43 / 45
かわの絵
古き記憶
しおりを挟む
「え……?」
息長帯比売命の言葉に、誰というべくもなく驚きの言葉が漏れる。
「竜を封印したのはそなたじゃと? それは初耳じゃ」
宇迦之御魂も驚きの声をあげる。
「なぜ、そなたが封印を……」
「と言うことは、いまその竜がどこにいるのか知っているのですか?」
夏奈子が信じられないという表情で言う。
その通りだ。場所までは知らなくても、竜がその後何の妖怪になったのかは知っているはずだ。
「ええ、知っています。その者は脊振にいます。今は竜の記憶をなくし、覚という妖怪だと信じていることでしょう」
「覚…!?」
思わず叫び声をあげてしまう。
「覚の名は、人夜途と言いませんか?」
僕は大きく身を乗り出して質問する。
横目で夏奈子を見ると、吹き飛ぶんじゃないかという勢いで、首を縦に振っている。
「人夜途様をご存じなのですね」
「ええ、たまたま知り合ったので…」
なぜ知り合ったのかは、伏せておくことにする。
「とにもかくにも、なぜ竜を封印することになったのじゃ?」
宇迦之御魂が話を先に進める。
「ええ、全てを話しましょう。少し長くなりますが、よろしいですね?」
「うむ……」
全員が頷く。
「………あれは、三韓征伐と言われる戦のため、筑紫に来たときのことでした」
息長帯比売命はゆっくりと言葉を紬始める。
ーー ーー ーー
「古事記や日本書紀には、新羅など今で言う韓国の領土に攻め入り、戦うことなく降伏させた。そう書かれていますが、事実は逆に攻められていたのです。
このままでは日ノ本は攻め滅ぼされてしまう。
私はそう考えた。
軍の指揮を任されていた私は、古き教えにならい信託を得ることにしました。
水を統べ、海の威を借り、武力を私らにと、そう願ったのです。
そして現れたのが、住吉大神、高良玉垂命、そして少童命。
住吉大神は祓い、海を沈め。
高良玉垂命は武芸と運をもたらし、少童命は水を操り、私らを加護しました。
その少童命こそ件の竜なのです。その竜は白銀の鱗を煌めかせた、それはそれは美しい龍神でありました。
その3柱の加護があって、新羅の兵は撤退。朝廷は大陸と交易を持つことに成功したのです。
そのことを祝し、私は風浪宮を建て、3柱を祀ったのです。
その後、私は子を腹に抱えました。
私は祝福をしてくれた竜に、こう言ったのです。
『あなた様の守護のお陰で、子を持つことが出来そうです』と。
竜は当然のことだと言いました。
ですが、『この子らが未来を生きるとき、日ノ本は狭すぎる』と、 こんなことも言いました。
竜が在るから、川は広く、陸は狭いのだと。
在らずであれば、陸は広く、人は歩けるのだと。
『人は我が守護せずとも、十二分に強い。我の役目は此処等で終うべきであろう』
子を産み暫くした時、竜が我を封印してくれと、申し出てきました。
自らの滅びも意味する言葉、その覚悟を感じたとき、反論することが出来ますでしょうか。
私は高良玉垂命に逆鱗をとるように頼みました。
高良玉垂命は快くそれを引き受け、逆鱗を引き抜きました。竜の苦痛に歪む声は今でも覚えています。
『少童命よそなたは隠宮に、これからは人夜途と名乗るがよい。逆鱗は灯飛川の主として、祭り上げることを約束しよう』
私は竜にそう宣言しました。
『後を頼んだぞ』
この言葉を最後に竜の姿は消滅し、 あとに残ったのは白銀の逆鱗と、生まれたての小さな妖怪でした。
意識を取り戻した妖怪は、記憶を操れるのは能力を持っていました。妖怪は高良玉垂命に言ったのです。
『僕と記憶を取り替えてくれないか?』」
息長帯比売命の言葉に、誰というべくもなく驚きの言葉が漏れる。
「竜を封印したのはそなたじゃと? それは初耳じゃ」
宇迦之御魂も驚きの声をあげる。
「なぜ、そなたが封印を……」
「と言うことは、いまその竜がどこにいるのか知っているのですか?」
夏奈子が信じられないという表情で言う。
その通りだ。場所までは知らなくても、竜がその後何の妖怪になったのかは知っているはずだ。
「ええ、知っています。その者は脊振にいます。今は竜の記憶をなくし、覚という妖怪だと信じていることでしょう」
「覚…!?」
思わず叫び声をあげてしまう。
「覚の名は、人夜途と言いませんか?」
僕は大きく身を乗り出して質問する。
横目で夏奈子を見ると、吹き飛ぶんじゃないかという勢いで、首を縦に振っている。
「人夜途様をご存じなのですね」
「ええ、たまたま知り合ったので…」
なぜ知り合ったのかは、伏せておくことにする。
「とにもかくにも、なぜ竜を封印することになったのじゃ?」
宇迦之御魂が話を先に進める。
「ええ、全てを話しましょう。少し長くなりますが、よろしいですね?」
「うむ……」
全員が頷く。
「………あれは、三韓征伐と言われる戦のため、筑紫に来たときのことでした」
息長帯比売命はゆっくりと言葉を紬始める。
ーー ーー ーー
「古事記や日本書紀には、新羅など今で言う韓国の領土に攻め入り、戦うことなく降伏させた。そう書かれていますが、事実は逆に攻められていたのです。
このままでは日ノ本は攻め滅ぼされてしまう。
私はそう考えた。
軍の指揮を任されていた私は、古き教えにならい信託を得ることにしました。
水を統べ、海の威を借り、武力を私らにと、そう願ったのです。
そして現れたのが、住吉大神、高良玉垂命、そして少童命。
住吉大神は祓い、海を沈め。
高良玉垂命は武芸と運をもたらし、少童命は水を操り、私らを加護しました。
その少童命こそ件の竜なのです。その竜は白銀の鱗を煌めかせた、それはそれは美しい龍神でありました。
その3柱の加護があって、新羅の兵は撤退。朝廷は大陸と交易を持つことに成功したのです。
そのことを祝し、私は風浪宮を建て、3柱を祀ったのです。
その後、私は子を腹に抱えました。
私は祝福をしてくれた竜に、こう言ったのです。
『あなた様の守護のお陰で、子を持つことが出来そうです』と。
竜は当然のことだと言いました。
ですが、『この子らが未来を生きるとき、日ノ本は狭すぎる』と、 こんなことも言いました。
竜が在るから、川は広く、陸は狭いのだと。
在らずであれば、陸は広く、人は歩けるのだと。
『人は我が守護せずとも、十二分に強い。我の役目は此処等で終うべきであろう』
子を産み暫くした時、竜が我を封印してくれと、申し出てきました。
自らの滅びも意味する言葉、その覚悟を感じたとき、反論することが出来ますでしょうか。
私は高良玉垂命に逆鱗をとるように頼みました。
高良玉垂命は快くそれを引き受け、逆鱗を引き抜きました。竜の苦痛に歪む声は今でも覚えています。
『少童命よそなたは隠宮に、これからは人夜途と名乗るがよい。逆鱗は灯飛川の主として、祭り上げることを約束しよう』
私は竜にそう宣言しました。
『後を頼んだぞ』
この言葉を最後に竜の姿は消滅し、 あとに残ったのは白銀の逆鱗と、生まれたての小さな妖怪でした。
意識を取り戻した妖怪は、記憶を操れるのは能力を持っていました。妖怪は高良玉垂命に言ったのです。
『僕と記憶を取り替えてくれないか?』」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる