神様の喫茶店 ~こだわりの珈琲とともに~

早見崎 瑠樹

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現世

幽かな気配

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「行くって、どこにですか?」

 おもむろに立ち上がった高良玉垂命こうらたまたれのみことを見上げる。

「稲荷神社です」

 彼女は自信満々の顔で宣言した。
 稲荷神社、予想外でも何でもなく、予想通りの答えだ。自身もそれ以外の場所は思い付かない。

「しかし、稲荷神社と言っても、あるのはワシの社だけではないかの?」

 宇迦之御霊が当然の疑問を口にする。

「それは、行けば分かると思いますよ」

 高良玉垂命があっけからんとして答える。

「ふむ、では神域から出しましょう」

 三人のやり取りを見ていた木花咲耶姫はそう言うと、両手を打ち鳴らす。

 ざわめきが耳に響き渡る。
 ふと辺りを見回すと、浅間大社の境内に戻ってきていた。空は既に赤く染まり始めている。

「うう、寒い…」

 思わず震える。脱いでいたコートを慌てて着る。秋の北風は尋常じゃなく寒い。

「あら、かなり時間が経っていたのですね。なかなか、いい時間帯です」

 横に高良玉垂命が立っている。
 気づくとその横には宇迦之御霊がいた。二人並ぶと宇迦之御霊がとても小さく見える。

「うむ、とりあえず、ワシの社に行くと何か分かるのじゃな?」

「ええ」
「よし、行くしかあるまい」

 宇迦之御霊は小さく握りこぶしを作る。

「行っていらっしゃいませ」

 いつの間にか三人の正面に立っていた木花咲耶姫が、小さくお辞儀をする。

「うむ、またのぉ」
「お世話になりました」

 2柱ふたりも軽く言葉を交わす。
 長い時を過ごす神はこの出来事もまた一瞬なのだろう。余計な言葉は要らないとばかりに、微笑みを交わす。

「さて、参ろう」

 宇迦之御霊が僕の手を握る。
 束の間、空気が変わるのを感じた。

ーー ーー ーー

 稲荷神社の、地元の匂いだ。なんとなくそう感じる。

 閉じていた目を開けると、見慣れた稲荷神社の風景が飛び込んできた。満開の桜に、朱色に染め上げられた社殿。

 しかし、その風景は幾分か赤く染まっていた。

逢魔時おうまがとき…」

 宇迦之御霊が呟く。

「逢魔時?」

 聞きなれない言葉に、思わず聞き返してしまう。

「昼と夜の境目、黄昏時のことじゃ。言葉通り、魔に逢う時という意味じゃが」

「ええ、人ではないものに逢うなら、この時間がベストです」

 高良玉垂命は肯定する。

 ふと空を見上げると、白銀に輝く龍、得たいの知れない何か、黒い影、様々なものが飛び交い。

 綺麗だ。

 心のそこから沸き上がる感情はそんなもので、人が恐れるべき時を綺麗と感じるのは、どこか不思議な感覚だ。

「桜が綺麗だねぇ」

 ふとどこからか、そんな声が聞こえた。
 透き通っていて、人間的な声ではないのに、どこか人間味溢れる。

 桜の木の下に1人の女性がいた。

 その女性はひどく美しいのに、まるで生気を感じられなかった。

 つまりあれは。

「幽霊…」

 小さく呟く。
 あれほど、存在感があるのに不思議とそこにはいないのだと感じる。

 死してなお、この世に残り続ける人は何を思うのか。平将門たいらのまさかどのように怨霊になるのも、強い意思ゆえだ。

「あの女性の霊が桜に花を咲かせる媒体になっているようです」

 高良玉垂命が言う。
 そして、宇迦之御霊に顔を向けるとこう続ける。

「あの人が誰か知っているよね?」

「……ああ、よく来てくれていたお婆さんじゃ」

 宇迦之御霊はその女性を見つめる。

 とても、おばあさんに見えない風貌だが、何処かしっくりくる。あの女性からは人としての時間の重みが漂っているのだ。
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