叫べ、まだ終わりじゃない

おくなみ

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これが、俺たちの今だ

打ち上げ:この音が続く限り

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「乾杯!!!」
グラスがぶつかる音が、まるでアンコールのSEのように響いた。

 

藤代が一番大きな声で笑っていた。
普段の穏やかな表情はどこへやら、酔えば誰よりもうるさい“はしゃぐタイプ”。

 

「お前ら、今日で最後って実感、あるか? ……ないよな! だって“まだ終わりじゃない”だもんな!!」

 

周囲が大笑いする中、悠人が苦笑いしながら言い返す。

「いや……そろそろ終わってくれてもいいくらい疲れてるけどな……」

「だまらっしゃいバカヤロウ!! あの野音で飛び込んだやつが言うセリフか!!!」

 

みんなの笑い声が弾ける。

 

真田(BLUEBIRD)は蓮の隣に座り、グラス片手に小さく言った。

「……あのときの“ありがとな”ってさ。聞こえてたぞ」

蓮は少しだけ照れて、言い返す。

「うるせえよ、聞こえてなきゃ意味ねえだろ」

「はは、そうだな」

 

結華の前には柚葉(Y.U.N.O)が座っていた。
静かにワインを傾けながら、優しく微笑む。

「ねえ、結華ちゃん。……あなた、やっぱりもっと化けるよ」

「……まだ足りないですか?」

「ううん。すごかった。でも、まだ見せてくれるよね?」

結華はグラスを持ち上げて、ぺこりと小さく頭を下げた。

「……はい。ぜったいに、見せます」

 

翼はTACの橘一誠と向かい合って、ビールを交わしていた。

「最後の“まだ終わりじゃない”、お前……ヤバかったよ。ドラムで押し切っただろ、あれ」

「……全部、俺が支えるって思ったら、手が止まらなくて」

「うん、それでいい。あれが“バンドの土台”ってやつだ」

 

それぞれの会話が、静かに交錯していく。

「なあなあなあ~~~~!」

 唐突に、藤代の大声が響いた。
 酒もかなりまわっているらしく、目が据わり気味だ。

 

 「“IGNITIONで、俺たちのこと超えれます?”って言ったのお前だよな? 悠人!!!」

 

 そう言いながら、わざとらしくマイクなしの手ぶりで叫ぶように言い放つ。
 「俺たちのこと、超えれます~~~~!?!?」

 

 どっと笑いが起こる。
 隣にいた真田が吹き出し、翼がテーブルに突っ伏して肩を震わせていた。

 

 「うわ、やめてくれマジで!! それだけは黒歴史なんだって!」

 悠人が頭を抱え、顔を隠す。

 

 「いや、カッコよかったぞ」
 橘がニヤニヤしながら言う。
 「でも、今日のライブのあとだと……正直、“あれ、マジで刺さったな”って思ったわ」

 

 「うん」柚葉も頷く。
 「言葉に負けない音を鳴らしてた。……そうじゃなきゃ、ダサいけど、でも君たちは鳴らしてた」

 

 「だから許される。つーか、逆に羨ましいわ」
 真田も、グラスを掲げる。

 

 悠人は赤い顔のまま、それでも笑っていた。
 「……なんだよ、もう。酒が回る前にいじるなよ、まじで」

 

 蓮がぽつりと呟いた。

 「でもさ……“超える”とか“超えられる”とか、そんな話じゃなかったんだよな。あのときは」

 

 全員が、ふと静かになる。
 その一瞬の“空白”が、妙に心地よかった。

 

 結華がグラスを持ち上げる。

 「今日は、対バン相手じゃなくて、音を分け合った“仲間”と飲めてる。……それが、なによりうれしい」

 

 「だな」翼も続く。
 「ずっと忘れねぇっす、この夜」

 

 グラスがカチン、と再び鳴った。

 音がなくても、届くものがある。

 

 その夜、彼らはそれを誰よりも知っていた。

時間はすっかり深夜。
 騒がしかったテーブルも、少しずつ静けさを取り戻していた。

 

 グラスが空になり、食べ物もほとんど片付けられている。
 けれど、誰も帰ろうとしなかった。

 

 「……俺、次、どんな曲書けばいいんだろな」
 悠人がぽつりと呟いた。

 

 「また“無題”でいいんじゃね?」
 真田がからかうように笑う。

 

 「二代目“無題”か。語彙力なさすぎだろ」
 蓮が苦笑する。

 

 柚葉は静かに笑った。
 「……でも、“無題”ってさ、未来の話でしょ?」

 

 「え?」
 翼が首をかしげる。

 

 「タイトルを決めないってことは、その先があるってこと。
  これで全部終わり、じゃなくて……この先に、まだ音があるって証拠だよ」

 

 その言葉に、結華が深く頷いた。

 「……そうか。うん、“無題”は、終わらない曲なんだ」

 

 しばらく、誰も何も言わず、静かに座っていた。
 それぞれが、次のステージを想像していた。

 

 橘が立ち上がる。
 「そろそろ、帰るわ。また、どっかで会えるだろ」

 「いや、呼ぶ。絶対またやりましょう、対バン」
 翼が立ち上がって、深く頭を下げた。

 

 「うちらも、いつでも応じるよ」
 柚葉が立ち上がり、結華にウインクを送る。

 

 「……また、音で会おう」
 真田が最後に言ったその言葉が、妙に優しく響いた。

 藤代は、片付けられていくグラスを見ながら、
 ひとり笑っていた。

 

 「さて、お前ら。次はどうすんだ?」

 

 その問いに、悠人は立ち上がって、まっすぐ藤代を見た。

 

 「さあな。でも……なんでもできそうな気がする」

 

 そして、誰に向けるでもなく、ふわりと口にする。

 

 「またバカなこと、やっていきましょうよ。
  この“まだ終わりじゃない”の続き、誰も止められねぇからさ」

 

 その夜、彼らのツアーは終わった。
 でも、“音の旅”はまだ始まったばかりだった。
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