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現世
人と祝
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「桜の代表であるソメイヨシノは種を作りません。それゆえに今ある桜のすべては接ぎ木をしたものなのです」
木花咲耶姫は言う。
「つまり、クローンってことですか?」
高良玉垂命が問い返す。
「ええ、そうともとれます。ただ、桜はその場所、その環境でまた違った性質を表していくのです。いわば個性と言うのでしょうか」
木花咲耶姫は遠くを見るように、中空を見つめる。彼女にはこの場にはない何かが確かに見えるのだろう。
「ふむ、桜が花を咲かせているのは個性、いや意思だと、そういうことかの?」
宇迦之御霊が首を捻る。
「その可能性もあるのではないかと」
木花咲耶姫が頷く。
「しかしじゃ、この桜の木は、桜が満開に咲き誇る前に奉納されたのじゃ。それに、いくら桜に意志があろうとも、動けぬのでは奉納もできまい」
宇迦之御霊がもはやただの枝になった桜を見やる。
「確かに、それはわからぬことです」
木花咲耶姫は眉をひそめる。
「妖怪の仕業という訳ではないのでしょうか?」
少し質問してみる。
「妖怪は自然そのものじゃ。自然が自然を乱すようなことはせんと思うのじゃが」
宇迦之御霊がすかさず意見を否定する。今まで出た全ての意見は、どれも可能性の域を出ていない。
議論の余地が無くなった一同は、沈黙してしまう。耳のいたい沈黙が部屋を包み込む。
「妖怪でも神の仕業でもないなら、人…」
少しして、高良玉垂命が口を開く。
「人じゃと?」
宇迦之御霊がすっとんきょうな声をあげる。無理もない、僕も人だが桜の花を満開にさせるなど不可能だ。
「人を代表して話しますけど、ただの人がそんなことを出来るんでしょうか?」
僕の疑問に、高良玉垂命はしばらく口を閉ざす。
「…そうですね、1人ではできないかもしれません。ですが、大多数の人ならば」
「出来るのですね?」
木花咲耶姫の確認に彼女は頷く。
「ええ、古代から雨乞いや祭の類いは大勢の人によって執り行われるものです。もちろん、呪術の類いも普通は複数人でやるものです」
高良玉垂命に言葉はそこで途切れる。その先に話を進められれば、回答に近くなるような気がして。なんとなくモヤモヤとした気持ちが脳を占める。
「つまりあれかのぉ、どこか謎の団体が一年中桜を見たいと呪いでもかけておるのか?」
宇迦之御霊が首をかしげる。
「それはない」
「ないですね」
「宇迦之御霊さん…」
それぞれが宇迦之御霊を可愛そうなものでも見たように声をかける。
「な、なんじゃ?」
本気で動揺しているところを見ると、どうやら本気で発言していたらしい。
「何でもないですよ。ところで、聞き忘れていましたけど、奉納した人物って分からないのですか?」
「分からぬ」
気を取り直して、そんなことを聞いてみるが、宇迦之御霊は横に首を振る。
「知っておったら、既に話しておるな」
「そうですよね、でも奉納した人が誰か分かれば、何か掴めるかもと思うんですけど…」
「そうじゃのぉ」
宇迦之御霊が分からないというのなら、分からないのだろう。
「ところで、あの稲荷神社によく通ってた人っている?」
高良玉垂命が唐突に質問する。
「いるぞ?気のいいお婆さんじゃ。そういえば最近見ないのぉ」
宇迦之御霊が遠くを見るように、目を細める。
「…見つけた」
高良玉垂命が呟く。
「え?」
高良玉垂命はどこかつっかえが取れたような、清々しい笑顔を見せる。
「さあ、犯人の所に行きましょう」
木花咲耶姫は言う。
「つまり、クローンってことですか?」
高良玉垂命が問い返す。
「ええ、そうともとれます。ただ、桜はその場所、その環境でまた違った性質を表していくのです。いわば個性と言うのでしょうか」
木花咲耶姫は遠くを見るように、中空を見つめる。彼女にはこの場にはない何かが確かに見えるのだろう。
「ふむ、桜が花を咲かせているのは個性、いや意思だと、そういうことかの?」
宇迦之御霊が首を捻る。
「その可能性もあるのではないかと」
木花咲耶姫が頷く。
「しかしじゃ、この桜の木は、桜が満開に咲き誇る前に奉納されたのじゃ。それに、いくら桜に意志があろうとも、動けぬのでは奉納もできまい」
宇迦之御霊がもはやただの枝になった桜を見やる。
「確かに、それはわからぬことです」
木花咲耶姫は眉をひそめる。
「妖怪の仕業という訳ではないのでしょうか?」
少し質問してみる。
「妖怪は自然そのものじゃ。自然が自然を乱すようなことはせんと思うのじゃが」
宇迦之御霊がすかさず意見を否定する。今まで出た全ての意見は、どれも可能性の域を出ていない。
議論の余地が無くなった一同は、沈黙してしまう。耳のいたい沈黙が部屋を包み込む。
「妖怪でも神の仕業でもないなら、人…」
少しして、高良玉垂命が口を開く。
「人じゃと?」
宇迦之御霊がすっとんきょうな声をあげる。無理もない、僕も人だが桜の花を満開にさせるなど不可能だ。
「人を代表して話しますけど、ただの人がそんなことを出来るんでしょうか?」
僕の疑問に、高良玉垂命はしばらく口を閉ざす。
「…そうですね、1人ではできないかもしれません。ですが、大多数の人ならば」
「出来るのですね?」
木花咲耶姫の確認に彼女は頷く。
「ええ、古代から雨乞いや祭の類いは大勢の人によって執り行われるものです。もちろん、呪術の類いも普通は複数人でやるものです」
高良玉垂命に言葉はそこで途切れる。その先に話を進められれば、回答に近くなるような気がして。なんとなくモヤモヤとした気持ちが脳を占める。
「つまりあれかのぉ、どこか謎の団体が一年中桜を見たいと呪いでもかけておるのか?」
宇迦之御霊が首をかしげる。
「それはない」
「ないですね」
「宇迦之御霊さん…」
それぞれが宇迦之御霊を可愛そうなものでも見たように声をかける。
「な、なんじゃ?」
本気で動揺しているところを見ると、どうやら本気で発言していたらしい。
「何でもないですよ。ところで、聞き忘れていましたけど、奉納した人物って分からないのですか?」
「分からぬ」
気を取り直して、そんなことを聞いてみるが、宇迦之御霊は横に首を振る。
「知っておったら、既に話しておるな」
「そうですよね、でも奉納した人が誰か分かれば、何か掴めるかもと思うんですけど…」
「そうじゃのぉ」
宇迦之御霊が分からないというのなら、分からないのだろう。
「ところで、あの稲荷神社によく通ってた人っている?」
高良玉垂命が唐突に質問する。
「いるぞ?気のいいお婆さんじゃ。そういえば最近見ないのぉ」
宇迦之御霊が遠くを見るように、目を細める。
「…見つけた」
高良玉垂命が呟く。
「え?」
高良玉垂命はどこかつっかえが取れたような、清々しい笑顔を見せる。
「さあ、犯人の所に行きましょう」
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