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side2.高井戸純(たかいどじゅん)の場合
ジムの先生 第八話
しおりを挟む西川と呼ばれた男はケツを堂々と丸出しで、さっさと行ってしまった。
残されたのは、俺と先生の二人だった。
今度は西川の代わりに俺が、先生をロッカー棚の前に閉じ込めている。
俺は、しばらくしてふっと我に返り始めた。
えーと……どうしてこういうことになったんだっけ……。
元はと言えば、何も強引な態度を取ろうなどと思っていなかった。それどころか、先生とは個人的な付き合いを絶とうと思っていたところだ。
しかし、考えてもこの状況は変わりはしない。目の前で先生は俺を怯えたように見詰めているし、俺は――よく見たら、濡れたまま、腰に体を洗うタオルを一枚で先生を壁ドンしている。
……何をやってるんだ俺は……。
考えるとイヤになるから、考えないようにしよう。
それに、先ほど思った通り、先生に話など、いくらでもあるのだ。
ええい、ままよ。このままどうにでもなれ。俺は、場の成り行きに任せることにした。
このモヤモヤを聞かないままで終わらせるなんて、気分が悪すぎる。こうなったら、壁ドンでも股ドンでも、どんと来やがるがいい……!!
「……た、高井戸さん……」
先生は相変わらず身を竦め、じっと俺のことを見上げている。
どうしてそんな、恥じらうような態度を取っているのだろう。まさかそれが、俺が濡れ裸で壁ドンしているからなどと思う訳がない。
先生は乾いたタオルで上半身を隠すようにしているのだが、端っこから乳首がはみ出している。
しかし、なぜかそれを軽くからかえない雰囲気なのである。
なぜなのだろう……。
プールでもいつも見ているが、先生の乳首は、小さい。勿論、女性のではないのだから当たり前なのだが……。
こんなに近くで見るのは初めてである。
どうも、妙な気持ちである。それを悪戯してみたいと思ってしまうのは、何なんだろうか。先生が清潔感のあるイケメンだからであろうか。
悪戯とは、どうやってするのかって?
勿論、指で引っ搔くようにしてみたり、指で擦ってみたりするのである。女性にするように、である。
そしたら先生はどうなるのであろうか。「あっ」などと悲鳴をあげる? それとも、悶える?
それを考えると、俺の頭の中と下半身は膨張する。
ん? 何かがおかしい。男相手にそんなことを思うはずがないのに……。
俺が先生の乳首を凝視していると、どうやら先生が気づいてしまったらしい。先生は、抱えていたタオルをさっと上げた。
お、俺が凝視しているのがばれてしまった……!!
何て無礼で変態的なやつなんだと思われたに違いない。あれもこれも含めて、もう、先生と俺の仲は終わったも同然である。
俺は心のなかで絶望していたのだが、頭の中では、(でも先生、いつもプールで出してるじゃん、男だし)などという弁解が1%ほどあった。
そんなことを考えていると、目の前の先生が喋ったのである。
「……あの、高井戸さん……。俺、実は高井戸さんとこうして個人的に会っちゃ、いけないと思うんです……」
ほら来た。最終通告である。
もう、俺とジムの授業以外では会わないという声明である。
それでも、まだ諦められない俺は、すっとぼけて聞いてみる。
「え……どうして? ジムの規約か何かですか?」
「そういうわけではないんですけれども」
諦めきれるわけはない。まだ、俺の言いたいことは何ひとつ聞けていないのだ。
どうして俺のことを避けるのか。どうしていつも遠慮がちなのか。思えば、最初から俺に心を開いてくれていなかったような気がする――。
俺はそれを問い詰めようとしたのだが、ふと見て、あることに気が付いたのである。
先生が、震えている。
胸の前でタオルを握り締める指が震えている。それだけではない。裸の肩も震えている。
小さい腰の下の、太腿も膝も、震えている。
先生が怯えている?
何をそんなに怯えているのだろう。俺が威圧的なのか? それとも、他に理由が……?
先生を怖がらせないよう、俺はロッカーの壁から手を下ろした。先生は、しばらくして言った。
「……俺、実は高井戸さんのことが好きなんです。だから、もう個人的に会わないほうがいいと思うんです。」
……ん? 好き?
怪訝な顔をした俺が聞き直そうとすると、米原先生はさっと顔を背けて続けた。
「……俺のクラスも、代えてもらっていいですから。……火曜しかダメだったら、たぶん、前か後にも、同じようなクラス、あると思いますから……」
先生は何を言っているのだろう。好きだから会わない方がいいって、変じゃないか。
好きならば、もっと沢山会えばいいじゃないか?
……ん? 好きとは、どういう意味なのだろうか。
そう考えた途端、恥ずかしがって怯えている先生の態度を、俺は一瞬で理解したのだった。
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