神様の喫茶店 ~こだわりの珈琲とともに~

早見崎 瑠樹

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かわの絵

ワダツノミコト

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高良玉垂命こうらたまたれのみことさんが竜の記憶を持っているのか!?」

 僕のすっとんきょうな声が部屋に響きわたる。

「はい、そのはずですが…」

 息長帯比売命おきながたらしひめのみことが訝しげな表情で頷く。

 ということは、朧気おぼろげの事件のとき、彼女は朧気と名乗る妖怪の正体を、最初から知っていたのだ。

 少ない情報の中から、覚という妖怪にたどり着いたときは、なんて聡明なかみなんだと思っていたが。事実は人夜途ひとのよみちにも、僕にも、竜の正体という真実を隠すための演技だったのか。

 息長帯比売命おきながたらしひめのみことは話を続ける。

「その出来事を期に、風浪宮ふうろうぐうの御祭神を表津少童命うわつわだつのみこと中津少童命なかつわだつのみこと底津少童命そこつわだつのみこと三柱一体わだつのみこととしてお祀りしました」

「なるほど、その三柱というのが…」

 宇迦之御魂の声に息長帯比売が続けるように言う。

「表津は竜を、中津は逆鱗を、底津は人夜途を表します。相殿御祭神、私と高良玉垂命、住吉大神はこれらを鎮めるために、ここに祀られたのです」

 息長帯比売命はそう締め括る。
 なんとも言えない沈黙が空気を重くする。

 誰が竜なのか、竜の記憶は誰が持っているか、封印したのは誰なのか。疑問は解消されたが、解決とは言えない。

 逆鱗はどこに在るのか。
 このことが解決しない限り、問題を解決することはできない。

「疲れたでしょう。お茶を淹れましょう」

 息長帯比売命がそう言い、立ち上がる。
 途端に張りつめていた緊張が溶け、思わずため息が出る。

「ふーーー」

「うむ、よろしく頼む」

「はい!」

 息長帯比売命は笑顔でそう言うと、奥の部屋に消えていった。

ーー ーー ーー

「人夜途さん、お久しぶりですね」

 人夜途は脊振にある社の前で、声をかけられた。

「ん、あなたは…」

 声の主は、高良玉垂命という女神だった。

 朧気の事件以来、実際に会うのは始めてのことだ。今までは、あの少年をかいして事情を知っていたが。
 まさか、彼女が会いに来るとは。

「いきなり質問で悪いけど、灯飛川ひとびかわの主が会いに来なかったでしょうか?」

「彼のことを知っているのか!?」

 予想外の質問に、人夜途は声が上ずる。

「ええ、もちろんです。彼、いやあなたの逆鱗を引き抜いたのは、私ですから」

「……!!」

 人夜途は言葉にならない、声を出す。

 逆鱗を引き抜いた者と言うことは、人夜途の過去を知るものと言うことだ。

 ならば、なぜ。 

「なぜ、僕のことを竜だと隠して……」

 そこまで言ったとき、ふと思いつく。
 記憶を操れるのは、自分自身。
 ならば、自らが望まない限り、記憶は消されない。

 僕は竜のことを隠すように、願ったのか。

「……僕の記憶を持っているのは、あなたですか?」

 人夜途はゆっくりと質問する。

「ええ、私があなたの記憶を持っています」

 そして、言葉を続ける。

「時が来れば、あなたに返すようにと言われているんです」

「そして、今がその時ということか」

 人夜途は深く頷く。

 それを見てか、高良玉垂命は片膝をたてて、頭の位置を低くする。
 人夜途はゆっくりと手を高良玉垂命の頭に翳す。

 ふと、目を閉じると、様々な思い出が心に溢れた。
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