神様の喫茶店 ~こだわりの珈琲とともに~

早見崎 瑠樹

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現世

人の意思

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「神様、ありがとうございます」

 そう言ったのはおばあちゃんだ。

「うむ」
「お陰さまで、心残りはないです」

 おばあちゃんの言葉は生気がない。

 ただ、その言葉は何故か心に突き刺さる。それは、死者だからなのか、それとも生きたゆえに刺さるのか。

 ただの御礼の言葉にこれほど想いを込められるのだと。

「あなたは神を、妖怪を見られるのですね」

 藤原さんが僕に声をかける。
 藤原さんはおばあちゃんを見る。僕と同じ、幽霊を見るという行動。

 ただ、その意味は藤原さんと僕では、大きな壁があると、そんな気がした。

「ええ、見えます。それはもう、幼い頃からずっと」
「そうなんですか、私もです」

 並んで桜を見上げる。

「これも、怪異なのでしょう?」
「ええ」

「綺麗なものなのですね。他の人には見えないのが残念です」

 藤原さんは悲しそうに目を細める。

「はい、本当に」

 ふと見ると、宇迦之御霊とおばあちゃんが楽しそうに話している。

 何を話しているのか気になったが、どこか聞いては行けない気がして。

「楽しそうですね」

 二人の様子を見て、思わず声が漏れる。

「はい」

ーー ーー ーー

 ふと見ると、満月は真上に上り、桜はいつになく輝いていた。

「ありがとう」

 ふと、おばあちゃんが藤原さんにそんな言葉をもらす。

「いくの?」
「そうだよ」

 紡がれる言葉は短い。

「本当に寂しくなるよ」
「嬉しいな。寂しいと思ってくれる人がいるんだよ」

 孫は悲しく顔を歪め、祖母は笑顔を作る。
 まるで、太陽があると、必ず影ができるように。

「おばあちゃんはもういなくなっちゃうの?」
「そうだよ、もういないのよ。だから、笑ってね」

 おばあちゃんは孫の頬をそっと触れる。

「……………うん、わかった」

 藤原さんの頬にはうっすらと涙が流れていた。

 おばあちゃんは頷くと宇迦之御霊、僕の方に向き直り、お辞儀をした。

 次の瞬間、おばあちゃんの姿は消えていた。

「桜が…!」

 桜の花が一斉に散り始めていた。
 何千という花びらが、地面については光と共に消え。さながら、命が消え行く光ともいうべきだろうか。

「さようなら」

 藤原さんが出した声は寒空の下に消えた。

ーー ーー ーー

 数日後…。

「藤原さんって高校生だったの!?」

 例のように喫茶店にいた僕はすっとんきょうな声をあげる。

「はい、そうなんです。なので藤原さんはやめてください。せめて呼び捨てか、夏奈子かなこと呼んでほしいです」

 大人びた印象や、丁寧な口調のせいで僕と同じくらいか、少なくとも大学生だと思っていた。

「久しぶりに、声をだして驚いてしまったよ」
「そうですか?」

 隣の席に座っている夏奈子はクスクスと笑う。

「どうぞ、珈琲です」

 高良玉垂命がカウンターの向こう側から黒々とした珈琲をだした。

 今日の珈琲はいつにもまして良い香りだ。

「わあ、良い香りですね!」

 夏奈子が歓声をあげる。

 二人の人と神様がひとり、この奇妙な空間が心地よく感じるのは不思議なことだろうか。
 間もなく、10月も終わりに近づく。
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