神様の喫茶店 ~こだわりの珈琲とともに~

早見崎 瑠樹

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ひととなか

高良大社

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 ますます秋の気配が近づく。

 ここは高良大社こうらたいしゃ、あの高良玉垂命を主祭神とする神社だ。

 筑後国一宮で、筑後に住むものならば絶対に耳にしたことがある神社なのだ。

 巨大な拝殿は最近まで工事が行われていたせいか、どこか輝いているように見える。

「大きいですね…」

 横でそう声を漏らしたのは夏奈子だ。
 いつも通り、喫茶店に行ってみたのだが、もう出雲にいってしまったのか、扉には休業中と書かれた札が貼ってあった。

 そこで、夏奈子と出くわしたわけだ。

「高良大社は初めて来ました」

 夏奈子が言う。

「僕は小さい頃に何度か」

 思えばその時に高良玉垂命に会っていたかもしれないのだ。ただ、流石に記憶が古すぎて思い出せない。

 たくさんの神々を見てしまった今となっては、神が存在しない神社で参拝するのは意味があるのかと思う。

 とは言っても賽銭を入れ、二礼二拍手一礼をすると、なんとなく清々しい気持ちになるのは気のせいではないだろう。

「お主は誰だ?」

 ふと、低く深い声が聞こえてくる。
 後ろを見ると黒装束の男が降り立つところだった。長めの黒髪に、黒い服、黒いブーツ、よく見ると爪も黒い。

「…篠ノ木 科斗です」

 恐る恐る、名前を答える。

「そうか、君が。いつも我が主が世話になっている」

 黒装束の男は頭を下げた。

「そして君は」
「藤原 夏奈子と言います」

 黒装束の男は、興味深そうにこちらをみる。顔立ちが整いすぎていると言うか、イケメンすぎて直視できないというのはこういうことだ。

「…えと、あなたは一体」
「ああ、申し遅れた。我は高良玉垂命が神使、珠呼たまよび

 黒装束を改め珠呼はそうのたまう。

「神使って確か、動物でしたよね?」

 首をかしげる。

「ああ、我はからすだ」
「ええ!?」

 夏奈子が信じられないといった具合の声をあげる。

「うむ、実際に見た方が早いだろう」

 珠呼は言うが早いか、風切り音とともに姿を変える。

「蒼い……」

 思わず言葉を失う。
 それほど美しい蒼の烏がそこにはいた。

「この姿こそ、我が主の化身」

 蒼き烏は言う。
 なるほど、宇迦之御霊の狐もそうだが、高良玉垂命の化身が烏というのはどこかしっくり来る。

「今さらなのだが、ここへは何をしにきたのだ?」

 まばたきをする間に人の姿に戻った珠呼は質問する。

 何をしにと言われても、喫茶店が空いてなかったから来てみただけなのだが、とりあえず。

「喫茶店が開いてなかったので…」 

 と言うことにする。

「あの喫茶店か、我が主も物好きなことよ」

 珠呼は頷く。

「いつのことだったかな、我が主が飯屋を開きたいと言ったのは」

「え、喫茶店の前にもお店を開いていたんですか」

「そうだ。なにせ、神にとってこの世は暇すぎるのだろう」

 素直に驚きだ。
 確かに、神は遥か昔から存在していたのだし、喫茶店の前にも店を開いていたとしても不思議なことではない。

「神にとって…」

 この世は暇なのか。
 人でさえ暇をもて余すのだ。神が忙しくしている姿は、確かに想像できない。

「時に科斗、それと夏奈子よ、一つ頼まれてはくれないか」

 その時に言われたことは何とも普通のことと言うか、何と言うか。妻の帰りを心配する夫と表現すべきだろうか。

「主がどうしているか、出雲に行って見てきてくれないか?」
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