小頭はBL

壺の蓋政五郎

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小頭はBL 5

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「構わないが保存会に若い女の人はいないんだ。おばさんは数人いるけどね、大丈夫かな?」
「私、男です。西田鉄男と申します」
 健司は何と返事をすればいいか迷った。康介が二人を見ている。
「康介、先に風呂に入れ」
「はい」
 康介はにやけて食堂に入って行った。
「俺は佐藤健司、小松組の小頭です。今年から神輿同好会の会長になったばかりなんだ。大歓迎だよ、男でも女でも。この町は砂押川岸に昔から暮らしている人と、アパートに暮らす地方出身の人、そして大多数を占める山の上に出来た新興住宅に暮らす人、そんな構成の町さ。だから上と下であんまり接点がない。その接点を探り見出したのがお神輿なんだ。上の人と下の人が一緒にならなければ今泉は発展しない。それに尽力を注いだ一人がうちの先代なんだよ。まだ同好会が出来て八年、神輿ももらった子供神輿を改造したものだ。同好会に参加して子供達のために是非協力して欲しい」
 健司は若い力が欲しかった。現在の同好会は地方出身の職人と新興住宅の町づくりに熱心な者によって成り立っている。逆に鉄男は躊躇った。鎌倉の佇まいと歴史に興味を持っていた。鎌倉のお祭りなら歴史があると思っていた。健司の話では十年にも満たない。神輿もいただきもの。単なる町興しに感じた。歴史の中にどっぷり嵌り、鎌倉の住人として携わりたかった。
「考えさせてもらってもいいですか?」
 自分から尋ねておいておかしな返答である。
「ああ、いつでも歓迎さ」
「お祭りはいつですか?」
「八月の最初の土日だよ」
 もう一月を切った。鉄男は一礼して帰った。
「ただいまです」
 健司が食堂の引き戸を開ける。
「お先にいただきました」
 康介がブリーフ一丁に背にバスタオルを掛けて風呂からあがって来た。
「康介、ちょっと来い」
 康介を表に呼び出した。
「康介、宿舎じゃその恰好でもいい、でも食堂に居る時はいくら風呂上りでもそのパンツ一枚はよくない。短パンぐらいは履いてろ」
「すいません、でもどうしてですか?」
 晶子も尚子も独身である。若い康介のブリーフ姿は刺激が強過ぎる。
「いいから言う通りにしろ」
 健司は理由を伏せた。多感な年頃、それに橘樹夫人との妄想に耽っている康介に晶子の視線が危なく感じた。先代に先立たれてから悶々としている晶子である。おかしな関係になってしまえば先代に申し訳ない。健司はそのリスクを減らすために康介を注意した。そしてもうひとつは嫉妬でもある。康介は自身の性に悩んでいる。この二日間健司とおかしな関係になってしまった。健司は自分と同じ性であることを望んでいる一方、親から預かった康介におかしな方向付けしてしまうのは不純と考えてしまう。
「ところで頭は?」
 健司がビールの栓を飛ばして訊いた。
「営業だって」
 晶子が答えた。
「昨日の晩もですよね」
「営業、営業、経費、経費って困っちゃうわ」
 晶子が愚痴を溢した。
「他の住宅メーカーの方ならともかく、どうせ住建の柴田さんでしょ相手は、いくら飲ませたって出てくる量は一緒だから」
 尚子が厨房から出て来た。
「小頭から頭に言ってください。母さんは何も言えないんだから」
 尚子が健司に酌をした。晶子は浮気を目撃されたトラウマがあり晃を甘やかして育ててしまった。見られたのは一度だけだがあの時の晃の目は忘れられない。
「そうしておくれよ小頭、私の手に負えないよ」
「私はそんな立場じゃありません。それに仕事で弱音は吐きませんがどうも営業的なことはからっきしです。頭には頭の考えがあると思います」
 健司も晃の金遣いの荒さや計算の甘さには頭を痛めていた。仕事の激減と単価の下落は棟梁から耳にしている。小松組の営業も火の車である。なんとかしなければ廃業の危機もそう遠くない。しかし親族の前で出しゃばった発言は控えていた。小頭とはいえ所詮一職人に過ぎない。
「だったら言える立場になればいいんだよ」
 後藤が口を挟んだ。
「そうよ、早く尚子を嫁にしてよ。そうすれば小頭が兄分になるんだから頭のの暴走止められる」
 晶子が尚子と健司を交互に見て笑みを浮かべた。
「もう、母さんたら」
 尚子が照れて二階に上がった。
「小頭、俺が言うのもなんだけどさ、尚子ちゃんも来年三十路になる。ぼちぼち決めねえとそれこそおめえの口癖でもある先代に申し訳ねえんじゃないのか」
 後藤は熱燗が三本目に入っていた。酔いに任せて口が滑らかになっていた。健司も自分の性が普通であるならばとっくに尚子を嫁にしている。女の裸を見ても性的な刺激は感じない。そんな体質で尚子を嫁にしたら不幸にするだけだと思っている。
「すいません、そのことはいずれお話しします」
 健司は残りのビールを煽って席を立った。食堂を出て宿舎に戻った。
「今の聞いた?」
 後藤が晶子に問う。
「何が?」
 晶子には後藤の質問の意味が解らない。
「いずれお話しするって小頭の」
「意を決して尚子を嫁にするときまで待ってくれってことでしょ。これでその気になってくれたかもね」
 晶子は健司の決意と勘違いしている。
「そうかなあ」
「お前さんはそう取らないの?」
 後藤は四本目の徳利を鍋に入れた。そして薄ら笑いを浮かべている。
「どうしたんだい気持ち悪いね、聞かせてみなよお前の受け止めを」
 晶子は後藤の薄笑いが気持ち悪い。
「やあね、予想が一人歩きしちゃまずいからさ。姐御にも言わねえ方がいいかな」
 後藤は口の軽い晶子に話すのを控えた方がいいと渋った。尚子に知れて悩ませては一大事である。
「そうかい、言わなきゃいいさ、安寿様の見積もりで頑張ってくれたから褒美を考えていたんだけど、そうかい、ならいいさ」
「おいおい姐御、それとこれとは別話だろ」
「そんなことないさ、世の中全部絡み合っているからね。これはこれとかあれはあれとか割り切って生きていけるほど甘くないよ。だってそうだろ、飯を食うから便が出る、便が出るから腹が減る。そう言うもんだよ人生は」
 晶子の難癖が始まった。例えが本題と掛け離れているがその距離を縮めていかにも関連があるように説き伏せる。それに安寿からの入金は全て小松組の口座に振り込まれるので後藤にはどうすることも出来ない。
「まったく姐御のいちゃもんには敵わねえや、安寿様と交渉したのは俺だからね、ちゃんとバックマージン下さいよ。その点死んだ頭は太っ腹だった。俺の見積もりより多い分はお前の裁量だって面倒看てくれたよ」
「あたしは頭じゃありませんからね、それにご時世が違うよ。バックが欲しけりゃいい仕事を取っておいで」
「分かったよ話せばいいんでしょ」
 これ以上晶子と交渉しても始まらないと後藤は諦めた。
「尚子ちゃんを嫁にしねえ理由には自分の裁量不足だと健司は言っているけれどどうも違うような気がする」
「もったいぶるんじゃないよ」
 後藤のテンポに晶子が焦れた。
「あいつが入ったのは十六の時、俺がソープランドに誘っても照れて固辞していた。酒を覚え始めた十八の頃も付き合わない。俺の奢りだと言っても断り続けた。成人式を迎えた年にはあっちの性人式だと俺と辞めた向井の二人で無理やり連れ出そうとしたら、逆切れしやがって暴れやがった。それ切り誘うのは止めた。それから八年だよ」
 晶子にも後藤の言わんとしている意味が何となく感じる。
「だからどうなのさ?」
 最後まで言わせたい。晶子はとぼけて先を要求した。
「姐御、健司に浮いた話があるかい?飲みには出るけど外泊したことがあるかい?ありゃ童貞だ、俺はずっと寮で一緒だからさ、あいつが旅行以外で外泊したことはない。旅行に行っても宴会後に芸者と遊んだりはしない」
「それは尚子を迎えるまできれいな身でいようと決心しているんじゃないのかい。先代から頼まれた尚子、健司は律儀だからね、そう言う男気なんだよ、お前と違って」
「俺を比較に出すな」
 晶子は段々と後藤の察するところが見え始めた。見えてくると否定したくなる。それは尚子がこの話を聞いたらどれだけ悲しむか想像出来るからである。
「姐御、もしかしたら健司は女に興味がないんじゃないかな、いやこれは俺の想像だからな、他で喋るなよ」
 後藤は燗冷ましをグラスに注いで飲み干した。晶子は予想はしていたが後藤の締め括りの言葉に胸が詰まった。尚子は健司が迎えに来るまでじっと待っている。もしも後藤の読みが正しければいくら待っても尚子に春は来ない。
「もしそうだとして治るのかねえ?」
「治るって何が?」
「言わせんのかい、この甲斐性無しが、健司の性癖だよ」
 後藤は飯に味噌汁をかけていた。笑って茶碗が揺れて汁が零れた。
「あちちっ。姐御、そんなことは姐御の方が詳しいだろ。好きな体位は一生変わらない。好きなタイプもそんなに変わらないだろう姐御、尚更のこと好きな相手が男か女か、そんなことは治るわけがない」
 晶子の願いをバッサリと斬り捨てた。
「こういうことは考えられないかねえ?」
「どういうこと?」
 晶子は否定するためにあらゆる可能性を後藤に示した。
「健司は若い子が好きじゃない、あたしのような年増が好み。だからあたしに気を使い尚子に言い寄れない」
「それは無いな」
 晶子が後藤の肩を突いた。後藤は飲み込んだ飯を噴き出した。
「きったない」
「汚いっていきなり肩を突くからだよ」
「どうしてあたしの可能性が無いって言い切れるのさ?」
 後藤ははっきりと『それが男の本能だ』と言いたかったが晶子に嫌われてバックマージンを削られても面白ないと吞み込んだ。
「そんなに思うなら試してみなよ姐御。もし姐御の言う通り健司が年増好みなら逆に安心だ。女は若い方がいいと直に分かるからさ」
 晶子はまた後藤を突いた。今度は茶碗を落とした。
「お前は女心の分からない男だねえ、だからその齢まで独り身なんだよ」
 後藤は欠けた茶碗を拾い上げた。

「おはようございます」
 健円寺塔頭妙義庵の門前で大きな声を張り上げたのは康介である。
「今日も留守か安寿様は?よし裏から入ろう」
 健司が先頭に裏山の前に立った。安寿は昨日尼僧の集まりに出掛けていた。昨日はお盆の上に書置きがありお茶と茶菓子を縁側に用意してあった。それが今日はない。
「小頭、昨日の夕方置き場に居た人は男でしょ?」
 康介が西田鉄男のことを訊ねた。
「ああ、よく分かったな、俺は気付かなかったよ。女だと思って話していたら自分から男だと話してくれた」
 健司は男と聞いてすぐに反応してしまったのを覚えている。男だと分からなければ何も感じることはない。
「何しに来たんですかあの人?」
「神輿の同好会に興味があるらしい」
「本当ですか、それで入会したんですか?」

  
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