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4 平原でこのまま眠りたい

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 これで私は自由である身ですが、おそらく長くは生きれないでしょう。
 何があるのか本当にわからないのです。
 あてもないままひたすらに歩きます。

 ♢

 水も食料もなくなり、広がる平原にひとりぼっちです。
 私の人生ってなんだったのでしょうか。

 両親を亡くしてからというもの地獄のような毎日でした。
 マーヤがいて、ダルム様とも出会い、ようやく幸せを掴めるかと思えば二人に裏切られこのザマです。

「このまま土に還るのも悪くないですね……」

 そう思いながら地べたに寝転がりました。
 もうこのまま立ち上がることもないでしょう……。

 あとは死を待つのみですね。


 ♢

 ──ガランガランガランガラン……。

 幻聴でしょうか。
 車輪の音が聞こえてきました。

 目を開いて見てみると、大きな馬車でした。
 しかも、見覚えがあります。

 紋章が付いた大きなカーテン、それから明らかに王族が乗っていそうな外観。

「そこの君。こんなところで何をしているのかね?」
 馬車から降りてきたのは四十代くらいの男性で高貴な服装を纏っています。私に対して心配そうな顔で話しかけてくれました。

「実は、家出中です」
「バカなことを言わないでくれたまえ。こんな場所まで一人で家出するなど自殺行為であろうが。とにかく乗りなさい。食事くらいは用意してあげよう」
「で……ですが……」
「良いから! 馬車の中には護衛と女性のメイドもいるから安心したまえ」

 いえ……そういうことを心配しているわけではないのですが。
 有無を言わさず、半ば強引に馬車の中へ誘導されてしまいました。

 水浴びもしていませんし、平原に寝ていたので服も汚れています。
 そんな私がこのような高貴な馬車に乗るなど考えられません。

「紹介が遅れたね。私はザーレム=ハイマーネ。ダーレーアビアとバイアリタークの両国を行き来している商人だよ」
「え!? ハイマーネ商人といえば主に国王陛下の元で活躍していられる大商人ですよね!?」

 私の故郷であるダーレーアビアの中でも一番名前が知れ渡った大商人だったと思います。
 確かダーレーアビアとバイアリタークの両国に大きな家を持っていて、特別扱いで検問も素通りし、自由に行き来していると聞いたことがありました。

「大商人になったつもりはないのだがね。生憎これからバイアリタークへ向かわなければならないのだ。もしも家に帰る気になったとしてもしばらくはダーレーアビアに戻ることはないが……」

「乗せていただけるなら何処へ向かおうと構いません。どうせ戻る気もない覚悟で王都を出たのですから……」

「そうか……何があったのかは知らんが、命を粗末にするでない。君のご両親もさぞ心配していることだろう……」

 私の本当の両親は他界しています。
 きっとあっちで会えたら幸せかと思いましたが、ザーレムさんの力強い言葉でハッと思い返しました。
 おそらく私の両親はこんな結末を望んではいないだろうと……。
 私はなんということをしていたのでしょうか……。

 まだわずかな時間しか共にしていませんが、ザーレムさんに感謝ですね。命を救われたのですから。
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