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しおりを挟む食事が終わったところで美沙絵が席を外したので、この間に会計を済ませておこうと伝票を見て、あれ? と思った。
繭子はレジに向かうと一平に伝えた。
「先にお会計をお願いしたいのですが、1人分の金額しか書いてないんですけど…」
すると一平はちょっと声を潜めて繭子に言った。
「いいの、それで。今日は気分がいいから本当は全部タダにしたいところなんだけど、美沙絵ちゃんにお礼がしたいんでしょ? だから彼女の分だけ。繭子さんの分は俺のオゴリ。他のお客さんには内緒ね」
一平がシーッと人差し指を唇に当てた。
「そんなのダメです。ちゃんと払わせてください」
繭子も小声で一平に抗議した。
「いいから、いいから。ハンカチをくれたお礼。ほら、それより早くしないと美沙絵ちゃんが戻ってきちゃうよ」
そう言われて慌てて支払ったが、繭子がいくら2人分を渡しても、一平は頑として1人分しか受け取ってくれなかった。
店を出ると、美沙絵が改めて繭子にお礼を言った。
「繭子さん、ご馳走さまでした。それから素敵な栞もありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ先日のお礼ができてよかった」
「今日は楽しかった! また近いうちにぜひ会いましょうね」
「私も楽しかった。またぜひ。旦那さんにもよろしくお伝えください」
一緒に駅に向かっていたが、美沙絵は帰りに寄る所があるというので、お互いに笑顔で手を振って途中で別れた。
一平は繭子たちの皿を洗いながら思っていた。
繭子さんに余計な事したかな……。でも、何故かああせずにはいられなかった。美沙絵から貰ったカステラももちろん嬉しかったが、繭子がくれたハンカチが本当に趣味がよく一平の好みにもピッタリだったので感激してしまったのだ。確か、海島綿って高級だよな…しかも2枚だから無理したんじゃないだろうか。仕事を辞めたっていうのに…。彼女の気持ちも考えて美沙絵の分だけは貰ったが、全て払えなくて不満そうな顔をしていた。その気持ちだけで十分だよ、と一平は心の中で繭子に言った。
話し声までは聞こえなかったが、今日の繭子は表情豊かで美沙絵と楽しそうに話していた。思った通り、あの2人は気が合ったみたいで、いい友達になれそうだ。それに、少しふっくらしたようだ。この前、倒れていた繭子を抱き上げた時、あまりの軽さに驚いたし、抱きしめた時も折れてしまいそうなくらい細かった。だいぶ元気になったみたいで安心した。
そういえば、店に入ってきて紙袋を渡してくれた時、俺に何か言いかけた気がするが…。まあ、また話したいことがあれば彼女からしてくるだろう。
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