つきせぬ想い~たとえこの恋が報われなくても~

宮里澄玲

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 どこかから微かに聞こえる物音に繭子はゆっくりと目を開けた。
 ……ん…もう朝…?……あれ? 何かいつもの布団の感触と違う……?
 「……っ!」
 そこで繭子はハッと気づき、ガバッと起き上がった。
 そ、そうだ、私、一平さんと……! 思い出して顔がかぁ~となる。
 最後の方は意識がほとんど飛んでしまっているが、私、そのまま寝ちゃったんだ…! でも、あれ? 下着を穿いているしワンピースも……、えっ、も、もしかして一平さんが着せてくれたの……? えっ、ちょっと待って…! えっ、えっ…、え、えぇっっ!?
 混乱してじたばたしていると、寝室のドアが少し開き、一平が隙間から顔を覗かせた。
 「…繭子? 起きたのか…?」
 一平は繭子が起きているのが分かるとすぐにベッドに近寄ってきた。
 「物音で起こしてしまったか? 悪かったな」
 ベッドの縁に腰かけた一平が片手で繭子の髪を優しく撫でながら心配そうに目を合わせる。
 「身体は大丈夫か…? 辛いところはないか…?」
 繭子は頬を赤く染めて俯いた。
 「大丈夫です…何処も何ともありません」
 「そうか、それならよかった…」
 一平は繭子をフワッと胸に抱き寄せた。
 「今風呂に入ってきたんだが、繭子も入るか? それともまた寝るか?」
 顔を上げて一平を見ると確かに髪が濡れているし、湯上りの身体の温もりを感じる。
 「今、何時ですか…?」
 「もうすぐ11時になる」
 朝だと思っていたが、まだ11時か…。思っていたより時間は経ってない。それでも深い闇の底に沈んでいたかのように意識を失くして熟睡してしまった……。
 「繭子?」
 「あ、いえ、大丈夫です! あ、じゃあ、お風呂…いただきます…」
 繭子は恥ずかしさを隠しながらベッドから抜け出した。
 
 身体を洗ってお風呂に浸かるとしばらく放心するようにじっとしていたが、それから膝をギュッと抱えると身体を丸めた。
 私…本当に一平さんと結ばれたんだ…。まるで夢の中の出来事のようで…。そりゃあ、私もそのつもりではいたけど……。
 改めて思ったけど、一平さんってやっぱり成熟した大人の男性なんだな……。あの年代の男性のみんながそうなのかは分からないけど、ああいう場でも落ち着いていて余裕があるというか……。言っていた通り、私のためにゆっくり時間をかけて優しくしてくれて、私をとても気遣ってくれた。でも私を見つめる目がひたすら甘くて……。それに、思い出すだけでも恥ずかしくなるが、一平さんの大きな手や長い指や薄い唇や熱い舌で、あんなことや…あんなことや…あぁっ…あんなことまでされてしまった……! 私、初めてだったのにすごく感じてしまって……自分でも聞いたことのない声をたくさん上げてしまって…! 
 繭子はぶわわゎゎぁ~と全身が熱くなった。
 うわぁ! だめだ、だめ、も、もう、思い出すのはやめよう、恥ずかしすぎて死んじゃう…!
 目をつぶってブンブンと大きく頭を左右に振り数時間前の出来事を追い出すと、のぼせないうちにお風呂から上がった。
 
 身支度を整えて寝室に戻ると、一平はベッドに入ってヘッドボードに凭れかかって新聞を読んでいた。繭子が近づくと新聞をサイドテーブルに置いて布団をめくると自分の胸の中に引き寄せた。そして繭子を見つめるとフッ…と笑った。
 「よく温まったみたいだね、顔が赤い」
 あ、いや、顔が赤いのはそのせいだけじゃないんだけど……。
 「は、はい…温まりました。ありがとうございました」
 一平は繭子を見つめると、ちょっと言いにくそうに尋ねた。
 「……もう血は止まってるかな…?」
 「…血?」
 「うん…ほら、繭子は初めてだったから……。あ、でも少しだけだったから大丈夫だよ」
 言われた意味が分かり、あっ…とまた顔が真っ赤になる。身体を洗っていた時は全く気が付かなかったし出血もしていなかったが…。あっ、も、も、もしかして、それも一平さんが……?
 恥ずかしくてまともに一平の顔が見られなかった。
 「……あ…はい…だ、大丈夫です…何かその……色々とご面倒をおかけしまして…すみませんでした…」
 消え入るような声で言うと、一平にぎゅっと抱きしめられた。
 「謝ることじゃない。全然面倒なんかかけてないし。むしろ俺はね、君の初めての男になれたことがとても嬉しいんだよ」
 一平の思いやりに胸が熱くなった繭子は今度はちゃんと目を合わせて伝えた。
 「ありがとうございます。私も、心から好きな人に自分の初めてを捧げられて本当に幸せです…」
 繭子の言葉に一平の表情がさらに柔らかく甘くなった。
 「…あぁ…繭子…君が愛おしい。俺も心から好きだよ……」
 そう言いながら繭子の額や頬に優しく啄むように唇を当てた。
 「……これ以上すると俺にまた火がついちゃうからもう今日はここまで。疲れただろう、そろそろ寝ようか」
 「はい…」
 繭子が横になると一平は片腕を彼女の首の下に腕を入れて抱きこむようにしながらもう片方の手で髪をゆっくりと撫で続けた。それがとても気持ちよく、繭子はすぐにうとうとし始めた。さっきも深く寝てしまったというのに、思っていた以上に体力を消耗したのかもしれない。
 「…おやすみ、繭子…」
 薄れゆく意識の中で一平の囁きを聞きながら繭子は完全に眠りに落ちた。 
 
 
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