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第一部
44 母子
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二月と三月は〈地拵え〉を行う。
新しく苗木を植えるための整地作業、で刈り取った雑草やら伐採した木の枝などを取り除く、これが結構な重労働だ。
伐採した木は案外太く丈夫なものがあり、常にチェーンソーを振り回していることが多々ある。
年がら年中、楽な作業一つもないのだが直樹にとって森にいることが自然なので、今のところ苦ではなかった。
ただ以前の仕事のように、帰宅後『睡眠時間を削ってゲーム』ということはできなかった。
したいとも思わなかった。
少しのインターネットや読書程度で夜は終わっても、直樹には十分満足なプライベートだった。
最近は緋紗の出現により、自然な日常が活気づいている気はしている。
そのためより満足度が上がっているのだった。
仕事を終えて帰宅すると母の慶子が、「おかえりー」 と、声をかけてきた。
「ただいま」
「すぐ食べられるからねー」
「着替えてくるよ」
毎日変わらないやり取りがなされる。
部屋着に軽く着替えてダイニングテーブルに着くと、次々に料理が並べられ慶子も席に着いた。
「今が一番寒いわよね。平気なの?薄着だけど」
「山にいると暑いくらいだよ」
「身体動かしてると冬でも暑いものなのねえ」
感心しながら慶子は言う。
母とは仲がいいのだが二人とも寡黙なたちなので、たいして会話はない。
対照的に今は亡き父と兄の颯介はやかましいくらいだ。――静かなのが一番だよ。
賑やかさが嫌いではないが毎日になると静かな方が好ましかった。――ああ、そうだ。
「来週の土曜日は同窓会に行ってくるよ。だからご飯もいいよ」
「そうなの。どこで?」
「三上んちの『シフト』」
「ああ近いのね」
「飲むし歩いていくよ。二次会はわからないけど遅くなるかも」
「そんなのに行くのなんて珍しいわね」
「まあね。直接来いよって言われたしね」
「楽しんでくればいいわよ」
直樹が付き合っていた彼女と別れて何年も一人でいることを、慶子が心配しているのはわかっていた。
しかし辛抱強く寡黙な母は何も聞かないし、何も言わない。
直樹はそんな母に軽く申し訳ない気もしたが、兄が家庭を持ち孫もいるので、それ程気にはしなかった。
毎日の生活を感謝しているが母が兄のもとで暮らし、自分は一人で暮らしてもいいと思うくらいだった。
自分には兄のように『幸せな結婚をして孫の顔を見せること』ができそうになく感じていたからだ。
スープの冷めない距離に兄夫婦がいるので、会おうと思えばすぐ会えるのだが直樹には父なき今、静かに過ごす母の夜は寂しいのではないかと思っている。
「じゃ颯介のところにでも行ってこようかな」
「そうしなよ。義姉さんはもっと聖乃を見てほしそうだよ。」
笑いながら直樹が言うと、
「そうねえ。今かわいい盛りよねえ」
と、慶子は楽しげに顔を綻ばせた。
「女の子はほんと可愛いわよねえ」
「男二人でごめんよ」
二人で笑って食事を終えた。
新しく苗木を植えるための整地作業、で刈り取った雑草やら伐採した木の枝などを取り除く、これが結構な重労働だ。
伐採した木は案外太く丈夫なものがあり、常にチェーンソーを振り回していることが多々ある。
年がら年中、楽な作業一つもないのだが直樹にとって森にいることが自然なので、今のところ苦ではなかった。
ただ以前の仕事のように、帰宅後『睡眠時間を削ってゲーム』ということはできなかった。
したいとも思わなかった。
少しのインターネットや読書程度で夜は終わっても、直樹には十分満足なプライベートだった。
最近は緋紗の出現により、自然な日常が活気づいている気はしている。
そのためより満足度が上がっているのだった。
仕事を終えて帰宅すると母の慶子が、「おかえりー」 と、声をかけてきた。
「ただいま」
「すぐ食べられるからねー」
「着替えてくるよ」
毎日変わらないやり取りがなされる。
部屋着に軽く着替えてダイニングテーブルに着くと、次々に料理が並べられ慶子も席に着いた。
「今が一番寒いわよね。平気なの?薄着だけど」
「山にいると暑いくらいだよ」
「身体動かしてると冬でも暑いものなのねえ」
感心しながら慶子は言う。
母とは仲がいいのだが二人とも寡黙なたちなので、たいして会話はない。
対照的に今は亡き父と兄の颯介はやかましいくらいだ。――静かなのが一番だよ。
賑やかさが嫌いではないが毎日になると静かな方が好ましかった。――ああ、そうだ。
「来週の土曜日は同窓会に行ってくるよ。だからご飯もいいよ」
「そうなの。どこで?」
「三上んちの『シフト』」
「ああ近いのね」
「飲むし歩いていくよ。二次会はわからないけど遅くなるかも」
「そんなのに行くのなんて珍しいわね」
「まあね。直接来いよって言われたしね」
「楽しんでくればいいわよ」
直樹が付き合っていた彼女と別れて何年も一人でいることを、慶子が心配しているのはわかっていた。
しかし辛抱強く寡黙な母は何も聞かないし、何も言わない。
直樹はそんな母に軽く申し訳ない気もしたが、兄が家庭を持ち孫もいるので、それ程気にはしなかった。
毎日の生活を感謝しているが母が兄のもとで暮らし、自分は一人で暮らしてもいいと思うくらいだった。
自分には兄のように『幸せな結婚をして孫の顔を見せること』ができそうになく感じていたからだ。
スープの冷めない距離に兄夫婦がいるので、会おうと思えばすぐ会えるのだが直樹には父なき今、静かに過ごす母の夜は寂しいのではないかと思っている。
「じゃ颯介のところにでも行ってこようかな」
「そうしなよ。義姉さんはもっと聖乃を見てほしそうだよ。」
笑いながら直樹が言うと、
「そうねえ。今かわいい盛りよねえ」
と、慶子は楽しげに顔を綻ばせた。
「女の子はほんと可愛いわよねえ」
「男二人でごめんよ」
二人で笑って食事を終えた。
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