神様の喫茶店 ~こだわりの珈琲とともに~

早見崎 瑠樹

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かわの絵

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 宇迦之御魂に案内されたのはとある神社だ。
 それは、1800年もまえからあるという。

 鳥居に風浪宮と書かれたその神社は、平日の昼であるにも関わらず、数人の人が参拝に来ていた。

 錦鯉が泳ぐ池、艶やかな朱色の社殿は見るものを浮き立たせる。

「この神社の御祭神は少童命ワダツノミコト。相殿御祭神に住吉大神、息長帯比売命おきながたらしひめのみこと高良玉垂命こうらたまたれのみことが祀られておる」

 宇迦之御魂が参道を歩きながら、そう言う。

「息長帯比売命が御祭神ではないんですね」

 てっきり、息長帯比売命が主祭神のお社に連れていかれると、思っていた。

「そうじゃ」

 宇迦之御魂は頷く。

「そもそも、この社はかの姫が建てたものでの。自らが建てた社を、自らを御祭神にするはずもなかろう」

「神様が他の神様の神社を作ることがあるんですね」

 後ろを歩いていた夏奈子が質問する。
 ちなみに、狐はお留守番だ。

「もちろんじゃ。神代のときは物造りの神が、皆の社を造っておった。じゃが、かの姫が社を作ったときはまだ人の子であったの」

「もともとは人だったんですか」

 宇迦之御魂は僕の言葉に頷く。

「そうじゃ、じゃから苦労も多くての…」

 宇迦之御魂は幼い見目をしかめると、戸が開かれたままの社殿に声をあげる。

「我じゃ、戸を開けてくれ」

 すると、ふと周囲から人の気配が消える。
 このなんとも言えない雰囲気は、木花咲弥姫このはなさくやひめのときと同じ。神域だ。

 しばらく待つと、奥から走る音が聞こえてくる。

「宇迦之御魂様!ご機嫌麗しゅう」

 嬉しそうな声とともにセーターにロングコートの女性が現れ、社殿から飛び出さんばかりに、スライディング土下座を縁側で決める。

「頭をあげてくれ、我らに上も下もないのじゃから」

「では、お言葉に甘えさせていただきます」

 女性は頭をあげると、幸せそうな表情で微笑む。

「こやつが息長帯比売命じゃ」

「始めまして、科斗と言います」

「夏奈子です」

 宇迦之御魂の紹介を受けて、僕と夏奈子はお辞儀をする。

「これはこれは、ご丁寧に有難うございます。私は息長帯比売と申します」

 息長帯比売命は深々と頭を下げる。

「あ、あの、頭をあげて下さい」

 神に敬語を使われることはあっても、お辞儀をされたことはなかった。と驚く。

「あら、ついついとお辞儀を…」

「とりあえず、話を聞きたいのじゃ。中に入ってもよいかの?」

「もちろです。どうぞ、お上がりください」

ーー ーー ーー

「我らが聞きたいのは竜神についてじゃ」

 社にあげられ、畳敷の部屋に通されると、どこからともなく座布団が取り出された。

 書院造りの床の間に、座布団に直座るという、これぞ日本神である。

「竜とは、また懐かしいものですね。古き頃、ここの社がまだ海に面していたときは、竜がこの一体を守護しておりました」

「おそらく、その竜のことじゃ。そやつの封印が解かれたようなのじゃ」

 息長帯比売命の言葉に宇迦之御魂が頷く。

「その竜は荒竜ではなかったのですか?」

 守護をしていたという言葉に違和感を覚え、思わず質問をする。

「そんなことはありません。有明の海とここにそそぐ川は、竜によって災いから守護されていました。ただ、時には竜は荒れ大波が陸を襲ったものです」

 荒竜として封印されたわけではないのか。
 人、あるいは妖怪に仇なすものだから封印されていたものと思っていたが、守護神のような存在だったとは。

「では、なぜ竜は封印されたんです?」

「竜は封印されたのではなく。自ら進んで、封印を望んでいました」

 そして、息長帯比売命の次の言葉に衝撃を受ける。

「竜を封印したのは私です」
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