11 / 25
11話 危険な令嬢
しおりを挟む
ジェシーと名乗った方は貴族令嬢らしい。
とは言っても私はお会いしたことがない。
攻撃的かつ高圧的な雰囲気。ああ、ついにこの時がきたかと思った。
ハイド様は縁談の話が山ほどあったそうだし、嫌味を言われる日がくることもあるのではないかと。
「お初にお目にかかります。レイチェル=ラフィーネと申します」
迷惑をかけたくないため、ヴィニア伯爵の娘ということは伏せておこう。
そして、このタイミングでラフィーネと名乗ることができた。
いっぽうで、ジェシーは驚きつつも不気味な笑みを浮かべていた。
「ああ、あなたが噂の結婚相手なのですね。どろぼうさんですがおかわいそうに~」
「ど、どろぼう?」
「そうですわ。わたくし、ハイド様の恋人ですもの」
「はい!?」
「ジェシーお嬢様、どうかお気持ちをお静めください」
「ただの使用人は黙っていなさい!」
ジェシーの瞳がとても冷たい感じで、なにをするかわからないような雰囲気だ。
こうして対面しているだけでも、殺されるのではないかと思ってしまうほど恐い。
「わたくしはハイド様への気持ちは変わりませんし、愛していますわよ。どうかそのことをお忘れなく……」
「申し訳ございません! このままではジェシーお嬢様の立場も悪くなるだけですよ!」
使用人の男性がとても必死だ。
私はこの男性に救われているような気がしてしまう。
もしも彼がいなかったら、ジェシーになにをされていたかわかったもんじゃないからだ。
「なにを言っているのです? ハイド様から善意を向けられ、あれだけ愛されていたのですよ。それなのに、ハイド様の側近がわたくしを遠ざけようといじわるをしてきたのです! ひどい話ですわ」
ジェシーの怒声が止まらない。
だが、ジェシーがハイド様のことが好きだったとは思えなくなった。
「ハイド様の容姿は世界で一番美しい。紛争事件があった時、ハイド様は隣国へ自ら出向き、巧みな交渉で止めることに成功したのですよ。これほど名誉あるお方のそばにいられるだけで誰もが羨む存在になれると思っていましたのに」
「ハイド様の魅力というよりも、お金や権力のような気が……」
「当たり前ですわ。美しいハイド様もいつかは老いてしまいます。そのあと大事なことはいかに裕福でいられるか、ですわ!」
「失礼します。このお詫びは必ず!」
「いえ、私は大丈夫です……」
男性がかなり強引にジェシーを引っ張って退散していく。
「あなた、絶対に許しませんわよ! 報復される前にとっとと離婚しなさい!」
距離が離れているのに恐かった。
領地での交渉や抗議などでも、たまにこういった殺気のようなものを向けられることはあった。だが、今までとは比べものにならないものだ。
私はその場でしばらく動けない状態が続いてしまう。
同時に、ハイド様が異性に対しての態度が変わったのは、ジェシーが絡んでいるからではないかと思った。
♢
ようやくハイド様が店から出てきた。
店内で買ったと思われる物を両手に大事そうに抱えている。
「すまない、待たせてしまったな?」
「おかえりなさいませ」
馬車で待っていると言ったにも関わらず、店の近くで待機していたことに疑問を持たせてしまったようだ。
「なにかあったのか?」
「あ……ええと……その……」
「あったんだな! すまない。一人にするべきではなかった……」
なにがあったのかと聞かれ、一歩も引く気はないぞという勢いだったため、正直に話した。
ハイド様の顔色が真っ青になる。
ハイド様は周りを警戒し、荷物を抱えながらも私の手をギュッと握ってきた。
「至急馬車へ。いったん公爵家に帰ろう」
ハイド様の手に汗が滲んでいる。
馬車に戻り、動き出すとようやく汗もひいたようで落ち着いてきたようだ。
何度か手を離そうとしてきたが、心配なため握ったままにしている。
「ジェシー令嬢は、なんと言っていた……?」
「恋人だと……ハイド様のことを今も愛していると」
「そうか……」
普段よりもハイド様の言葉数が少ない。
どう考えてもハイド様がなにか酷い目にあったとしか思えないし、問い詰めるつもりなんてない。
ゆっくりと話してくれるのを待っていた。
とは言っても私はお会いしたことがない。
攻撃的かつ高圧的な雰囲気。ああ、ついにこの時がきたかと思った。
ハイド様は縁談の話が山ほどあったそうだし、嫌味を言われる日がくることもあるのではないかと。
「お初にお目にかかります。レイチェル=ラフィーネと申します」
迷惑をかけたくないため、ヴィニア伯爵の娘ということは伏せておこう。
そして、このタイミングでラフィーネと名乗ることができた。
いっぽうで、ジェシーは驚きつつも不気味な笑みを浮かべていた。
「ああ、あなたが噂の結婚相手なのですね。どろぼうさんですがおかわいそうに~」
「ど、どろぼう?」
「そうですわ。わたくし、ハイド様の恋人ですもの」
「はい!?」
「ジェシーお嬢様、どうかお気持ちをお静めください」
「ただの使用人は黙っていなさい!」
ジェシーの瞳がとても冷たい感じで、なにをするかわからないような雰囲気だ。
こうして対面しているだけでも、殺されるのではないかと思ってしまうほど恐い。
「わたくしはハイド様への気持ちは変わりませんし、愛していますわよ。どうかそのことをお忘れなく……」
「申し訳ございません! このままではジェシーお嬢様の立場も悪くなるだけですよ!」
使用人の男性がとても必死だ。
私はこの男性に救われているような気がしてしまう。
もしも彼がいなかったら、ジェシーになにをされていたかわかったもんじゃないからだ。
「なにを言っているのです? ハイド様から善意を向けられ、あれだけ愛されていたのですよ。それなのに、ハイド様の側近がわたくしを遠ざけようといじわるをしてきたのです! ひどい話ですわ」
ジェシーの怒声が止まらない。
だが、ジェシーがハイド様のことが好きだったとは思えなくなった。
「ハイド様の容姿は世界で一番美しい。紛争事件があった時、ハイド様は隣国へ自ら出向き、巧みな交渉で止めることに成功したのですよ。これほど名誉あるお方のそばにいられるだけで誰もが羨む存在になれると思っていましたのに」
「ハイド様の魅力というよりも、お金や権力のような気が……」
「当たり前ですわ。美しいハイド様もいつかは老いてしまいます。そのあと大事なことはいかに裕福でいられるか、ですわ!」
「失礼します。このお詫びは必ず!」
「いえ、私は大丈夫です……」
男性がかなり強引にジェシーを引っ張って退散していく。
「あなた、絶対に許しませんわよ! 報復される前にとっとと離婚しなさい!」
距離が離れているのに恐かった。
領地での交渉や抗議などでも、たまにこういった殺気のようなものを向けられることはあった。だが、今までとは比べものにならないものだ。
私はその場でしばらく動けない状態が続いてしまう。
同時に、ハイド様が異性に対しての態度が変わったのは、ジェシーが絡んでいるからではないかと思った。
♢
ようやくハイド様が店から出てきた。
店内で買ったと思われる物を両手に大事そうに抱えている。
「すまない、待たせてしまったな?」
「おかえりなさいませ」
馬車で待っていると言ったにも関わらず、店の近くで待機していたことに疑問を持たせてしまったようだ。
「なにかあったのか?」
「あ……ええと……その……」
「あったんだな! すまない。一人にするべきではなかった……」
なにがあったのかと聞かれ、一歩も引く気はないぞという勢いだったため、正直に話した。
ハイド様の顔色が真っ青になる。
ハイド様は周りを警戒し、荷物を抱えながらも私の手をギュッと握ってきた。
「至急馬車へ。いったん公爵家に帰ろう」
ハイド様の手に汗が滲んでいる。
馬車に戻り、動き出すとようやく汗もひいたようで落ち着いてきたようだ。
何度か手を離そうとしてきたが、心配なため握ったままにしている。
「ジェシー令嬢は、なんと言っていた……?」
「恋人だと……ハイド様のことを今も愛していると」
「そうか……」
普段よりもハイド様の言葉数が少ない。
どう考えてもハイド様がなにか酷い目にあったとしか思えないし、問い詰めるつもりなんてない。
ゆっくりと話してくれるのを待っていた。
228
あなたにおすすめの小説
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気
ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。
夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。
猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。
それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。
「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」
勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
顔がタイプじゃないからと、結婚を引き延ばされた本当の理由
翠月 瑠々奈
恋愛
「顔が……好みじゃないんだ!!」
婚約して早一年が経とうとしている。いい加減、周りからの期待もあって結婚式はいつにするのかと聞いたら、この回答。
セシリアは唖然としてしまう。
トドメのように彼は続けた。
「結婚はもう少し考えさせてくれないかな? ほら、まだ他の選択肢が出てくるかもしれないし」
この上なく失礼なその言葉に彼女はその場から身を翻し、駆け出した。
そのまま婚約解消になるものと覚悟し、新しい相手を探すために舞踏会に行くことに。
しかし、そこでの出会いから思いもよらない方向へ進み────。
顔が気に入らないのに、無為に結婚を引き延ばした本当の理由を知ることになる。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる