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しおりを挟む繭子が目を覚ますと、珍しいことに一平はまだ眠っていた。
いつもなら自分よりも早く起きていて目が覚めた時には隣にいないのに。でも、こうして朝も同じ布団の中でくっついていられるのは嬉しいな。
そんなことを思いながら大好きな人の寝顔を見つめていると、軽く身じろぎをした一平が目をそっと開いた。
「……おはよう…繭子が先に起きてるなんて珍しい…」
「おはようございます。フフッ…いつもと逆ですね」
繭子がにっこり笑ってベッドから抜けようとした時、一平に腕を掴まれ引き寄せらせてギュッと胸の中に閉じ込められた。
「一平さん…?」
「…朝からそんな可愛い笑顔が見られて俺は幸せ者だ……もう少しこのままいさせて…」
「……はい。私も一平さんと一緒に朝を迎えられてとても幸せです…」
2人は微笑み合ってまたベッドの中でしばらくの間まどろんでいた。
「あぁ…爽やかないい香り…ミントティーも大好き…」
朝食後に淹れたお茶をゆっくり味わう繭子を一平は満足げに見つめていた。
「ところで、繭子。店で働いてくれてそろそろ1ヶ月になるね」
「あ、そういえばそうですね。もう1ヶ月か…」
「いつも本当にどうもありがとう。君が来てくれて俺はとても感謝しているんだ。毎日店内を丁寧に掃除してくれて、よく働いてくれて、接客も完璧で、言うことなしだ」
「えっ、本当ですか! 私、ちゃんとお役に立てていますか…?」
「もちろんだよ。とても助かっている」
「よかった…」
「それでなんだけど……。もしよければこれからもずっと働いてもらうことはできるかな…。君に負担を掛けてしまうことは分かっているが、できればそうしてもらえるとありがたいんだ」
繭子は嬉しくて飛び上りそうになった。自分の働きがちゃんと認められたということだ。一平から求められて断る理由なんか何一つない。
「はい! もちろんそうさせていただきます。それに負担なんてこと、全然ありませんから」
「本当に? もちろん、君の仕事をちゃんと優先していいんだからね」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「こちらこそありがとう。では、これからもよろしくお願いします」
一平が頭を下げた。
「こちらこそ、これからもどうぞよろしくお願いします」
繭子も改めて挨拶をすると、一平の顔つきがさらに真剣になった。
「繭子、もう1つ話がある。近いうちにここに越してこないか?」
「えっ…」
「部屋は空いているし、繭子の仕事部屋も用意できる。何より君と一緒に過ごせる時間が増える」
「……」
突然の申し出に何と言っていいか分からずに戸惑っている繭子の手を一平が包み込んだ。
「何度も言うが、俺は君と一緒に前を向いて人生を歩んで行きたいと思っている……ああもう、まどろっこしい言い方はやめて、単刀直入に言う」
一平はここで一息ついて心を落ち着かせてから、ゆっくりと言った。
「坂井繭子さん、俺と結婚してください」
「……!」
繭子は驚いた。一平と思いが通じ合ってから、いつかそういう日が来てくれたらいいな、とは思っていたが、まさかこのタイミングでプロポーズされるとは…!
「一緒に店で働いてみて改めて君の素晴らしさが分かった。いつも誠実で一生懸命で、気配りができて思いやりがあって働き者で…。毎日朝も昼も夜も一緒に過ごせたらどんなに幸せだろうかと思った。それにいつか君との子どもも欲しい。何か俺に悪いところがあるなら言ってくれ、直すから。君を悲しませるようなことはしない、幸せにすると誓う。だから、俺と一緒になってください」
誠心誠意、気持ちを伝えてくれるその姿に繭子は心を打たれ胸が熱くなった。でも、やはりこれだけはちゃんと伝えなければ……。
「…あの、依子さんのことですけど…」
「……やっぱりまだ気になるか…。短い結婚生活ではあったが依子が俺の妻だったことは事実だ。でももうこの世にいない。もちろん彼女との思い出がすぐに消えるわけではないが、もう過去は振り返らずに俺は目の前にいる生きている君を大事にするから、だから――」
繭子は首を横に振った。
「違うんです、私が言いたいのはそういうことではないんです。一平さん、依子さんのこと無理に忘れる必要なんてないんです。むしろこれからも忘れないであげてください、依子さんが寂しがります」
「…っ、繭子……」
「お願いです、これからもせめて命日の9月15日はあの海に行って依子さんとお話してください。そして、その時には一緒に私も連れていってください……あなたの妻として」
「……!」
「古谷一平さん、あなたと結婚します」
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