蠱惑

壺の蓋政五郎

文字の大きさ
上 下
17 / 21

蠱惑『拱手』

しおりを挟む
 卒業式は中止になりました。式は中止でも卒業する。入学式も中止です。でも入学はした。僕等は五人の漫画クラブ、正式なクラブではありません、ただ漫画好きが五人集まって中一の時から活動していました。僕等は絆で結ばれていました。絆と言う言葉を借りて遊んでいたのです。
「漫画なんて書いてばかりいないで勉強しなさい」
 母は二階の僕の部屋に1リットルのサイダーと袋入りのスーパーの小さなドーナツを差し入れしました。僕と三人は既に高校が決まっています。吉田守だけが就職と言う選択をしました。
「マモル、お前吉永先生と付き合っているって本当か?」
 この噂を聞いて知っているのは僕を含めてクラスの数人です。漫画クラブの斎藤も和田も柳も知りませんでした。
「うそっ」
 僕が唐突に話したから漫画どころではなくなりました。
「嘘だろっ」
「本当さ」
 守は冷静でした。
「付き合っているって、音楽教わるとか、お茶するとかそんな感じだろ?」
 僕はそうであって欲しかった。
「いや、普通に男女の関係だし、俺に惚れてるよあの女」
「あの女ってそんな先生に対して」
 和田は怒っているようです。
「それに吉永先生ってもう四十過ぎてるんじゃない」 
 柳はマモルをはみ出した生ごみを見るように目を顰めた。二十五過ぎればばあの仲間入りと考える年頃で四十過ぎは既に妖怪の域に達しています。それが証拠に母親は女から除外されています。
「そうだ、女んち行ってみるか。紹介するよ。だけどこのことは内緒だぞ。女って言う生き物は不思議なものさ」
 僕等は恐い物見たさというか、マモルに誘われて吉永先生のアパートに行きました。
「ただいま、友達を連れて来た。おい上がれよ」
 僕達は狭い玄関でお互いに先に上がるよう仕向けていました。
「どうぞ、あら、見覚えがあるわみんな」
 吉川先生は非常勤だから週に五時間しかなく、クラスの違う僕等は月に二回ぐらいしか授業を受けていませんでした。薄いパジャマ姿の吉川先生はマモルの靴を揃えて僕等に上がるよう誘いました。
「狭いから二人ずつ入れよ」
 四月の半ばですが気温が低く炬燵の一口に二人ずつ入りました。
「和田は大きいから一人でいいよ。俺と玲子が一緒に入る」
 僕等はこの光景が不思議で何か次元の違う世界に入り込んでしまったような気がしました。照れる僕等を気にすることもなくマモルと吉川先生はピタッとくっ付いて僕等を順番に見ていました。
「こいつらさ、俺と玲子が付き合っているって知ったらさそれは不純だって」
 マモルが言うと吉川先生が笑いました。吉川先生は僕の母より年上で、それに齢より老けて見えます。でも唇だけが真っ赤で笑うと歯が真っ白でした。
「それって齢の差があるからってこと?」
 吉川先生の足は私の股間に伸びていました。親指で僕のアレを擦るのでした。僕は勃起してしまいました。
「そう言うことよ、解った。齢の差なんてそういうこと」 
 意味不明でしたが僕はこのことを仲間には黙っていました。それから僕はたびたびマモルと一緒に吉川先生のアパートに遊びに行きました。照れ臭いけどそれ以上を求めている自分が恥ずかしい。でも我慢出来ませんでした。吉川先生はそれを見抜いていました。マモルの死角で僕をからかうのでした。スカートを捲ったり、乳首を摘まんだり、僕をあざ笑うように楽しんでいました。吉川先生の収入は新型ウィルスで断ち切られ、マモルの新聞配達が収入源となっていました。マモルは原付の免許を取得し、配達部数を増やし、昼の空いた時間に勧誘もしていました。漫画クラブの僕等は高校にも行かず、週に一度僕んちの二階で漫画談議に耽っていました。そしてとうとう無駄な外出はするなと親からの言い付けで、ラインのやり取りだけで繋っていました。僕は母より年上の吉川先生のことばかり考えるようになりました。
「マモルいますか?」
 昼のこの時間にマモルは勧誘だと知っていました。「どうぞ」と甘い声の吉川先生は薄いパジャマ姿でオルガンを弾いていました。
「両隣と上がお留守の時間が今なの、オルガンの練習チャンス」
 耳にしたことのないジャズを弾いていました。僕はマモルが帰って来るのじゃないかとそわそわしていました。
「君、濁川君だっけ?」
「はい」
「君達五人は『絆』で繋がっているんだって、マモルから聞いた。どんな絆?」
 吉川先生は僕の首を抱きしめて言いました。母親より年上のおばさんに、どうしてこんなにまで興奮してしまうのでしょうか。
「絆は深くて、お互いの秘密は無し、何かあれば助け合い、それは永遠に続く深い絆です」
 吉川先生はパジャマを脱いで乳首を僕の顔に押し付けました。
「これはマモルに言うの?絆で結ばれているんでしょ。どうなの?これは助け合い?」
 吉川先生は言いながら笑いました。
「あなた達は可哀そうね、卒業式も入学式も経験せずに。強い力に押し流されるならまだいいけど、どんよりと澱んだ、回転速度の遅い渦に呑まれて身動き出来ないでいる。そうだウイルスっ子て呼ぼう」 
 吉川先生は僕のシャツを捲り上げて乳首と乳首を押し当てました。階段を駆け上がる足音。吉川先生は「帰って来たわうちのウイルスっ子」と言ってパジャマを直しオルガンを弾き出しました。僕はシャツを直し膨らんだアレに小さくなるためのおまじないを掛けました。電車やバスの中で危ない時に使うおまじない。腐った魚の臭い、道路で轢かれた猫の死体、汚いものを連想して元に戻すおまじないです。
「ただいま、おっ、濁川来てんの?」 
 靴を脱ぎ捨て炬燵に足を突っ込みました。吉川先生の弾くジャズに肩を揺らしています。この数週間で僕等を引き離し、ひとりで大人の世界を進んでいくマモルが羨ましく感じました。
「学校はまだ始まらねえのか」
「ああ」
「いいなあ、ボンボンは、うちはあいつがぷー太郎だから俺の安い稼ぎだけだよ。それに実家にもいくらか寄付しないとな。働けど働けどってやつさ」
 同級生と話している気がしませんでした。家計のことなど気にしたこともない僕は、マモルが一家の主として家計を支えている様が不思議でなりませんでした。
「明日の漫画クラブは来る?」
「決まってんじゃん、勧誘空けて出席しますよ。俺の唯一の楽しみ取らないでくれる、うちの奴にも了承済み、なっ」
 吉川先生はスイングしながら頷いた。
「絆覚えてるマモル、漫画クラブの五人で約束した絆?」
「覚えているさ勿論、絆は深くて、お互いの秘密は無し、何かあれば助け合い、それは永遠に続く深い絆。しっかりとこの胸に刻んでいますよ」
 言い終えてマモルは笑った。吉川先生と見合って笑いました。
 
 母は感染を恐れて、差し入れをしてくれませんでした。廊下、階段、トイレ、それと僕の部屋その通路以外歩くなと貼り紙もしてあります。うちに慣れた四人は勝手に台所からお菓子や飲物をまさぐる癖が付いているのでそれを厳禁にしたのです。
「あなた達が感染して私達にうつすのよ」
 もっともな母の意見でしたが、母が出掛けると早速台所荒らしが始まるのでした。僕の家はこの四人の中では一番豊かで、と言っても中産階級ですが、マモルはあの通りだし、他の三人もアパート暮らしでした。
「うちのお袋パート首だって。親父の稼ぎじゃ俺の学費も出せないって。十万円あてにしてるよ、四人だから四十万入るし、でも親父が狙ってるんだその金。もしお袋に手を上げたら俺親父殺す」
 和田が龍の髭に色を入れながら言いました。
「すげえなあ、うちは母親と二人だから二十万、寿司食いに行く」
 斎藤が嬉しそうに言った。
「お前は幸せだなあ、寿司で騙されて、うちの母親は在日だからもらえるのかどうか心配してた。日本語得意じゃねえしな」
 柳が母親を心配していた。
「もらえるさ、外国人ももらえるってテレビでやってた。分からなければ市役所に行けばいいんだ」 
 僕は柳の母親を知っています。若くてきれいでおとなしくて、あの親父に騙されやしないか心配でした。
「ところでマモルんちはどうなるの?吉川先生はもらえるだろうけど、お前の分は」
「俺はまだ未成年で入籍してないだろ、あと二年。内縁って言っても同棲だからな。住所はまだ移していないんだ、失敗したな。でもお袋に入ればそれでよし。その分俺の負担が減るからさ」
 マモルは僕達の誰より現実的でした。
「ところで濁川さ、俺の留守中にうちに来るの止めてくれないな」
 マモルが突然言いました。「えっ」とみんなが驚いていました。僕がマモルの留守中に訪問することが信じられないのでした。
「そりゃマモルの言う通りだ、いくら音楽の先生だからって個人授業受けようと思ったのか。嘘みたいな話だけど吉川先生はマモルの奥さんだぞ。お前が悪い。俺達には考えられない」
 斎藤から突き放されました。
「もし濁川の留守中にここの誰かが上がり込んでお前のお袋とお茶してたらおかしいだろ」
 和田も斎藤に続きました。
「目的はなんだ?」
 柳が笑いながら訊きました。その笑いはいやらしい魂胆を見抜いているようでした。
「目的なんかないさ、マモルに会いに行ってるだけだよ。少し早く着いたから上げてもらっただけさ、俺達の絆想い出せよ」
 焦れば焦るほど言い訳になりました。
「はい、絆絆」
 柳が茶化しました。僕は腹が立って柳に飛び掛かりました。結果は柳に馬乗りにされて顔に二発パンチを浴びて止められました。そして漫画クラブも解散しました。卒業式にクラスで披露しようとしていた大作も破り捨ててしまいました。顔の痣は母の怒りとなり柳の家に両親で出向きました。柳の父は留守で、あの気弱な母親が、うちの両親の剣幕の三分の一も理解せずにひたすら頭を下げていたようです。翌日柳から〈会いたい〉とラインが入り母の買い物中に家を抜け出しました。
「俺が先に飛び掛かったんだ。柳は悪くないよ。この痣は実力の差だ」
「それは分かってる。俺が呼び出したのはそのことじゃない、うちの親父が復讐に来るからそれを伝えに来たんだ」
「復讐ってどうして?」
「うちの母親あの通りだろ、十五年日本にいるけど外に出ないから日本語からっきしだし。親父はそういうことが仕事だから」
「仕事って?」
「金で解決するつもりさ」
 僕は柳の忠告をあまり理解出来ませんでした。
「どうすればいいんだ、うちの親父は警察に電話するぞ」
「捕まれば俺は高校辞めなきゃならない。あんな親父でも生活費は入れてる」
「じゃお金を支払えばいいのか、そんなこと親父に言えない。うちの親父弱いけどそういことには屈しない」
「なあ、俺達絆で結ばれているよな」
「ああ、それは永遠にだ」
「頼む、僅かでもいいんだ、これだけしかないから許してくれと十万とか十五万とか渡して欲しいんだ。頼むよ濁川」 
 柳は自転車で帰って行きました。僕はその晩プロ野球が無観客で始まると大喜びの父親に柳の願いを伝えました。父は「ようし、返り討ちだ」と冗談を飛ばしていました。
 「きゃっ」と母親の声が玄関でしました。僕と父親が飛び出すと出刃包丁をフローリングに突き立てた柳の父親がいました。
「警察に電話するならしてもいい、それでもまた俺は来るよ」
 柳の父親は凄みを効かせました。父は恐いのに母と僕がいるから強がって空手の構えで応戦しました。
「うちの子がお宅の子に殴られたのにどうして逆恨みするんだ」
 親からすれば父の理屈が通るかもしれません。
「うちのガキはそのガキが飛び掛かってきたから受けただけだ、それを言葉の不自由な朝鮮人の女房を脅しやがって、泣き通しだよ、気が小さいからな、自殺でもしたらどうしてくれる」
 父も母も柳の母が朝鮮人であることを知りませんでした。二人で「どうして言わなかったの」と言う顔で僕を睨みました。朝鮮人だったら行かなかったのでしょうか。
「それは悪いことをしました。奥さんには謝っておいてください」
 父は謝罪しました。母はうろたえるばかりです。
「その気持ちを表してくださいよ朝鮮人の女房が納得するように、そうじゃないと団体で押し掛けるかもしれない」
 父は「おい」と母に顎を振りました。母は封筒を持って父に渡しました。
「少ないがこれを奥さんに渡してください」
 柳の父は封筒から札を出して数えました。
「人権侵害がこれですか、今日はまあいいでしょう、ですがこれじゃ納得しませんよ女房の所属する団体が、団体が仲裁に入ると話は大きくなりますよ、お宅も弁護士を雇うようになるでしょう。それで示談になるけど相当な金額になる。テレビを観ていて分るでしょう。徴用工問題もこじれてますよ。それじゃまた来ます。この五倍は用意しておいてください、女房には団体に話さないよう説得しておきますから、早い方がいいですよ。安いもんだ、得したねあんた」
 柳の父は出刃を抜いてリュックに仕舞い、帰って行きました。
「どうして彼のお母さんが朝鮮人だと教えてくれなかったんだ」
 父は僕を責めました。その理由がよく理解出来ませんでした。
「だから俺、父さんに行かない方がいいって言ったじゃん。母さんにも言ったよね」
「そうじゃない、彼のお母さんのことだ。分かっていれば行かなかったのに」
「どうして?」
「そりゃ弱者を虐める様に映るからさ」
 それでも僕には納得することが出来ませんでした。柳の母が何処の国の人だろうがやさしくてきれいな人であることが僕の中の現実でしかありませんでした。翌日柳を呼びました。〈お父さんが来た、会いたい〉〈了解、いつものとこ〉私は母が買い物に行く時間に合わせました。
「早いね母さん、どこ行くの?」
「銀行に行きます」
 母は心配症だから柳のお父さんが言っていた『この十倍』の金を下ろしに行ったと思います。
「金払ったけどまた来るって」
 柳は黙っていました。
「出刃包丁で脅された」
「嘘?」
 柳は驚いていました。
「うちの親父は出刃包丁を怖がっていたけどそのことで金を出したんじゃないんだ」
「お袋のことか」 
 柳はすぐに気が付いたようです。
「どうしてお袋さんのことって分かったの?」
「そういうもんだよ」
 僕は分かりませんでいた。
「そういうもんて?」
「お前も勘が悪いねえ、嫌いなんだよ、だけど後ろめたいんだよ、そして恐いんだ、だからお前んちの親父も金払ったんだ」
「俺は柳のおふくろさんがきれいでやさしいから好きだったんだ」
 柳は薄ら笑いを浮かべました。
「濁川、お前は幸せもんだよ。親父が来ても金払うなと言ってくれ、親父昨夜帰ってない。巻き上げた金で遊び歩いているんだ。親父が来たらラインしてくれ」
 柳は自転車を断ち漕ぎで帰りました。その晩柳の親父は来ませんでした。もしかしたらこのままもう来ないかもしれない、それを願っていました。

 翌日僕は吉川先生のアパートに行きました。マモルがいなければ玄関先で待つつもりでした。この時間はいつもだとオルガンの練習をしているのですがオルガンの音は聞こえませんでいた。マモルから留守中に上がるの止めろと釘を差されていました。それでも吉川先生の挑発が忘れられない。特に炬燵の中で股間を爪先で弄られた感触は想い出すとすぐに反応します。隣の夫人がゴミ出しに出る時に僕の膨れた股間に気付いて笑いを堪えています。また戻る時に堪え切れず「ううっ」と声が洩れました。そしてあろうことか窓を開けて同居人にも知らせたようです。僕は仕方なくノックしました。返事はありません。ノブを回しすと鍵は掛かっていませんでいた。玄関に入りました。
「こんにちは濁川です。吉川先生いますか」
 返事はありませんがオルガンに伏せて寝ているようでした。僕は堪らず、吉川先生の後ろから抱き付きました。
「先生、僕我慢出来ない」
 すると吉川先生は椅子から滑り落ちる様に畳に倒れました。薄いパジャマの胸は開け、茶色い乳首が覗いていました。吉川先生の異変よりその乳首に刺激され自慰をしました。飛沫は先生の顔に飛び散りました。その時マモルが玄関にいました。一緒にいたのは和田と斎藤です。
「お前何やってんだ」
 マモルは土足のまま上がって吉川先生を見下ろしました。
「お前殺したのか?」
 僕は首をおもいきり横に振りました。斎藤が隣に駆け込み警察に電話しました。
「俺は何もしていない」
「何もしていないって」
 マモルは拳を握り締め泣くのを我慢していました。
「マモル来い、濁川を閉じ込める」
 和田が叫びました。マモルは走って家から出ると同時に外から施錠しました。僕は慌てました。玄関に飛び降りて鍵を開けましたがドアは開きません。外から押さえられています。靴を履いて上がりました。倒れた吉川先生の首に絞められた赤い痣があります。オルガンの足元にベルトが落ちています。よく見るとそれは僕のジーンズ用に買ったものでした。新型ウィルスで外出が出来なくなり一度も使っていません。それを拾い上げまた投げ捨てました。その時警察が踏み込んで来ました。僕は取り押さえられ連行されました。正直に説明すればするほど信憑性に欠けてしまいます。僕がマモルの留守中に何度も訪問しているのを隣が目撃していました。吉川先生の首を絞めたベルトは僕の物、決定的なのは死んだ吉川先生に精液を掛けたのは誰が見ても聞いても異常でしょう。
「君だよね、どう考えても君しかいないだろ」
「違います、僕が入った時に吉川先生は既に死んでいました」
「だったらどうしてすぐに連絡しないの。上がり込んで後ろから抱き締めた序に首絞めた、違う?」
 取調室の刑事の誘いに首を振るだけが抵抗でした。
「死体の顔にぶっかけて、これ以上おじさんも恥ずかしくて言えないよ」
 翌日両親が接見に来ました。
「何てことしたの」 
 母は泣き出しました。
「お前は新型ウィルス禍で自宅待機していて精神が不安定になったんだと弁護士さんが言っていた。なかなかいい弁護士さんじゃないか。精神鑑定をすれば病気であることが判明するだろう。罪は罪として、病気は病気として治療しなさい」
 父は僕がまるで新型ウィルスの犠牲者のように落胆していました。いくら違うと叫んでも「うん、うん」と頷いています。そう言えば吉川先生に僕等は卒業式もない卒業生、入学式のない入学生、ウィルスっ子と呼ばれました。
「これ、お前の大事な仲間から励ましの手紙だ」
 手紙を広げました。
『濁川君、僕達漫画クラブ一同は君の帰りをいつまでも待っています。絆は深くて、お互いの秘密は無し、何かあれば助け合い、それは永遠に続く。絆は永遠です。マモル、和田、斎藤』
 僕は悔しくて涙が出ました。
「いい友達を持って幸せだな」
 連名に柳がありません、そうだ柳の父は来たのだろうか。
「父さん、柳のお父さんは?」
 父も母も首を振りました。
「来たのはお母さんだった。チマチョゴリを着て柳君と一緒に来た」
「どうして柳のお母さんが?」
「柳君は自首した」
 そうです、柳は予告通り父親を殺害しました。そう言えばあのベルトは柳に上げたのでした。うちに来るたびにずっと欲しがっていました。吉川先生を殺したのも柳にちがいありません。僕と同じように吉川先生にウィルスっ子とからかわれたのかもしれない。短気だから父親同様殺してしまったんでしょう。
「お金は、お金はあげたの柳のお母さんに?」
「ああ、上げたよ。仕方ないさ朝鮮人だもの」
「どうして仕方ないの?」
 担当が僕の肩を叩いて接見時間の終了を告げました。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

やっちん先生

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:1

輪廻

ミステリー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:9

グンナイベイビー

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:8

憂鬱喫茶

ホラー / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:0

笊の刺

ミステリー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:2

回想電車

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:370pt お気に入り:1

サンタが街に男と女とB29

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:6

日本列島壊滅の日

ミステリー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:3

処理中です...