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side2.高井戸純(たかいどじゅん)の場合
~途中経過 米原先生の心の叫び~ 「先生も剃ったりしてるんですか?」って何ですか!!
しおりを挟むそもそも、少し前から雲行きは怪しいと思ってたんだ。
高井戸さんが、スピ〇ドのビキニタイプの水着を手に取った時から……
あ、スピー〇とは、水泳関係者がよく使う、本格的な水着メーカーである。決して怪しいものではない。
「こういうビキニタイプって、速く泳げるんですか?」
高井戸さんがそう聞くから、俺は頭の中にいくつもの答えが瞬時に駆け巡った。大乱闘した、という感じだ。
「そうですね! 速く泳げます!」と言えば、高井戸さんはジムの時にその水着を履いてくれるだろうか!
高井戸さんの身体に吸い付くように、フィットするビキニ……
隠れるところなど、微々たる部分しかない。
もっこりと持ち上がる高井戸さんの……もはや、着エロか!! ……などと、性欲の止まらない高校生のような思考に頭の中をジャックされてしまった。
でも、待て。俺はもう二十代も後半に差し掛かろうとしている身だ……!
冷静になれ。高井戸さんのビキニ姿がジムの時に毎回見れるという誘惑に、全力で水を差すが……。
まず、俺が見れるということは、他のクラスの参加者全てに、高井戸さんのサービスショットが見られてしまうということだ。
火曜午後のクラスは主婦も多い。彼女たちに高井戸さんのそんな姿を見られてしまうなんて……!
まかり間違って、高井戸さんが誘惑されてしまうかもしれない。
有閑マダムたちのほんの遊び相手に、高井戸さんも、まっ、いいか、なんてことになってしまったら……!!
許せない。それは、全力で回避しなければ。今だって、油断できないというのに!
それに、その水着を買ったら、ジム以外のプールでも履いてしまうかもしれないし。
……その前に、高井戸さんもいい大人だ……。俺の策略に途中ではっと目が覚め、こんな破廉恥な水着など履かない、となり、薦めた俺の信用を失くすかもしれない。
そんなこと、一番嫌だ。
それらの葛藤が、世界水泳も真っ青のスピードで、俺の頭の中を駆け巡る。そして、俺は何とか正しい答えを絞り出したのである。
「え、いえ……! そうでもないですね!」
…………頑張った。頑張った、俺……。
欲望に負けず、よく正しい道を選択した。はっきり言って、ここまででかなりの体力を消耗したのである。
高井戸さんがスーツなんて着て来るから悪いのである。高井戸さんのスーツ姿が見れるなんて……役得! と思ったのだが、もしかしてジムでも他の日に偶然会えれば、スーツで来ているに違いない。
他の日も気にして見てみよう……などと考えながら、水着売り場の前で水着を選ぶふりをしていると、再び高井戸さんが言ったのである。
これは、えらいカウンターパンチであった。
「そういえば先生も剃ったりしてるんですか?」
…………。
…………『剃る』? どこを?
………………『も』って何?
いや、そもそもは俺が悪いのである。ビキニタイプの水着に焦りまくって、何とか冷静なふりをしようとして、「でもこういうのは、ムダ毛とかも気になりますしね」などとぼやいたのがいけなかった。
剃る? 剃る? どこを?
――――俺があそこを剃ったことがあるって、何で知ってるの?
などと、自爆の考えが、頭を即座に突き抜けてしまったのだ。
いや、それは、若き日の至りであった。
その頃から自分が同性愛者であることを自覚し、興味と葛藤に苛まれている時分に、つい下の毛を綺麗に処理してしまったことがあるのである。
一回だけ!!
そのときのことが頭の中を突き抜け、俺は今度は汗が全開に出るほど恥ずかしかったのだが、よく考えれば、高井戸さんがそのことを知っているわけがない。きっと、水着を着る時に困らない部分の話だけだ!
そこまで考えるまでに数秒、何と長かったことか。
「え……えーと……そ、それはまあ……こ、困る部分だけは、ですね……」
俺は何とか答えた。
……高井戸さんの解釈に合っているといいのだが。……合ってるよね? 俺、変なこと言ってないよね?
俺が困っていると思ったのか、高井戸さんはにこやかにフォローすると、試着室に入ってしまった。
「あはは~、そうですよね……! ごめんなさい、変なことを聞いて! じゃあ俺、試着してきますね!」
そう言って、彼はシャッと試着室のカーテンを閉める。
……違うんだ、高井戸さん。高井戸さんは何も悪くない。
おかしなことを考えてばかりいる俺が悪いんだ。
高井戸さんのことが一目で好きになってしまってから……。
こんなに好きになってしまって、高井戸さんのことを困らせたくない。
高井戸さんは、純粋に俺のことを友人として大事にしてくれているのに……!
高井戸さんが試着室に入っている間、俺はそう自分を責めて、一人勝手に苦しくなっていた。
でも、頭の中では、
(高井戸さんがもしかしてあのビキニを、試着だけでもしてくれないかなあ)
ということと、
(『も』って何、高井戸さんもあそこのムダ毛を処理したことがあるのかな、……いやいや、きっとヘソ周りと太腿くらいだよね……)
という欲望が頭の中を回り、高井戸さんがあそこの毛を、綺麗に処理をしている姿の妄想が止まらなかったのである。
苦しい。けど止まらない。
俺はどうしたらいいんだろう……。
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