神様の喫茶店 ~こだわりの珈琲とともに~

早見崎 瑠樹

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かわの絵

小さな妖怪

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「また少し大きくなったかな?」

 目線の先には、例の川の華の絵がある。

 先日見たときは、ついていなかったはずの岩に華が広がっているのだ。

 人夜途が言うには、このままあの絵を放置すれば、ここら一帯は住めなくなってしまうらしい。ただ、ここら一帯が住めなくなってしまうことが、自然に戻ることなら、この絵を消してしまうのは正しいことなのだろうか。

 そもそも、なぜこの華は突如として現れたのか。理由もわからなければ、消すと言うのは二の次だ。

 少し見てみるか。

 よく見てみようと、土手から川辺に下っていく。草がまばらに生えていて、整地されていないので、歩きにくい。
 
「ッギャ…」

 変な音が聞こえた。
 辺りを見回すもなにも見当たらない。

「ん、気のせいだったかな…」

「気のせいじゃないわぃ!!!」

「……え、うわっ」

 思わず声が漏れる。

 というのも、その声の主は足下にいたからだ。背丈は膝丈くらいだろうか、黒装束に目と口だけぽっかりと穴が開いた面を被っている。

 ちょうどお腹の辺りに靴の跡がついているところを見ると、寝ているところを踏みつけてしまったようだ。

「まったく、これだから人の子とは恐ろしいものじゃ」

「ご、ごめんなさい…」

 とりあえず足下で喚く妖怪に頭を下げておく。

「………しゃ…」

「しゃ?」

「しゃべったぁぁぁぁぁああ!!」

 妖怪は悲鳴をあげた。

 思わず耳をふさぐ。
 失礼な。人がしゃべることがそんなに珍しいのか。

「喋るよ。人なんだから」

「……ぇ、ぇぇぇえええ!」

「うるさいよっ」

「えっ………」

 ぴしゃりと言うと、妖怪は喉が詰まったかのように叫ぶのを止めた。

ーー ーー ーー

「落ち着いた?」

「落ち着きました」

 しばらく経って、小さな妖怪は落ち着きを取り戻した。

 


「まさか、人の子が私を見ることができるとは…」

「やっぱり、珍しい?」

「珍しいだなんてとんでもない。私が前に天眼の人の子を見かけてから、80個の冬を数えられるだろうよ」

「そうなんだ…」

 妖怪の言葉に相づちをうつ。

 80個も冬を越したと言うことは、少なくとも80年前からこの妖怪は生きていたわけで。お面で隠されてはいるが、もしかしたら素顔はお爺さんなのかもしれない。

「ところで人の子よ」

科斗しなと…と言います」

「……ふむ、科斗よ。お主はこんなところに何用なのじゃ? 人の子は固い石の上を歩くものだろう?」

 小さな妖怪は名前を言い直し、そう問う。
    
「ああ、華の絵を見たくて」

「華の絵?」

「あそこにある白色の……」

 小さな妖怪にもわかるように、かがんで指し示す。

「ん、ああ、印か。お主にはあれも見えるのだな。面妖な人の子よ」

「面妖さだったら、君ほどじゃないと思うけど。ところで君の名前は?」

「む、まだ名乗っていなかったか。我が名は、ぃ………。いや、真名を名乗るわけにはいかんな」

 小さな妖怪はここで少し言葉を切って、ひとしきり考えた後、口を開く。

「……こほん、我が名は刻読ときよみ

「…よろしく、刻読」

「人の子に名を名乗るのも、いつ以来になるか…」

 刻読は感慨深げな表情を作るが、あいにくその表情はわからない。お面の表情は相変わらずまぬけだ。

「ところで刻読はこの川辺によく来るのか?」

「ああ、来るぞ。昼寝をしにな」

「だったら、この印を誰が描いたか知らない?」
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