神様の喫茶店 ~こだわりの珈琲とともに~

早見崎 瑠樹

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かわの絵

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人夜途ひとのよみちや」

 ここは森深いところにある社の前。そこに老人とも子供とも聞こえるような声が響く。

 そこにいたのは真っ白な蛇。よく見ると蛇との境界はひどく曖昧で、時折陽炎のように揺らめいている。

 どうやらこの社の主に用があるようだ。

「………どなたかな?」

 しばらくすると、ギギッと小さな軋みをたてて社の戸が開き、人夜途が顔を除かせた。

 寝起きだったのか、人夜途の髪は乱れており、瞼は半開きだ。

「ぉお、人夜途よ。ある意味でわしらにとっては始めましてと言うべきであるか」

 蛇は一言そう述べて、深々と頭を垂れる。

「……えっと、僕は君のこと知らないんだけど」

 人夜途は怪訝そうに蛇を見つめる。

「わしは灯飛川ひとびかわの主、そなたの逆鱗じゃ」

「僕の逆鱗?」

「そうじゃ」

 人夜途のおうむ返しに、蛇は頷く。

「逆鱗は竜が持つものだったはず。僕はさとりという妖怪だよ?」

 人夜途は社の縁に腰掛けながら、そう問い返す。故に人違いではないかと。

「……ふむ、そなたは覚であるから、竜ではないということじゃな?」

「そういうこと」

「……覚とは記憶を操る妖怪じゃ。記憶を操れるのは他だけなのかね?」

「それは、自分の記憶も含めて………、」

 そこまで答えて、ふと気づく。

 朧気は人夜途の記憶を自分自身のものだと勘違いしていた。だとすれば、人夜途自身が持っている記憶は、本当に自分のものだと言い切れるのか。

 自分が竜であったときの記憶を誰かに受け渡し、竜だったという事実を消しているのだとしたら。

「人夜途よ、そなたは竜じゃ」

 蛇は宣言する。

「逆鱗の封印はすでに解かれておる。印はあと1ヶ月もすれば完成し、新たな竜が生まれるじゃろう。さすれば、あの川はまた暴れ川となり、人や妖怪の住み処は水に沈む」

「それを防ぐ手だては…?」

 人夜途は頭を押さえる。

 生まれてこのかた、頭痛などしたことはなかったのに、今はひどく痛い気がする。

「わしを封印するか、殺すことじゃ」

「こ、殺す…?」

「竜の記憶を取り戻し、わしを殺せ」

 蛇はたたみかけるように言う。

「…………わかった。兎にも角にも、全ては記憶をとりもどしてからだ」

ーー ーー ーー

 ここは稲荷神社の中、こたつを囲むのは二人と一柱と一匹。黒々とした珈琲と煎餅を前に、それぞれが難しい表情で佇んでいた。

「……それで、その竜がどこにいるか知らないですか?」

 僕は面々に、特に狐と宇迦之御魂うかのみたまに向けて言う。

「そうじゃのぉ、残念じゃが逆鱗が封印されていた祠は知っているんじゃが、居場所まではしらんの」

「私も宇迦様と同じです」

 狐と一柱は首を横に降る。

「そもそも、我が此処等に来たのは最近のこと、古くからは京に社を構えとったからじゃ」

 京にある稲荷と言えば、伏見稲荷大社。九州に稲荷が広がったのは、人世になってからのことだ。

「ただ、噂には聞いておった。九州には荒竜がおると、かの姫がそれを従わせただとか」

「かの姫…?」

 夏奈子がおうむ返しに聞き返す。かの姫と言えば、神同士の会話で時々出てくる言葉だ。

「武神、息長帯比売命おきながたらしひめのみことのことじゃ。世間では神功皇后と言われているかの」

 息長帯比売命といえば、三韓征伐を指揮したと言われていて、八幡神の母にあたる神である。

「かの姫はいまどこに…?」

 僕は宇迦之御魂に問う。

 息長帯比売命であれば、もしかしたら竜について何か知っているかもしれない。

「我が案内してやろうの」
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