せスイーツをお届け!
――と、見せかけて、実は甘い匂わせ満載⋯⋯!?
※本作は「お疲れOLと無愛想店員」シリーズの、あかりの架空SNS風スピンオフです。
※登場するコンビニやスイーツ情報はすべて架空です。実在するコンビニや商品とは一切関係ありません。
※本編の作中時間と連動して、随時投稿。
※未読でも、本編ストーリーの理解に支障はありませんが、読むと二度美味しい仕掛けです
※横書き表示推奨
【シリーズ作品リスト】
●本編1作目《短編集・3作品収録/完結》
『お疲れOLと無愛想店員〜雪の夜の、コンビニで』(本編/哲朗編/余話)
※あかりと哲朗、始まりの物語&黒歴史の秘密
●本編2作目《短編・全8話/完結》
『お疲れOLと無愛想店員〜春の嵐と、まわり道』
※上京とドライブデート(?)のロードムービー風のお話
●本編3作目《短編・4月上旬より作中時間と連動して公開予定》
『お疲れOLと無愛想店員〜初夏のきらめき、風のざわめき』
※全7話執筆済み。慶介メインのライトな謎解き風のお話
●本編4作目《現在構想中》
シリーズ作品タグ:
#お疲れOLと無愛想店員
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる