憧れの彼は一途で優しくて時々イジワル

RIKA

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二章

15.苦しいほどの愛を君に

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結局香澄が解放されたのは、日付を越えた深夜だった。
気怠い身体で後処理を終えてベッドに倒れ込んだら、右側から伸びてきた腕に抱き寄せられる。
実はここまで密着して眠るのは初めてのことだったので、香澄は戸惑って永瀬を見上げた。
どちらかといえば自分は束縛されたいタイプだし、このまま眠ることだってできるのでそのこと自体に問題はない。
腕枕してくれるのだって嬉しいけれど、自分の重みで彼は苦しくないのだろうかと、それが心配だった。

「腕、辛くない…?」
「平気」

短い返事があったが、それでもなんだか落ち着かなくて。

「あの…」

香澄が躊躇していると、それを察した永瀬が押し切るように言った。

「暫くはこうやって寝るよ。起きたら隣にいないとか、もう二度とごめんだから」
「あ…」

言わんとしていることが分かって、申し訳なさに香澄は何も言えなくなった。
勝手に一人で帰ったあの朝を、彼は今も許していないのだ。

「土曜の夜、会った時から様子がおかしかったし、何かあったのかなって思ってはいたんだけど。詳しく聞こうとしたら珍しく香澄から誘ってくれたからさ、嬉しくて舞い上がって、明日話せばいいかって思ってたのに…寝て起きたら隣にいないんだもんな。あの時、俺がどれだけ焦ったと思う?」
「ご、ごめんなさい…」
「そのあと電話した時もなんか態度硬いしさ。なんでもないって嘘つかれるし、何か気に障ることしたのかなとか、そんなに俺って頼りないのかなとかって一日中凹んでたんだからな」
「う…それも、ごめんなさい」
「ちなみに聞くんだけど、用事って何だったの?」
「………。」
「もしかして、それも嘘?」
「……ごめんなさい」

遠回しの肯定に、はあ、と横から漏れるため息。
気まずく、どんな顔をしたらいいか分からなくて、香澄は毛布で顔を半分隠した。

――言い返す言葉など、あるはずもない。
勇気を出してあの時きちんと不安を口にすればよかったのに、勝手に終わりを想像して怖がって、いたずらに彼を傷つけた。そのことは変えようのない事実。

「私のこと、今度こそ見損なった…よね?」

恐る恐る尋ねた。
ちらりと見上げたらどこか諦めにも似た困ったような眼差しが香澄を見つめている。

「ならないよ。なってたらこんな必死に追いかけてない。そりゃ、全然話聞かないわ避けまくるわで困り果ててはいたけど」
「ごめんなさい…。自分の気持ちが整理できてない状態で別れ話されたらって思うと怖くて、勇気が出なくて…」

視線を逸らして呟いたら、永瀬の右手が後頭部に伸びてきた。
髪を撫でるその温もりはあまりに優しくて、香澄の心を慰めるようだ。

「まあ、一応?誤解もとけて俺のところに戻って来たからいいけど。でもそういうわけで、俺が安心するまでこうやって眠らせて」
「…安心するまで?」
「そう」
「…そんなの、やだ」

まさか断られるとは思わなかったのだろう、隣で彼がぴくりと動いたのが分かった。と同時に、咎めるようにぎゅっと更に強く抱きしめられる。
しかしその腕を宥めるように香澄は手を重ね、続けた。

「安心するまでじゃなくて、これから先ずっとこうして眠りたい。…だめ?」

緊張して声が震えたのは、彼の反応が予想できなかったからだ。
それでも、こうして抱きしめてくれる彼を、そしてそこに潜むはずの愛情を信じたいと思った。いや、信じるのだ。今度こそ。

香澄がじっと永瀬の答えを待っていると、数秒後、ふっと彼が小さく笑ったのが聞こえた。

「…だからさ、もうほんとなんなの?そんなに俺の気持ちもてあそんで楽しい?」
「弄ぶ…?」

一体何のことを言っているのか分からなくて、香澄は瞬いた。
答えを求めて永瀬を見つめたものの、彼は更に苦笑を深めただけだった。

「言葉で言っても分かんないか。あーあ、せっかくもう今日は終わりにしてあげようと思ったのに。そう言われちゃ、期待に応えないわけにはいかないよな」

言って、突然永瀬が姿勢を変えて覆いかぶさってきた。
その顔に浮かぶ意地悪な笑顔に、嫌な予感が胸をよぎる。

「あの、ちょっと…!?」
「俺さ、実はずっと遠慮してたんだよね。あんまり押して引かれるのも嫌だし、それで嫌われたら元も子もないし。だから少しずつ距離を測りながら香澄が許してくれるギリギリのラインをずっとさぐってた。でも今回のことではっきり分かったよ、香澄は雁字搦がんじがらめになるほど愛されてないと不安なんだなって。そういうことなら望むところ、飽きるくらい愛してやるから、乞うご期待」
「あ…っ!」

つい数分前に着たばかりだというのに、香澄は瞬く間に下着を剥ぎ取られた。と同時に永瀬が胸に顔をうずめてくる。
胸の先端を舐められながら膨らみを揉まれたらそれだけで身体が勝手に熱くなって、体の奥からどろりとした何かが溢れ出すのを止められない。
この先の展開が読めすぎて、香澄は慌てて抗議した。

「ちょ、ちょっと待ってっ!あの、今日はもうこんな時間だからそろそろ寝た方が…!」
「分かってる、なるべく早く終わらせるから協力して」
「もう、全然分かってないしっ!」

全く話の通じない永瀬の肩を押し返し、少しでも距離をとろうとするが、筋肉質な体はびくとも動かない。
とにかく一旦離れれば何とか冷静になるのでは――そう思った香澄はくるりと身体を回転させ、うつぶせの状態で逃げ出そうとしたのだが…。

「あっ…!」
「捕獲」

逃亡失敗。あっさり捕まってしまった。
背後から彼の手が脇の下を通って、そのまま抱き起こされる。
膝立ちの状態で、左手で胸を揉まれながら右手で愛溝をなぞられれば、たちまち抵抗が溶けていった。
耳に吐息をかけられたらぞくりと背中が疼いて、うなじに舌を這わされたら頭が真っ白に染まる。
香澄以上に香澄の身体を熟知している彼は、そうしていとも簡単に彼女を快楽の底へと突き落としていく。

「逃げる割には秒で濡れるじゃん。感度悪いかもって不安がってた頃が嘘みたいだな?」

そんな意地悪を言われたところで、今の香澄にそれに応える余裕などあるわけがない。
そもそもこんな身体に塗り替えたのは自分のくせに…。

彼の長い指が香澄の中をまさぐる。
的確な愛撫に呼応するように蜜が溢れて、ぴちゃぴちゃと卑しい音が響いた。
そのうち勝手にくねりはじめる腰、もっと先を求めてしまうのはきっと女の本能。
だけど彼が酷いのは、ギリギリのところでいつもお預けするところだ。香澄が降参するまで、決して与えてくれない。

「んっ、も、やだっ、お願い…っ」

香澄は喘ぎながら必死に訴えた。こうして懇願するのは今日だけでもう一体何度目になるだろう。
もはや数えるのも億劫なくらい、今日の彼はとにかく執拗だった。

「まだ指れただけなのにもうイくの?仕方ないな――あ、いいこと思いついた。次イったら同棲しよっか」
「あっ、はっ、…えっ?」

快楽でもやがかる意識の中、にわかに信じがたい台詞が聞こえた気がして、香澄は顔を上げた。
今何かとても大変なことを言われた気がするのだが幻聴だろうか。
上手く回らない頭で彼を振り返ると、その困惑顔に永瀬が笑った。

「聞こえなかった?イったら同棲しよう、今日からここが香澄の帰る場所」

なんと聞き間違いではなかったらしい。
しかもこんな状況、ほとんど達しかけている今の香澄にとってはあまりに不利すぎる。

「そういうわけで俺もそろそろ本気だそっかな」

更になんとも恐ろしい言葉が聞こえてきて、香澄はあらゆる意味で震えた。

「そろそそろ本気」って、どういう意味?
今まで本気じゃなかったの?
既にこっちの体力は尽きかけてるのに?
何より、これ以上攻められたら――この身体は一体どうなってしまうの?

「えっ、あの、ちょっと待っ、――ああ…っ」

ずぶり、と熱いものが前触れもなく押し入ってきた。
拒むことなど許されるわけもなく、四つん這いになった香澄はぎゅっとシーツを握りしめた。

「最近の香澄は嘘つきだからな、今日は身体に返事してもらおうかなって。イったらイエス、イかなかったらノー」
「そん、なの、…ああっ!」

理不尽すぎる、と続けようとしたが、できなかった。無慈悲な言葉とともに奥まで強く穿たれて、意識が一瞬飛びかけたからだ。
――かろうじて今は繋ぎ止めた。でも次は?
果たしてコントロールすることができるだろうか。だってこの身体も心も、とっくに彼のものだから。

となると残された道は一つ、永瀬をどうにか説得して止めてもらうことなのだが…残念ながら香澄が躊躇うほどに彼の勢いは増していく。

「ま、待って!そういうのはちゃんと冷静に話し合、ああっ、だめ!奥、ダメぇっ!」
「香澄のダメは『止めちゃ駄目』のダメだから」
「も…っ、ばかぁっ!」

抵抗する暇など、一秒もなかった。
そもそも彼にはそうさせるつもりも、ノーと言わせるつもりも毛頭なかったのだろう。
腰を掴まれ、一層激しく突かれる。
理性が崩壊して、意味を持たない言葉ばかり溢れた。
こうなってしまったら、あとはもうこの波に呑み込まれるしかない。

「ねぇいつもより締め付けヤバいのなんで?そんなに一緒に暮らしたかった?」
「い、いじわる…っ!」

ははっと笑う声は、手加減する気などさらさらないようだ。
呼吸ごと呑み込まれそうなほど深いキスと繋がったところから聞こえる卑猥な音が、香澄から思考を奪っていく。
やがてなけなしの抵抗がついになくなると、永瀬は香澄を仰向けにして、律動を刻み始めた。そしてそれはあっという間に速くなって…。

「あっ、んっ、やっ、もぉ激し…っ、――ああ、ヤダやだ!もうイっちゃう…っ!」
「いいよ、俺もイきそう、香澄がいつも以上にぎゅうぎゅうに絞めて離してくんないから」
「も、ヘンなこと言わないでぇ…っ!」
「本当のことじゃん」
「ちが、…やっ、ああっ、もうホント、ねぇダメっ!そんな奥、強くしちゃ、だめぇ…っ!」

――ほどなくして、香澄はまたしても簡単に達してしまったのだった。

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