神様の喫茶店 ~こだわりの珈琲とともに~

早見崎 瑠樹

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かわの絵

逆鱗

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「知らぬな」

 刻読ときよみはあっさりとそう宣う。
 
 野良の妖怪であれば何かを知っているかと少し期待していたが、どうやら知らないようだ。 

「本来、この川は竜の住処ゆえ。思えばこの花の模様は、その竜の鱗模様にも見えるな」

 刻読は顎と思われる面の部分を撫でながら、そんなことを言う。

「竜の鱗模様か……」

 今まで花と思っていた模様は、実は鱗模様だった可能性があるわけだ。

 竜の鱗と言って思い付く有名な言葉と言えば、逆鱗だ。竜には体のどこか一つにだけ、逆方向に生えた鱗があると言う。その鱗は竜を竜足らしめるものであり、それでいて最大の弱点でもある。
 
 この絵がもし花ではなく、逆鱗を表しているのだとしたら、それは竜の力そのものを意味しているのか。

「なぁ、1つ聞いていいかな?」

「勿論だ」

 刻読は深くうなずく。

「竜は逆鱗が最大の弱点だよね。だったらその逆鱗を取り除いたときはどうなるの?」 

「逆鱗は竜の鱗のなかでも特に特殊だ。竜そのものといってもいい。いかに大きく、特殊な蜥蜴や蛇だろうと、逆鱗がない限りそれらはただの妖怪だの」

「…なるほど」

 続きを促すように、頷く。

「竜から逆鱗をとると言うのは、竜にとって死と同義だろうの。竜は竜を失い、ただの妖怪に成り下がる。実際に竜を封印するには逆鱗をとり、それを荒御霊あらみたまとして祀り上げるのが定石じゃ」

「……荒御霊ね。つまり、この川にもそれを祀っている祠があるというわけか?」

「ふむ、間違いないだろうな」

 刻読は頷く。

 この川に印が現れたということは、その封印が解かれた。もしくは解かれようとしていると見て間違いなさそうだ。

 さりとて、とりあえずの目標は祠がどこにあるのか見つけることになる。

「ちなみに、祠がある場所って知らないですよね?」

「すまんの。少し前までは此処等に気配があったのじゃがの。いまは消えてしまっているようだな」

「気配というのは?」

「逆鱗が出していると言うべきかの。おーらと言うべきか」

 オーラが消えている。と言うことは、祠が無くなっているといる、もしくは封印が解かれているということだが。

「なあ、少し前までここの近くでオーラがでてんだよね?」

「うむ、間違いないはずだ」

「それをに感じたのは、いつだったか覚えてる?」

「………そうじゃな、10年程前じゃったか」

「…それって、最近のことかな」

 10年前と言えば、この川の河川工事を行っていた時期である。小学校のとき通学路でここら辺は見ていたので、よく覚えている。

 その工事では堤防を一度壊し、人工的な素材で堤防を作り直していた。

 ならば、ここらの何処かにあったはずの祠は、壊されてしまっているのではないか。

「封印が解かれた逆鱗はどうなる?」

「ふむ……、逆鱗は竜そのもの。その逆鱗から竜は新たに生まれてくる」

「だとしたら、この絵は……」

 逆鱗の封印が解かれたから、現れたのだ。

 先日までは妖怪の仕業だと思っていたことも、じつはこの絵こそが妖怪だと言って他ならないわけで。

「絵を消すんじゃなく、封印された竜の本体を探す必要があるのか…」
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