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現世
おくり
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稲荷神社でお茶をすませた後、僕たちはおばあちゃんの家に赴いていた。
そこはいたって普通の一軒家だった。
最近流行りの平たい屋根に、薄紅色のレンガの壁だ。
神社からの距離も比較的近く、散歩するにはうってつけの距離だろう。
「…いま思い出しましたけど、高良玉垂命さんたちは見えないんですよね?」
「ん、そうじゃな。じゃから、家族とこみゅにけーしょんをとれるのはお主だけじゃな」
宇迦之御霊はぽんと僕の肩を叩く。
ただ、背が足りなかっため、背伸びをしている。
「身長が憎い」
宇迦之御霊はうぐぐと唸る。
「そうですね、科斗さんおねがいできますか?」
高良玉垂命はそんな宇迦之御霊を横目に、苦笑いをする。
「ええ、もちのろんです」
僕は頷く。
インターホンをならす。インターホンの隣には藤原と書かれた表札があった。
間もなくして、若い女性の声が聞こえてきた。
「はい、どちら様ですか?」
僕は答えようとして、言葉に詰まる。僕はどちら様なのか。
「……えっと、おばあちゃんと、藤原さんと知り合いだったものです」
少し迷ってそう答える。
「おばあちゃんと!?」
インターホン越しに驚いた声が聞こえてくる。
「少し待っていてくださいね」
女性はそう言うと、インターホンの通話が切れる。
「若い声じゃったな、お主と同い年くらいかもしれんの」
「ええ、そうかもしれないです」
僕の祖父母はまだ他界していない。
この世から、知る命が消えるというのは、どのようなことなのだろうか。
死んでもこの世に居続ける魂もある。また、逝ってしまうのもまた然り。
しばらくすると玄関が開き、若い女性が出てきた。どこか不安そうなその顔は、僕が不審者ではないかと心配なのだろうか。
「はじめまして、藤原です。お一人ですか?」
女性は回りを見渡すとそう言う。
「ええ、そうです」
「…そうですか」
女性は少し困った表情をして、ここではなんですからと自宅に招き入れてくれた。
家はつい最近まで使われていたであろう杖や、少し古い雑貨がそのまま残されていた。
「昨日、葬儀を挙げて、今日はこの小物類を整理しようと思ってたんです」
女性はリビングに残された物々を眺めてそう言う。
「まあ、手をつけられなかったんですけどね」
「……そうなんですね」
女性は椅子に座るように促すと、お茶をいれますからと言って、台所に向かう。
「居心地が良い家じゃな」
宇迦之御霊はいう。
宇迦之御霊と高良玉垂命はそれぞれ思い思いの所に腰を下ろしている。
ただ、物を動かさないように注意している。椅子にでも座ろうものなら、ポルターガイストそのものなのだ。
「どうぞ、それでおばあちゃんとはどこで知り合ったんですか?」
女性はテーブルに麦茶を二つ置くと、正面の椅子に腰を据えた。
ちらりと宇迦之御霊に視線を見ると、少し肩を竦めてそっぽを向いた。
「…えっと、近所の稲荷神社で」
「ああ、そこなんですか、おばあちゃんのお決まりの散歩コースで、ちっちゃい頃は私もよくついて行っていました」
女性は懐かしそうに、目を細めて。
彼女は高良玉垂命の方を見やる。そこには使い込まれた杖が立て掛けられている。
「足が悪くなって杖をついてでも、毎日のように神社に行ってたんです」
「…そうなんですね」
そんな返事しか出来ない。
おばあちゃんのことを全く知らないから。
「あの、あなた……」
「あ、篠ノ木 科斗です」
「篠ノ木さんは、篠ノ木さんにとっておばあちゃんはどういう人でしたか?」
女性は聞く。
僕にとっておばあちゃんは。
「……儚く光っていて、桜が好きな人です」
生前のおばあちゃんを知らない。であれば、今のおばあちゃんを答えるしかない。
ただ、おばあちゃんが生きていても、そう答えたと思う。
「あの、もう一度、おばあちゃんと桜を見てくれませんか?」
そこはいたって普通の一軒家だった。
最近流行りの平たい屋根に、薄紅色のレンガの壁だ。
神社からの距離も比較的近く、散歩するにはうってつけの距離だろう。
「…いま思い出しましたけど、高良玉垂命さんたちは見えないんですよね?」
「ん、そうじゃな。じゃから、家族とこみゅにけーしょんをとれるのはお主だけじゃな」
宇迦之御霊はぽんと僕の肩を叩く。
ただ、背が足りなかっため、背伸びをしている。
「身長が憎い」
宇迦之御霊はうぐぐと唸る。
「そうですね、科斗さんおねがいできますか?」
高良玉垂命はそんな宇迦之御霊を横目に、苦笑いをする。
「ええ、もちのろんです」
僕は頷く。
インターホンをならす。インターホンの隣には藤原と書かれた表札があった。
間もなくして、若い女性の声が聞こえてきた。
「はい、どちら様ですか?」
僕は答えようとして、言葉に詰まる。僕はどちら様なのか。
「……えっと、おばあちゃんと、藤原さんと知り合いだったものです」
少し迷ってそう答える。
「おばあちゃんと!?」
インターホン越しに驚いた声が聞こえてくる。
「少し待っていてくださいね」
女性はそう言うと、インターホンの通話が切れる。
「若い声じゃったな、お主と同い年くらいかもしれんの」
「ええ、そうかもしれないです」
僕の祖父母はまだ他界していない。
この世から、知る命が消えるというのは、どのようなことなのだろうか。
死んでもこの世に居続ける魂もある。また、逝ってしまうのもまた然り。
しばらくすると玄関が開き、若い女性が出てきた。どこか不安そうなその顔は、僕が不審者ではないかと心配なのだろうか。
「はじめまして、藤原です。お一人ですか?」
女性は回りを見渡すとそう言う。
「ええ、そうです」
「…そうですか」
女性は少し困った表情をして、ここではなんですからと自宅に招き入れてくれた。
家はつい最近まで使われていたであろう杖や、少し古い雑貨がそのまま残されていた。
「昨日、葬儀を挙げて、今日はこの小物類を整理しようと思ってたんです」
女性はリビングに残された物々を眺めてそう言う。
「まあ、手をつけられなかったんですけどね」
「……そうなんですね」
女性は椅子に座るように促すと、お茶をいれますからと言って、台所に向かう。
「居心地が良い家じゃな」
宇迦之御霊はいう。
宇迦之御霊と高良玉垂命はそれぞれ思い思いの所に腰を下ろしている。
ただ、物を動かさないように注意している。椅子にでも座ろうものなら、ポルターガイストそのものなのだ。
「どうぞ、それでおばあちゃんとはどこで知り合ったんですか?」
女性はテーブルに麦茶を二つ置くと、正面の椅子に腰を据えた。
ちらりと宇迦之御霊に視線を見ると、少し肩を竦めてそっぽを向いた。
「…えっと、近所の稲荷神社で」
「ああ、そこなんですか、おばあちゃんのお決まりの散歩コースで、ちっちゃい頃は私もよくついて行っていました」
女性は懐かしそうに、目を細めて。
彼女は高良玉垂命の方を見やる。そこには使い込まれた杖が立て掛けられている。
「足が悪くなって杖をついてでも、毎日のように神社に行ってたんです」
「…そうなんですね」
そんな返事しか出来ない。
おばあちゃんのことを全く知らないから。
「あの、あなた……」
「あ、篠ノ木 科斗です」
「篠ノ木さんは、篠ノ木さんにとっておばあちゃんはどういう人でしたか?」
女性は聞く。
僕にとっておばあちゃんは。
「……儚く光っていて、桜が好きな人です」
生前のおばあちゃんを知らない。であれば、今のおばあちゃんを答えるしかない。
ただ、おばあちゃんが生きていても、そう答えたと思う。
「あの、もう一度、おばあちゃんと桜を見てくれませんか?」
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