叫べ、まだ終わりじゃない

おくなみ

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これが、俺たちの今だ

SE、そして火蓋

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SEが鳴り響いた瞬間、客席から歓声が上がった。
 名前を呼ぶ声、手を叩く音、割れるような拍手。
 そのすべてが、“まだ終わりじゃない”の登場を待ちわびていた証だった。

 

 悠人はゆっくりとマイク前に立つ。
 視界いっぱいに広がる観客席。
 そのひとつひとつが、自分たちだけのために座っている。

 

 「……ヤバ」

 

 思わず、そう呟いていた。
 スモーク越しに見える、真ん中まで埋まった野音のフロア。
 熱のような視線が、こちらに向かっている。

 

 背後では、蓮が低くベースを唸らせ、
 翼がスティックを掲げてカウントを取る準備に入っていた。

 

 その空気を割って、結華のギターがギュルルと音を立てる。

 

 ——そして。

 

 悠人が叫んだ。

 

 「行くぞ、野音!!」

 

 その瞬間、照明がバッと明転する。
 1曲目のイントロが、野音の夜空を切り裂いた。

 

 全員の視線が、音に変わった。
 それは、今までにないくらい、**“初めての音”**だった。


1曲目のイントロが轟いた瞬間、
 ステージ上の4人と、観客すべての意識が、ひとつの音に集まった。

 

 悠人の視線が自然と最前列の中央へ向かう。
 そこに——あかねがいた。

 

 黒のTシャツに、風に揺れる髪。
 表情は張り詰めていて、それでも崩れないまま、真っ直ぐこちらを見ていた。

 

 笑っていなかった。泣いてもいなかった。
 ただ、全身で“受け止めている”——その姿だった。

 ステージから放たれる音は、まるで牙のようだった。
 蓮のベースが低く、重く響き、翼のドラムが正確に地面を叩き割る。
 結華のギターは研ぎ澄まされ、悠人の声はそれらすべての上に刺さった。

 

 そして——客席には、確かな“視線”たちがあった。

 

 誰もが知っていたその顔。
 何度も音を交わしてきたバンドたち。
 BLUEBIRD。Y.U.N.O。TAC。

 

 彼らは何も言わない。ただ、しっかりと“音”を見ていた。
 歓声も、反応もない。ただ、真正面から向き合うように。

 

 その存在が、悠人たちにとって何よりの圧力であり、
 同時に——燃える理由になっていた。

 悠人は叫ぶように歌い出した。
 「まだ終わりじゃねぇ!」というフレーズが、風を突き抜ける。

 

 音が、明らかに違っていた。
 バンドの誰もが気づいていた。
 この瞬間を、誰もが“本気”で見ている。

 あかねの姿が、ふたたび視界に入る。
 彼女は、ほんの一瞬だけうなずいた。

 

 それだけで、悠人の足が地を蹴った。

 

 「野音——もっと来い!!」

 

 その叫びに、会場は一気に跳ねた。
 まだ1曲目だというのに、火は完全に灯っていた。

1曲目が終わるその刹那、翼がドラムを連打した。
 次の曲へつなぐ、迷いのないリズムだった。

 

 蓮のベースが重ねるように響き出し、結華のギターが轟音を突き立てる。
 音が鳴り止むことなく、2曲目に突入した。

 

 「行くぞ!!」

 

 悠人の声に、観客が一斉に反応する。
 ステージの上と下、境界が溶けていく。

 

 拳が上がり、声が上がる。
 跳ねる、揺れる、叫ぶ。
 野音という静謐な空間が、ロックの坩堝に変わっていく。

 悠人は、何度も叫んだ。
 言葉にならない声でも、意味がなくてもよかった。
 ただ、伝えたかった。

 

 「もっとだろ!! まだ声、出んだろ!!」

 

 結華のギターが縦横無尽に空を裂き、
 蓮がその下支えを躍動で叩き出す。
 翼のビートがまるで心臓の代わりみたいに、観客の胸を叩いた。

 そして、悠人の視線が、再び客席に走る。
 あかねは、変わらずそこにいた。
 両手で胸元を押さえるようにして、真っ直ぐに音を受けていた。

 

 ——全員が、この日のことを忘れられない。

 

 それが確信に変わるように、
 《まだ終わりじゃない》の音は、さらに加速していった。

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