神様の喫茶店 ~こだわりの珈琲とともに~

早見崎 瑠樹

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現世

花見

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 なんとなく、勢いのままに花見を誘ってみたのだけど、藤原さんは二つ返事で行くと答えてくれた。

「では、今日の9時頃に」

 僕はそう言って立ち上がる。

「はい」

 藤原さんも立ち上がり、ふと台所の方に目を向ける。そこには、宇迦之御霊が珈琲メーカーをしげしげと見つめていた。

 彼女には何が見えたのか、一瞬だけ険しい顔をする。

「藤原さん?」
「……あ、いえ」
 
「あの人の子はわしらのことが見えておるな」

 藤原さんの家を出たあと、ふと宇迦之御霊はそんなことを言ってきた。

「え?」
「そうですね、あきらかに私たちを認識していました」

 高良玉垂命も頷く。
 つまり、宇迦之御霊の方を見ていた訳ではなく、宇迦之御霊を見ていたということだ。

「そういえば、最初にって聞かれましたけど…」

「うむ、わしらが見えていたから確認したのじゃろう。科斗だけであれば人数など確認する意味がないからのぉ」

 つまりあの時、『3人です』と答えていれば、何かが変わったのだろうか。

 ただ、彼女ら神々を見て、険しい顔をしたり、不安そうな顔をするということは、彼岸の者に良い経験がないと言うことだろう。

 僕のように、幼い頃から怪異が見えていたのか、はたまた突然見えるようになったのか。

 ただ、藤原さんはこれらのことで苦労してきたのだと感じた。

「僕にとって、妖怪や神様がいることは自然なことなんです」

「ふむ…」

「……彼女にとってもそうなんでしょうか」

 初めて見える人に会ったというのに、溢れ出る感情は不安ばかりで。

 僕が見ている世界と彼女が見ている世界はまた違ったものなのだと、いつかわかり会える日が来れば良いと思った。

ーー ーー ーー

 夜がふけた。
 相も変わらず満開の桜、そして晴天の夜空には美しい満月。

 ここはまるで小説の中の1ページのように美しく輝いていた。

「月が綺麗ですね」

 横にいる高良玉垂命がそんなことをのたまう。

 夏目漱石の一節だが意味を知っていて使っているのか、はたまた普通に月が綺麗と言っているだけなのか。

「ええ、とても」

 僕は月には目を向けず、そう言う。
 というのも、おばあちゃんがいないのだ。

「今日は桜を見にこないんですか」

 どこにいるともわからない、幽霊に声をかける。

 当然のことながら、返事が帰ってくることはなく、かわりに宇迦之御霊が答える。 

「時期に来る」

 その声は確信に道溢れていて。
 かすかに京訛りがあった。


「篠ノ木さん、今日はありがとうございました」
 声がした方を見ると、藤原さんが立っていた。

 その右手は、若い姿のおばあちゃんに繋がれていて、おばあちゃんはニコニコと笑っていた。

「おばあちゃんに会えました。まさか若いときはこんなにも綺麗だなんて」

 藤原さんは笑う。

「お母さんはもう居なくて、お父さんは仕事が忙しくて、おばあちゃんが死んじゃったときはどうしようって」

 聞かなくても、溢れる言葉はとても暖かい。
 ああ、彼女は間違いなく、おばあちゃんが好きだったんだと。

 その夜の桜は間違いなく、この日の本の中でも一番美しく咲き誇っていた。
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