39 / 45
かわの絵
小さな妖怪
しおりを挟む
「また少し大きくなったかな?」
目線の先には、例の川の華の絵がある。
先日見たときは、ついていなかったはずの岩に華が広がっているのだ。
人夜途が言うには、このままあの絵を放置すれば、ここら一帯は住めなくなってしまうらしい。ただ、ここら一帯が住めなくなってしまうことが、自然に戻ることなら、この絵を消してしまうのは正しいことなのだろうか。
そもそも、なぜこの華は突如として現れたのか。理由もわからなければ、消すと言うのは二の次だ。
少し見てみるか。
よく見てみようと、土手から川辺に下っていく。草がまばらに生えていて、整地されていないので、歩きにくい。
「ッギャ…」
変な音が聞こえた。
辺りを見回すもなにも見当たらない。
「ん、気のせいだったかな…」
「気のせいじゃないわぃ!!!」
「……え、うわっ」
思わず声が漏れる。
というのも、その声の主は足下にいたからだ。背丈は膝丈くらいだろうか、黒装束に目と口だけぽっかりと穴が開いた面を被っている。
ちょうどお腹の辺りに靴の跡がついているところを見ると、寝ているところを踏みつけてしまったようだ。
「まったく、これだから人の子とは恐ろしいものじゃ」
「ご、ごめんなさい…」
とりあえず足下で喚く妖怪に頭を下げておく。
「………しゃ…」
「しゃ?」
「しゃべったぁぁぁぁぁああ!!」
妖怪は悲鳴をあげた。
思わず耳をふさぐ。
失礼な。人がしゃべることがそんなに珍しいのか。
「喋るよ。人なんだから」
「……ぇ、ぇぇぇえええ!」
「うるさいよっ」
「えっ………」
ぴしゃりと言うと、妖怪は喉が詰まったかのように叫ぶのを止めた。
ーー ーー ーー
「落ち着いた?」
「落ち着きました」
しばらく経って、小さな妖怪は落ち着きを取り戻した。
「まさか、人の子が私を見ることができるとは…」
「やっぱり、珍しい?」
「珍しいだなんてとんでもない。私が前に天眼の人の子を見かけてから、80個の冬を数えられるだろうよ」
「そうなんだ…」
妖怪の言葉に相づちをうつ。
80個も冬を越したと言うことは、少なくとも80年前からこの妖怪は生きていたわけで。お面で隠されてはいるが、もしかしたら素顔はお爺さんなのかもしれない。
「ところで人の子よ」
「科斗…と言います」
「……ふむ、科斗よ。お主はこんなところに何用なのじゃ? 人の子は固い石の上を歩くものだろう?」
小さな妖怪は名前を言い直し、そう問う。
「ああ、華の絵を見たくて」
「華の絵?」
「あそこにある白色の……」
小さな妖怪にもわかるように、かがんで指し示す。
「ん、ああ、印か。お主にはあれも見えるのだな。面妖な人の子よ」
「面妖さだったら、君ほどじゃないと思うけど。ところで君の名前は?」
「む、まだ名乗っていなかったか。我が名は、ぃ………。いや、真名を名乗るわけにはいかんな」
小さな妖怪はここで少し言葉を切って、ひとしきり考えた後、口を開く。
「……こほん、我が名は刻読」
「…よろしく、刻読」
「人の子に名を名乗るのも、いつ以来になるか…」
刻読は感慨深げな表情を作るが、あいにくその表情はわからない。お面の表情は相変わらずまぬけだ。
「ところで刻読はこの川辺によく来るのか?」
「ああ、来るぞ。昼寝をしにな」
「だったら、この印を誰が描いたか知らない?」
目線の先には、例の川の華の絵がある。
先日見たときは、ついていなかったはずの岩に華が広がっているのだ。
人夜途が言うには、このままあの絵を放置すれば、ここら一帯は住めなくなってしまうらしい。ただ、ここら一帯が住めなくなってしまうことが、自然に戻ることなら、この絵を消してしまうのは正しいことなのだろうか。
そもそも、なぜこの華は突如として現れたのか。理由もわからなければ、消すと言うのは二の次だ。
少し見てみるか。
よく見てみようと、土手から川辺に下っていく。草がまばらに生えていて、整地されていないので、歩きにくい。
「ッギャ…」
変な音が聞こえた。
辺りを見回すもなにも見当たらない。
「ん、気のせいだったかな…」
「気のせいじゃないわぃ!!!」
「……え、うわっ」
思わず声が漏れる。
というのも、その声の主は足下にいたからだ。背丈は膝丈くらいだろうか、黒装束に目と口だけぽっかりと穴が開いた面を被っている。
ちょうどお腹の辺りに靴の跡がついているところを見ると、寝ているところを踏みつけてしまったようだ。
「まったく、これだから人の子とは恐ろしいものじゃ」
「ご、ごめんなさい…」
とりあえず足下で喚く妖怪に頭を下げておく。
「………しゃ…」
「しゃ?」
「しゃべったぁぁぁぁぁああ!!」
妖怪は悲鳴をあげた。
思わず耳をふさぐ。
失礼な。人がしゃべることがそんなに珍しいのか。
「喋るよ。人なんだから」
「……ぇ、ぇぇぇえええ!」
「うるさいよっ」
「えっ………」
ぴしゃりと言うと、妖怪は喉が詰まったかのように叫ぶのを止めた。
ーー ーー ーー
「落ち着いた?」
「落ち着きました」
しばらく経って、小さな妖怪は落ち着きを取り戻した。
「まさか、人の子が私を見ることができるとは…」
「やっぱり、珍しい?」
「珍しいだなんてとんでもない。私が前に天眼の人の子を見かけてから、80個の冬を数えられるだろうよ」
「そうなんだ…」
妖怪の言葉に相づちをうつ。
80個も冬を越したと言うことは、少なくとも80年前からこの妖怪は生きていたわけで。お面で隠されてはいるが、もしかしたら素顔はお爺さんなのかもしれない。
「ところで人の子よ」
「科斗…と言います」
「……ふむ、科斗よ。お主はこんなところに何用なのじゃ? 人の子は固い石の上を歩くものだろう?」
小さな妖怪は名前を言い直し、そう問う。
「ああ、華の絵を見たくて」
「華の絵?」
「あそこにある白色の……」
小さな妖怪にもわかるように、かがんで指し示す。
「ん、ああ、印か。お主にはあれも見えるのだな。面妖な人の子よ」
「面妖さだったら、君ほどじゃないと思うけど。ところで君の名前は?」
「む、まだ名乗っていなかったか。我が名は、ぃ………。いや、真名を名乗るわけにはいかんな」
小さな妖怪はここで少し言葉を切って、ひとしきり考えた後、口を開く。
「……こほん、我が名は刻読」
「…よろしく、刻読」
「人の子に名を名乗るのも、いつ以来になるか…」
刻読は感慨深げな表情を作るが、あいにくその表情はわからない。お面の表情は相変わらずまぬけだ。
「ところで刻読はこの川辺によく来るのか?」
「ああ、来るぞ。昼寝をしにな」
「だったら、この印を誰が描いたか知らない?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
