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「ジュリエル、すまないが今日の買物は一人で行ってくれないだろうか?」
「どうされましたか? お身体の具合でも悪くなったのですか?」

 家に来た翌日、私はハーベスト様とお出かけをする予定だった。
 デート自体は初めてなので楽しみにしていたのだが……。

「実は義妹のシャロンが体調不良を訴えていてな……俺としても楽しみだったのだが」

 シャロンさんは生まれてすぐに重い病気を発症してしまい、一度は治したそうだが、今も後遺症のようなものがあるそうで、病弱になってしまったらしい。
 それを聞いて私ももちろん心配はしている。楽しみにしていたがここは我慢することにした。

「そうですか……それでは仕方ありませんね。お医者様は呼ばれましたか?」
「いや、医者からおかしなことを言われてな……もっと重症になってから呼ぶようにと言われてしまってな……」
「と、言いますと?」

 デートをキャンセルして、全員で看病しなければならないほどの体調不良を起こしているのに、医者を呼ばないのか。
 医者だって断るような発言はしないはず。
 貧しい家庭でもないし、呼ぶのが当然だと思ったのだが。

「以前医者を呼んでいた時にもこのような症状が起きているのだが、呆れられてしまった。ヤブ医者だったのだろう。そんなに気になるのならば安静にしていれば良いと言われた。俺はそれでも心配だからそばについてあげたいのだ」

 なるほど、医者からしたら大したことはないと診断したが、それでもハーベスト様はシャロンさんのことを心配しているのだろう。
 なんて家族想いなのだろうか。

「ちなみに今はどういった状況なのですか?」
「シャロンの平熱は三十六度八分なんだが、今は三十七度ゼロ分もあるそうだ。これは高すぎる」

 何回も瞬きをして、一旦耳に入ってきた内容を脳内で整理させた。
 その上で、やはり耳を疑ってしまった。

 確かに三十七度を越えれば一瞬微熱かと疑う。
 だが、シャロンさんの体温自体が少し高めなのだから、これを高すぎると思えるのが不思議だった。
 おそらく医者の言っていることが正しいのだろう。

 それでも今は私の持論はぐっと堪えた。

「え……と、やや微熱ですね……普段もこれだけ体温が上昇したら看病しているのですか?」
「あぁ、病弱な義妹だからな。この後にさらに熱が上昇するかもしれない。一刻の猶予もないから俺はそばにいてあげたいのだ」

 もはや心配というよりも過保護なのではないだろうか。
 もちろん家庭の事情や環境もあるから『絶対にそれは違います』とは言えなかったが、今日のデートがほんの少しの体温増加でキャンセルされてしまったことは悲しかった。

「わかりました……ですが、今日の買い物は私一人で行っても楽しくないので、日を改めて行きたいです」
「分かってくれてありがとう。必ず時間を作って行こう」
「ありがとうございます」

 今日の買い物は中止になってしまったが、婚約者は家族想いだということだけはよく分かった。
 私にもこうやって心配してくれたり優しくしてれるんだろうなと前向きに考えておいた。

 今日は一緒に義妹の面倒を見ることにしたのだが……。

 ♢

「シャロン!? 大丈夫か!?」
「うん、義兄様、ありがとう」

 私と同い年くらいの女の子。ハーベスト様に物凄い甘え口調で喋っていて、ボディタッチが激しい。余程ハーベスト様のことが好きなんだろう。

「あ、ジュリエルさんも、とりあえずありがとう」
 直後、別人のような口調で私に棒読みでそう言ってくるのだ。
 今の印象では、シャロンさんとは仲良くしていける自信はない。

「熱は下がったのか?」
「うん、汗かいて平熱まで下がった。だから義兄様、お風呂入りたい」

 ハーベスト様も、私に対しての態度に関して少しは注意してくれてもいいのに……シャロンさんに夢中なようだ。

「分かった。使用人にすぐに準備させよう。今日はどうするのだ?」
「うん、今日も義兄様と一緒に入りたい」
「わかった」

 え!? 婚約者の私がいる前で平気でそんなこと言ってしまうのですか?

 驚くばかりで、私は何も言えずに部屋を出て行った。
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