44 / 45
かわの絵
ワダツノミコト
しおりを挟む
「高良玉垂命さんが竜の記憶を持っているのか!?」
僕のすっとんきょうな声が部屋に響きわたる。
「はい、そのはずですが…」
息長帯比売命が訝しげな表情で頷く。
ということは、朧気の事件のとき、彼女は朧気と名乗る妖怪の正体を、最初から知っていたのだ。
少ない情報の中から、覚という妖怪にたどり着いたときは、なんて聡明な神なんだと思っていたが。事実は人夜途にも、僕にも、竜の正体という真実を隠すための演技だったのか。
息長帯比売命は話を続ける。
「その出来事を期に、風浪宮の御祭神を表津少童命、中津少童命、底津少童命の三柱一体としてお祀りしました」
「なるほど、その三柱というのが…」
宇迦之御魂の声に息長帯比売が続けるように言う。
「表津は竜を、中津は逆鱗を、底津は人夜途を表します。相殿御祭神、私と高良玉垂命、住吉大神はこれらを鎮めるために、ここに祀られたのです」
息長帯比売命はそう締め括る。
なんとも言えない沈黙が空気を重くする。
誰が竜なのか、竜の記憶は誰が持っているか、封印したのは誰なのか。疑問は解消されたが、解決とは言えない。
逆鱗はどこに在るのか。
このことが解決しない限り、問題を解決することはできない。
「疲れたでしょう。お茶を淹れましょう」
息長帯比売命がそう言い、立ち上がる。
途端に張りつめていた緊張が溶け、思わずため息が出る。
「ふーーー」
「うむ、よろしく頼む」
「はい!」
息長帯比売命は笑顔でそう言うと、奥の部屋に消えていった。
ーー ーー ーー
「人夜途さん、お久しぶりですね」
人夜途は脊振にある社の前で、声をかけられた。
「ん、あなたは…」
声の主は、高良玉垂命という女神だった。
朧気の事件以来、実際に会うのは始めてのことだ。今までは、あの少年をかいして事情を知っていたが。
まさか、彼女が会いに来るとは。
「いきなり質問で悪いけど、灯飛川の主が会いに来なかったでしょうか?」
「彼のことを知っているのか!?」
予想外の質問に、人夜途は声が上ずる。
「ええ、もちろんです。彼、いやあなたの逆鱗を引き抜いたのは、私ですから」
「……!!」
人夜途は言葉にならない、声を出す。
逆鱗を引き抜いた者と言うことは、人夜途の過去を知るものと言うことだ。
ならば、なぜ。
「なぜ、僕のことを竜だと隠して……」
そこまで言ったとき、ふと思いつく。
記憶を操れるのは、自分自身。
ならば、自らが望まない限り、記憶は消されない。
僕は竜のことを隠すように、願ったのか。
「……僕の記憶を持っているのは、あなたですか?」
人夜途はゆっくりと質問する。
「ええ、私があなたの記憶を持っています」
そして、言葉を続ける。
「時が来れば、あなたに返すようにと言われているんです」
「そして、今がその時ということか」
人夜途は深く頷く。
それを見てか、高良玉垂命は片膝をたてて、頭の位置を低くする。
人夜途はゆっくりと手を高良玉垂命の頭に翳す。
ふと、目を閉じると、様々な思い出が心に溢れた。
僕のすっとんきょうな声が部屋に響きわたる。
「はい、そのはずですが…」
息長帯比売命が訝しげな表情で頷く。
ということは、朧気の事件のとき、彼女は朧気と名乗る妖怪の正体を、最初から知っていたのだ。
少ない情報の中から、覚という妖怪にたどり着いたときは、なんて聡明な神なんだと思っていたが。事実は人夜途にも、僕にも、竜の正体という真実を隠すための演技だったのか。
息長帯比売命は話を続ける。
「その出来事を期に、風浪宮の御祭神を表津少童命、中津少童命、底津少童命の三柱一体としてお祀りしました」
「なるほど、その三柱というのが…」
宇迦之御魂の声に息長帯比売が続けるように言う。
「表津は竜を、中津は逆鱗を、底津は人夜途を表します。相殿御祭神、私と高良玉垂命、住吉大神はこれらを鎮めるために、ここに祀られたのです」
息長帯比売命はそう締め括る。
なんとも言えない沈黙が空気を重くする。
誰が竜なのか、竜の記憶は誰が持っているか、封印したのは誰なのか。疑問は解消されたが、解決とは言えない。
逆鱗はどこに在るのか。
このことが解決しない限り、問題を解決することはできない。
「疲れたでしょう。お茶を淹れましょう」
息長帯比売命がそう言い、立ち上がる。
途端に張りつめていた緊張が溶け、思わずため息が出る。
「ふーーー」
「うむ、よろしく頼む」
「はい!」
息長帯比売命は笑顔でそう言うと、奥の部屋に消えていった。
ーー ーー ーー
「人夜途さん、お久しぶりですね」
人夜途は脊振にある社の前で、声をかけられた。
「ん、あなたは…」
声の主は、高良玉垂命という女神だった。
朧気の事件以来、実際に会うのは始めてのことだ。今までは、あの少年をかいして事情を知っていたが。
まさか、彼女が会いに来るとは。
「いきなり質問で悪いけど、灯飛川の主が会いに来なかったでしょうか?」
「彼のことを知っているのか!?」
予想外の質問に、人夜途は声が上ずる。
「ええ、もちろんです。彼、いやあなたの逆鱗を引き抜いたのは、私ですから」
「……!!」
人夜途は言葉にならない、声を出す。
逆鱗を引き抜いた者と言うことは、人夜途の過去を知るものと言うことだ。
ならば、なぜ。
「なぜ、僕のことを竜だと隠して……」
そこまで言ったとき、ふと思いつく。
記憶を操れるのは、自分自身。
ならば、自らが望まない限り、記憶は消されない。
僕は竜のことを隠すように、願ったのか。
「……僕の記憶を持っているのは、あなたですか?」
人夜途はゆっくりと質問する。
「ええ、私があなたの記憶を持っています」
そして、言葉を続ける。
「時が来れば、あなたに返すようにと言われているんです」
「そして、今がその時ということか」
人夜途は深く頷く。
それを見てか、高良玉垂命は片膝をたてて、頭の位置を低くする。
人夜途はゆっくりと手を高良玉垂命の頭に翳す。
ふと、目を閉じると、様々な思い出が心に溢れた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
『雪嶺後宮と、狼王の花嫁』
由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。
巫女として献上された少女セツナは、
封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。
人と妖、政と信仰の狭間で、
彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。
雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる