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蠱惑『今日様』
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私は物心がついたときには既に祖母に育ててもらっていました。そして小学校に入学するまでずっと祖母が母だと思っていました。祖母も、母と慕う私に打ち明けることが出来ないでいたそうです。
「お母さん運動会でリレーに出るよ」
「すごいね幸一」
私に何かあると必ず寝室の柱の前で手を合わせるのでした。
「幸一が一等賞を取れますように。幸一が転ばないで完走できますように。幸一の靴が脱げませんように、今日様お願いします」
寝室の柱には『今日様ありがとう』と札が貼ってありました。私が祖母と知ったのは小学校の担任に祖母が呼ばれた時でした。私がクラスの女の子の頭を叩いてしまい祖母が呼ばれたのでした。
「どうして叩いたの?」
担任の女教師は私をきつく睨みつけました。
「そんな怖い顔したら子供の躾になりません」
祖母が女教師に言い返しました。
「おばあさん、それは違う、甘やかしてはこの子はまた叩きます」
「そんなことはありません、幸一はそんな子ではありません。叩いたことは申し訳ない、叩いた理由は何ですか?」
祖母は激しく抵抗しました。そのときおばあさん、おばあさんと担任が呼ぶのでその晩夕食の時に明かしてくれました。言われてみれば授業参観で後ろに立ち並ぶ父兄の中で祖母がやけに老けていると感じていました。私は祖母と知ると同時に母の死と父の逃避を知りました。理由までは教えてくれませんでしたがあまり自慢の出来る死でも逃避でもないことぐらいは分かりました。
「幸一、どうして女の子の頭を叩いの?」
「チャップを虐めるからだよ」
「チャップって誰、友達?」
「違うよ、ウサギのチャップだよ」
「その子がウサギの頭を叩いたの?」
「違うよ、首を絞めて吊るしたんだ。チャップが苦しそうだから、止めろって頭を叩いたんだよ」
「ちゃんと先生に言ったの?」
「もうやらないって約束すれば先生に言わないって約束したんだ」
祖母は翌日担任の女教師を訪ねて私の嘘を伝えたのでした。事実は私がウサギの首を絞めたのです。止めろと泣き叫ぶ女の子の頭を叩きました。祖母は私のことは一切疑いませんでした。
「それは幸一君から聞いたんですか?」
「そうです幸一は嘘を吐きません。叩いた子の家には私が謝りに行きます。先生、あなたまだお若いから事の真実を見抜けないのよ。しっかりなさい」
祖母は担任に言い残して帰宅しました。そして翌日その子の家に立ち寄って母親にこう言ったそうです。
「申し訳ありません、幸一が謝罪しておりました。お怪我はありませんでしたか?」
「はい、わざわざありがとうございます。うちの子はのんびり屋で泣き虫だから大袈裟になってしまうんです。全く怪我はありませんのでご心配には及びません」
「あのう、ウサギのチャップはご存知ですよね」
「はい、飼育小屋のウサギですよね」
「お子さんが首を絞めてそれを注意しようとうちの幸一が咄嗟に手が出てしまったそうです。子供は加減が分かりませんから、万が一チャップが死んでしまったりするとこの子の今後が心配です。どうかやさしく言い聞かせて上げてください」
祖母は帰宅するなり今日様の柱に手を合わせるのでした。
「幸一がやさしい子でありがとうございます。幸一が明日もやさしい子でありますように。幸一がクラスの人気者になりますように。今日様今日様ありがとうございます」
その後もたびたび祖母は呼ばれていました。五年生の時に裏の山で捕まえた蝙蝠を殺して、クラスの子の給食袋に入れておきました。その子は大騒ぎで担任に報告しました。さあ、授業そっちのけで犯人探しが始まりました。クラスの大半は私のせいだと気付いています。でもそれを言うと私の仕返しが恐いから誰も言わないのです。私には友達がいませんでした。悪ガキ共も私を虐めることはありません、むしろ私とは距離を取っていました。一度悪ガキの大将に呼ばれて校舎の裏に連れていかれたことがありました。手は出されませんでしたが大勢から罵られました。両親がなく祖母と暮らしていることもその罵りの対象でした。ガキ大将の家は犬を飼っていました。人懐こい犬で鉄扉の隙間から首を出して撫でられるのを待っています。私は待針で目を突きました。翌日ガキ大将の前で目を突く仕草をしました。それから私を構うことはなくなりました。
私は中学に入るとそれまでお母さんと呼んでいたのを、おばあちゃんと替えました。もうおばあちゃんがピッタリの様相を呈していたからです。
「幸一、明日運動会だろ。おにぎりこさえて応援に行くから」
「いいよおばあちゃん来なくて。俺出場種目ないから」
それでも徹夜して重箱に詰め込んで観覧席の一番前で応援するのでした。フォークダンスに拍手する人なんていないのに「幸一、幸一」と手を振って喜んでいました。私はクラスの嫌われ者ですが私に逆らう者はいませんでした。ただこの体育祭の時だけは祖母の振る舞いに恥ずかしく感じていました。
「おばあちゃん、来なくていいって言ったのに」
祖母は僕の言葉に驚いていました。
「おばあちゃんのことで何か言われたのかい」
「もういいよ」
僕は夕飯も食べずに部屋に閉じこもりました。
「今日様ごめんなさい幸一の機嫌をなおしてください。幸一を虐めた子を懲らしめてください。幸一の・・・・・」
一晩中今日様の柱にお祈りをしていました。祖母はクラスの名簿を指差して私に確認するのでした。
「この子はどういう子」
「生徒会長だよ」
「幸一の味方かい?」
「味方じゃないけど敵でもない」
祖母は私の回答を元に名簿に〇✕△の印をするのです。クラス35名の15名に✕が付けられました。
「おばあちゃん、行ったりしたら駄目だよ。俺の立場が悪くなるから」
「大丈夫だよ、今日様に罰が当たるように祈るだけだよ」
うちは貧しいけど祖父の年金で生活するには困りませんでした。そしてその晩から✕の付いたクラスメートのお祈りが始まりました。
「幸一を虐める相田伊藤岡崎金城・・・・が交通事故で死にますように今日様今日様お願いします」
その願いが叶ったわけではないでしょうが山田と言う女が自転車で帰宅途中に買い物帰りの子供に当てて大怪我をさせてしまいました。そのことを報告すると祖母は「そうかいそうかい」と名簿の山田の上に横線を引いて、今日様へのお祈りから外したのです。
「宮崎君、放課後職員室に来て」
担任の熱血教師に呼ばれました。職員室に行くと校長室に連れて行かれました。
「岡崎君が今朝車に撥ねられたの」
岡崎は祖母の今日様の祈りの対象です。山田の次は岡崎、そんな偶然があるのかと可笑しくなりました。
「何が可笑しいんだ、同級生が怪我したのよ」
熱血女教師は私を叱りました。
「先生、その事故と僕がここに呼ばれた関係はなんですか?」
先生はじっと私を見つめていました。
「岡崎君はあなたのことをご両親に話していたそうよ。今朝病院で訊きました。授業中あなたがじっと見つめて笑っているって、それが気になり夜も寝付けなかったって。それでぼーっとして車に撥ねられたって言ってたわ」
確かに岡崎は嫌いでした。近いうちに悪戯をしようと考えていました。英語が得意で、教科書を読むときのRの発音が嫌でした。でも祖母のお祈りが通じたのかどうか私の気もこれで納まりました。
「先生、僕は岡崎君に憧れていました。あんな風に英語が話せればいいなとそれで見ていただけです」
先生は私の大嘘を見抜いていますが、反論は出来ないはずです。
「嘘を吐くんじゃない」
校長が口を挟みました。校長は私の噂を聞いていたのでしょう。
「嘘じゃありません。校長先生は嘘発見器ですか?」
「なに?目を見れば分かるんだ。大人は騙せないぞ」
「帰宅したら校長先生に根も葉もないことで叱られたと祖母に報告します。うちの祖母はうるさいですよ」
私が笑うと校長は顔を真っ赤にしました。
「校長先生に何てことを言うの、謝りなさい」
先生は私を睨みました。
「誰に、誰に謝るの?交通事故で怪我した岡崎に、岡崎の肩を持つ先生に、それとも意味不明な校長に、ねえ誰に謝るの?先生知ってる今日様って神様、今日一日の無事を過ごしたことは今日様に感謝しなければだめですよ。罰が当たりますよ」
「出て行きなさい」
「呼んどいて出て行きなさはないでしょ。まあいいや失礼します」
廊下に出た私の笑い声は校長室にも届いているでしょう。
「おばあちゃん岡崎が交通事故に遭ったよ」
私は祖母に報告しました。
「それで死んだのかい?」
それは聞いていませんでした。
「それは言わなかった。だけどそのことで担任に校長室に呼ばれて、僕のせいだって校長が言うんだ」
祖母は明日学校に行くと張り切っていました。私は担任に昼休みに祖母が来ることを伝えました。
「先生、土下座して謝った方がいいよ。校長先生にも伝えておいてね」
担任はきつい目をして私を睨み付けましたが祖母に理屈は通用しません。何しろ今日様が付いています。神様の後ろ盾とでも言いましょうか理論では逆らえないのです。昼休みに私も校長室に呼ばれました。
「どうしてうちの幸一が犯人だと決めつけたんですか校長先生、大人は騙せないって言ったらしいですね、証拠もないのに決め付けてるじゃありませんかこれは問題ですよ。それからあなた、うちの幸一を虐めないでくださいよ、幸一が何をしたんですか、えっ、クラスの子と目が合っただけで幸一が悪いんですか、この子悩んでいますよ、私はこれから教育委員会に相談に行きます。それからこのことをビラにして世間に訴えます。いいですね、それが嫌ならここに二人で土下座して、『幸一君ごめんなさい、今日様ごめんなさい』と謝りなさい。さあどうしますか?」
二人はもうこの調子の祖母に付き合っていられないと言う顔をしていました。
「おばあさん、落ち着いて下さい、私は断定したわけではありません。事故に遭われた岡崎君の訴えを確認しただけです」
担任の言葉は更に祖母を逆上させてしまいました。
「それは大問題ですよ先生、それを言ってしまえばあなた教育者として失格ですよ。あなたは生徒片方の言い分を聞いただけで判断したんですね、普通双方の話を聞いてから校長に持っていくべきですよ、事故が起きる前から先生は差別していたんですね生徒を、これはまずい、さあどうしましょう。校長は事情も聞かずにうちの幸一を嘘吐き呼ばわりしたんですね。分かりました、この足で委員会に足を運びます。話にならない。さあ幸一、一緒に行ってありのままを伝えましょう」
「はい、おばあちゃん」
焦る二人を見ていると楽しくなってきました。
「ちょっと待ってください」
校長先生が祖母に声を掛けました。祖母はドアを全開にしました。
「なんですか校長先生、ご自分の非を認められるんですか」
昼休みですからほとんどの先生が職員室で食事をしていました。祖母の声で全員がこっちに視線を向けました。
「どうするの校長?ねえ時間ないのよ私」
校長は担任の肩を叩いて土下座するよう勧めた。私はクラスの黒板に『昼休みグラウンドの校長室前で面白いことがある』と書いておきました。私が窓を開けるとクラスメイトが大勢聞き耳を立てていました。
「さあ、校長、どうするの?」
二人は土下座しました。職員室の先生方は見て見ぬふりです。クラスメイトは口に手を当て驚いています。
「すいませんでした」
土下座した二人は床に頭を擦り付け謝罪しました。
「もう生徒達を見比べることはしませんね?」
「はいしません」
「みんなを平等に扱ってくれますね?」
「はいそうします」
こうなると祖母の独断場でした。祖母は窓側に足を運びました。
「みんな幸一と仲良くしてね、こんな駄目先生だけど反省しているから許してあげてね」
クラスメイトに呼び掛けました。返事をする子もいれば、恐ろしくて震えている子もいます。
「先生方、お騒がせ致しました」
祖母は職員室の中央通路を歩きながら食事中の先生一人一人に会釈をして帰って行きました。
「だから言ったじゃないですか、祖母には敵いませんよ、今日様が付いているんですから」
私は一礼して校長室を出ました。しかしこれで終わらないのが祖母の恐ろしさです。学校の帰りに教育委員会に立ち寄ったのでした。そしてPTAも巻き込んで大騒ぎとなりました。担任は移動、校長は引退を余儀なくされました。この中学で私に逆らう生徒はいなくなりなりました。進学校にも私の噂は届いていました。
私が入学した公立高校で、教師達が私のことを腫れ物に触るような態度で接しているのが手に取るように分かりました。祖母の今日様へのお祈りは更にエスカレートして来ました。対象の名前と年齢を書いて今日様の柱に張り付けて祈るようになりました。対象とは私の嫌いな人物です。
「おばあちゃん、新任の体育教師が僕に突っ掛かるんだ。体調が悪いから見学させてとお願いしても駄目だと無理やりサッカーをさせられた。それにポジションはゴールキーパー、先生が僕目掛けてシュートするんだ。嫌な奴だ」
祖母は私が虐められている光景を想像すると泣き出します。そして祈り始めるのでした。
「今日様今日様、野田義彦三十二歳、新任の体育教師が幸一を虐めています。どうか制裁を加えてください。今日様~」
それから一月が過ぎましたが祖母のお祈りの効果はありませんでした。
「おばあちゃん、あいつを何とかしてよ、体育は嫌いなんだよ、あいつさえいなければ僕は楽しい高校生活が送れるのに」
祖母は祈り続けました。そして恐ろしいことを考えたのです。
「野田先生、祖母がお話ししたいことがあるそうです」
私は祖母の計画通りに従いました。
「おい、君のおばあちゃんのことは噂で聞いている。だが俺はちっとも怖くない。いいよ、いつでも会ってやるさ。俺は好きで教師をしている訳じゃないからいつ首になっても構わない。正義を貫いての首ならこっちからこんな学校真っ平御免だ」
野田先生は大きな声で言いました。私は祖母から預かった封筒を渡しました。それには『いつもうちの幸一がお世話になっています。そのお礼がしたく、今夜零時にサッカー場西側ゴール前でお待ちしております』
野田は読んで高笑いしました。
「おばあちゃんPK戦で善悪を決めるつもりか。しっかりお受けいたしますって伝えとけ」
野田の高笑いは私が廊下に出ても続いていました。そして零時にグラウンドに行きました。野田はジャージ姿でストレッチをしていました。投光器をゴールポストの両側に一つずつ取り付けていました。
「野田先生、幸一の祖母です。いつも幸一がお世話になっております。先生、幸一は生れ付き身体が弱く、サッカーなどと言う野蛮なスポーツには適しておりません。どうかお願いです。この通りです。無理やり体育の授業をさせないでください。これが最後のお願いです」
祖母は深く頭を下げました。
「おばあちゃん、お宅の孫は健康だよ身体だけは、だけど中身は腐っているようだ。そして嘘吐きだ。嘘ばかりついているから誰も相手にしない。それとあんたの仕返しが恐いようだ。でも俺は違う、孫の嘘吐きの口を捩じって正常に戻してやろう。曲がった根性を叩きなおしてくれる。教育委員会でもどこでも行けばいい。俺は教師なんて糞くらえだ。ただこいつのようなガキを見てると腹が立つんだよ。分かったか?このクソガキ」
野田の笑い声はグラウンドに響きました。祖母は野田の話を聞きながらぶつぶつ独り言を言っていました。よく聞き取れませんが「今日様今日様、この男を殺してください。幸一をいたぶるこの男を殺してください」と祈っていると思います。
「幸一が先生のシュートをどれだけ恐がっているか分かりますか?幸一、先生にどれだけ恐いかおもいきりシュートを浴びせてあげなさい」
「こんなガキのシュートなんて全部受けてやるよ。一本でもゴールしたら土下座してやるよばばあ」
祖母の顔色が変わりました。今日様がどんな容姿なのか想像も付きませんが、神様ならきっとやさしい顔だと思います。しかし投光器に照らされる祖母は鬼のように眉が吊り上がっています。
「幸一、蹴りなさい」
私はサッカーボールを蹴ったことがありませんでした。走り込んで蹴るとボールの上に足が乗っかって転倒しました。
野田が大笑いしています。
「もう一度」
今度はゴロで野田の正面にゆっくりと転がりました。それを先生はおもいきり蹴りました。ボールは高く上がり反対側のゴールに入りました。
「ゴール、拾ってこーい」
どうして私が拾いに行かなければならないのでしょう。私は悔しくて泣きそうになりました。
「そこに置きなさい」
祖母が静かに言いました。
「おっ、ばばあが蹴るってか」
野田は笑い転げていました。祖母は今日様の祈りをボールに吹き込んでいます。そしてその場蹴りしたボールはゆっくりといい角度、いいコースに上がりました。野田先生はゴール中央から走り横っ飛びしてボールを掴みました。しかし勢い余りゴールポストに脳天から突っ込みました。野田先生はぴくぴくして起き上がれませんでした。
学校の警備員が駆け付けました。
「救急車を呼んであげて」
祖母が言いました。その時も祖母はぶつぶつと独り言を呟いていました。
「今日様今日様この男が死にますように、今日様」
野田先生の脳天から血が噴き出しました。ピクピクと言う動きも止まりました。
「今日様ありがとがざいます、今日様~」
救急車で運ばれるとき隊員が首をひねっていました。もしかしたら既に絶命していたかもしれません。救急車が出て行くとすぐにパトカーが来ました。一部始終を目撃していた警備員ですが、三人の話し声は聞こえていませんでした。
「はい、PK戦だと思いじっと見ていました。声は聞こえませんが、倒れた先生の笑い声と『取ってこーい』と蹴り飛ばしたボールを取って来るようにあの生徒に命じていました」
「そりゃ可哀そうに」
「ひどい先生がいると思いました。恐らくあの二人は呼び出されたんじゃありませんかあの先生に、あの子は泣きそうな顔をしていました」
祖母も私も手出しはしていません。目撃者の証言で事故として処理されました。そして私は高校で教師からも生徒からも無視されました。誰とも関わらずに高校生活を満喫出来るのです。私は無視されて不登校になどなりません。今日は体育祭の予行演習、みんなブラバンのマーチに合わせて入場行進です。私は参加しません。朝礼台上で一人入場行進です。観客は祖母、茣蓙を広げ三段のお重を並べて拍手しています。
「幸一、みんなに負けないようにもっと大きく手を振りなさい」
すごく楽しい日です。今日様今日も一日ありがとうございます。
「お母さん運動会でリレーに出るよ」
「すごいね幸一」
私に何かあると必ず寝室の柱の前で手を合わせるのでした。
「幸一が一等賞を取れますように。幸一が転ばないで完走できますように。幸一の靴が脱げませんように、今日様お願いします」
寝室の柱には『今日様ありがとう』と札が貼ってありました。私が祖母と知ったのは小学校の担任に祖母が呼ばれた時でした。私がクラスの女の子の頭を叩いてしまい祖母が呼ばれたのでした。
「どうして叩いたの?」
担任の女教師は私をきつく睨みつけました。
「そんな怖い顔したら子供の躾になりません」
祖母が女教師に言い返しました。
「おばあさん、それは違う、甘やかしてはこの子はまた叩きます」
「そんなことはありません、幸一はそんな子ではありません。叩いたことは申し訳ない、叩いた理由は何ですか?」
祖母は激しく抵抗しました。そのときおばあさん、おばあさんと担任が呼ぶのでその晩夕食の時に明かしてくれました。言われてみれば授業参観で後ろに立ち並ぶ父兄の中で祖母がやけに老けていると感じていました。私は祖母と知ると同時に母の死と父の逃避を知りました。理由までは教えてくれませんでしたがあまり自慢の出来る死でも逃避でもないことぐらいは分かりました。
「幸一、どうして女の子の頭を叩いの?」
「チャップを虐めるからだよ」
「チャップって誰、友達?」
「違うよ、ウサギのチャップだよ」
「その子がウサギの頭を叩いたの?」
「違うよ、首を絞めて吊るしたんだ。チャップが苦しそうだから、止めろって頭を叩いたんだよ」
「ちゃんと先生に言ったの?」
「もうやらないって約束すれば先生に言わないって約束したんだ」
祖母は翌日担任の女教師を訪ねて私の嘘を伝えたのでした。事実は私がウサギの首を絞めたのです。止めろと泣き叫ぶ女の子の頭を叩きました。祖母は私のことは一切疑いませんでした。
「それは幸一君から聞いたんですか?」
「そうです幸一は嘘を吐きません。叩いた子の家には私が謝りに行きます。先生、あなたまだお若いから事の真実を見抜けないのよ。しっかりなさい」
祖母は担任に言い残して帰宅しました。そして翌日その子の家に立ち寄って母親にこう言ったそうです。
「申し訳ありません、幸一が謝罪しておりました。お怪我はありませんでしたか?」
「はい、わざわざありがとうございます。うちの子はのんびり屋で泣き虫だから大袈裟になってしまうんです。全く怪我はありませんのでご心配には及びません」
「あのう、ウサギのチャップはご存知ですよね」
「はい、飼育小屋のウサギですよね」
「お子さんが首を絞めてそれを注意しようとうちの幸一が咄嗟に手が出てしまったそうです。子供は加減が分かりませんから、万が一チャップが死んでしまったりするとこの子の今後が心配です。どうかやさしく言い聞かせて上げてください」
祖母は帰宅するなり今日様の柱に手を合わせるのでした。
「幸一がやさしい子でありがとうございます。幸一が明日もやさしい子でありますように。幸一がクラスの人気者になりますように。今日様今日様ありがとうございます」
その後もたびたび祖母は呼ばれていました。五年生の時に裏の山で捕まえた蝙蝠を殺して、クラスの子の給食袋に入れておきました。その子は大騒ぎで担任に報告しました。さあ、授業そっちのけで犯人探しが始まりました。クラスの大半は私のせいだと気付いています。でもそれを言うと私の仕返しが恐いから誰も言わないのです。私には友達がいませんでした。悪ガキ共も私を虐めることはありません、むしろ私とは距離を取っていました。一度悪ガキの大将に呼ばれて校舎の裏に連れていかれたことがありました。手は出されませんでしたが大勢から罵られました。両親がなく祖母と暮らしていることもその罵りの対象でした。ガキ大将の家は犬を飼っていました。人懐こい犬で鉄扉の隙間から首を出して撫でられるのを待っています。私は待針で目を突きました。翌日ガキ大将の前で目を突く仕草をしました。それから私を構うことはなくなりました。
私は中学に入るとそれまでお母さんと呼んでいたのを、おばあちゃんと替えました。もうおばあちゃんがピッタリの様相を呈していたからです。
「幸一、明日運動会だろ。おにぎりこさえて応援に行くから」
「いいよおばあちゃん来なくて。俺出場種目ないから」
それでも徹夜して重箱に詰め込んで観覧席の一番前で応援するのでした。フォークダンスに拍手する人なんていないのに「幸一、幸一」と手を振って喜んでいました。私はクラスの嫌われ者ですが私に逆らう者はいませんでした。ただこの体育祭の時だけは祖母の振る舞いに恥ずかしく感じていました。
「おばあちゃん、来なくていいって言ったのに」
祖母は僕の言葉に驚いていました。
「おばあちゃんのことで何か言われたのかい」
「もういいよ」
僕は夕飯も食べずに部屋に閉じこもりました。
「今日様ごめんなさい幸一の機嫌をなおしてください。幸一を虐めた子を懲らしめてください。幸一の・・・・・」
一晩中今日様の柱にお祈りをしていました。祖母はクラスの名簿を指差して私に確認するのでした。
「この子はどういう子」
「生徒会長だよ」
「幸一の味方かい?」
「味方じゃないけど敵でもない」
祖母は私の回答を元に名簿に〇✕△の印をするのです。クラス35名の15名に✕が付けられました。
「おばあちゃん、行ったりしたら駄目だよ。俺の立場が悪くなるから」
「大丈夫だよ、今日様に罰が当たるように祈るだけだよ」
うちは貧しいけど祖父の年金で生活するには困りませんでした。そしてその晩から✕の付いたクラスメートのお祈りが始まりました。
「幸一を虐める相田伊藤岡崎金城・・・・が交通事故で死にますように今日様今日様お願いします」
その願いが叶ったわけではないでしょうが山田と言う女が自転車で帰宅途中に買い物帰りの子供に当てて大怪我をさせてしまいました。そのことを報告すると祖母は「そうかいそうかい」と名簿の山田の上に横線を引いて、今日様へのお祈りから外したのです。
「宮崎君、放課後職員室に来て」
担任の熱血教師に呼ばれました。職員室に行くと校長室に連れて行かれました。
「岡崎君が今朝車に撥ねられたの」
岡崎は祖母の今日様の祈りの対象です。山田の次は岡崎、そんな偶然があるのかと可笑しくなりました。
「何が可笑しいんだ、同級生が怪我したのよ」
熱血女教師は私を叱りました。
「先生、その事故と僕がここに呼ばれた関係はなんですか?」
先生はじっと私を見つめていました。
「岡崎君はあなたのことをご両親に話していたそうよ。今朝病院で訊きました。授業中あなたがじっと見つめて笑っているって、それが気になり夜も寝付けなかったって。それでぼーっとして車に撥ねられたって言ってたわ」
確かに岡崎は嫌いでした。近いうちに悪戯をしようと考えていました。英語が得意で、教科書を読むときのRの発音が嫌でした。でも祖母のお祈りが通じたのかどうか私の気もこれで納まりました。
「先生、僕は岡崎君に憧れていました。あんな風に英語が話せればいいなとそれで見ていただけです」
先生は私の大嘘を見抜いていますが、反論は出来ないはずです。
「嘘を吐くんじゃない」
校長が口を挟みました。校長は私の噂を聞いていたのでしょう。
「嘘じゃありません。校長先生は嘘発見器ですか?」
「なに?目を見れば分かるんだ。大人は騙せないぞ」
「帰宅したら校長先生に根も葉もないことで叱られたと祖母に報告します。うちの祖母はうるさいですよ」
私が笑うと校長は顔を真っ赤にしました。
「校長先生に何てことを言うの、謝りなさい」
先生は私を睨みました。
「誰に、誰に謝るの?交通事故で怪我した岡崎に、岡崎の肩を持つ先生に、それとも意味不明な校長に、ねえ誰に謝るの?先生知ってる今日様って神様、今日一日の無事を過ごしたことは今日様に感謝しなければだめですよ。罰が当たりますよ」
「出て行きなさい」
「呼んどいて出て行きなさはないでしょ。まあいいや失礼します」
廊下に出た私の笑い声は校長室にも届いているでしょう。
「おばあちゃん岡崎が交通事故に遭ったよ」
私は祖母に報告しました。
「それで死んだのかい?」
それは聞いていませんでした。
「それは言わなかった。だけどそのことで担任に校長室に呼ばれて、僕のせいだって校長が言うんだ」
祖母は明日学校に行くと張り切っていました。私は担任に昼休みに祖母が来ることを伝えました。
「先生、土下座して謝った方がいいよ。校長先生にも伝えておいてね」
担任はきつい目をして私を睨み付けましたが祖母に理屈は通用しません。何しろ今日様が付いています。神様の後ろ盾とでも言いましょうか理論では逆らえないのです。昼休みに私も校長室に呼ばれました。
「どうしてうちの幸一が犯人だと決めつけたんですか校長先生、大人は騙せないって言ったらしいですね、証拠もないのに決め付けてるじゃありませんかこれは問題ですよ。それからあなた、うちの幸一を虐めないでくださいよ、幸一が何をしたんですか、えっ、クラスの子と目が合っただけで幸一が悪いんですか、この子悩んでいますよ、私はこれから教育委員会に相談に行きます。それからこのことをビラにして世間に訴えます。いいですね、それが嫌ならここに二人で土下座して、『幸一君ごめんなさい、今日様ごめんなさい』と謝りなさい。さあどうしますか?」
二人はもうこの調子の祖母に付き合っていられないと言う顔をしていました。
「おばあさん、落ち着いて下さい、私は断定したわけではありません。事故に遭われた岡崎君の訴えを確認しただけです」
担任の言葉は更に祖母を逆上させてしまいました。
「それは大問題ですよ先生、それを言ってしまえばあなた教育者として失格ですよ。あなたは生徒片方の言い分を聞いただけで判断したんですね、普通双方の話を聞いてから校長に持っていくべきですよ、事故が起きる前から先生は差別していたんですね生徒を、これはまずい、さあどうしましょう。校長は事情も聞かずにうちの幸一を嘘吐き呼ばわりしたんですね。分かりました、この足で委員会に足を運びます。話にならない。さあ幸一、一緒に行ってありのままを伝えましょう」
「はい、おばあちゃん」
焦る二人を見ていると楽しくなってきました。
「ちょっと待ってください」
校長先生が祖母に声を掛けました。祖母はドアを全開にしました。
「なんですか校長先生、ご自分の非を認められるんですか」
昼休みですからほとんどの先生が職員室で食事をしていました。祖母の声で全員がこっちに視線を向けました。
「どうするの校長?ねえ時間ないのよ私」
校長は担任の肩を叩いて土下座するよう勧めた。私はクラスの黒板に『昼休みグラウンドの校長室前で面白いことがある』と書いておきました。私が窓を開けるとクラスメイトが大勢聞き耳を立てていました。
「さあ、校長、どうするの?」
二人は土下座しました。職員室の先生方は見て見ぬふりです。クラスメイトは口に手を当て驚いています。
「すいませんでした」
土下座した二人は床に頭を擦り付け謝罪しました。
「もう生徒達を見比べることはしませんね?」
「はいしません」
「みんなを平等に扱ってくれますね?」
「はいそうします」
こうなると祖母の独断場でした。祖母は窓側に足を運びました。
「みんな幸一と仲良くしてね、こんな駄目先生だけど反省しているから許してあげてね」
クラスメイトに呼び掛けました。返事をする子もいれば、恐ろしくて震えている子もいます。
「先生方、お騒がせ致しました」
祖母は職員室の中央通路を歩きながら食事中の先生一人一人に会釈をして帰って行きました。
「だから言ったじゃないですか、祖母には敵いませんよ、今日様が付いているんですから」
私は一礼して校長室を出ました。しかしこれで終わらないのが祖母の恐ろしさです。学校の帰りに教育委員会に立ち寄ったのでした。そしてPTAも巻き込んで大騒ぎとなりました。担任は移動、校長は引退を余儀なくされました。この中学で私に逆らう生徒はいなくなりなりました。進学校にも私の噂は届いていました。
私が入学した公立高校で、教師達が私のことを腫れ物に触るような態度で接しているのが手に取るように分かりました。祖母の今日様へのお祈りは更にエスカレートして来ました。対象の名前と年齢を書いて今日様の柱に張り付けて祈るようになりました。対象とは私の嫌いな人物です。
「おばあちゃん、新任の体育教師が僕に突っ掛かるんだ。体調が悪いから見学させてとお願いしても駄目だと無理やりサッカーをさせられた。それにポジションはゴールキーパー、先生が僕目掛けてシュートするんだ。嫌な奴だ」
祖母は私が虐められている光景を想像すると泣き出します。そして祈り始めるのでした。
「今日様今日様、野田義彦三十二歳、新任の体育教師が幸一を虐めています。どうか制裁を加えてください。今日様~」
それから一月が過ぎましたが祖母のお祈りの効果はありませんでした。
「おばあちゃん、あいつを何とかしてよ、体育は嫌いなんだよ、あいつさえいなければ僕は楽しい高校生活が送れるのに」
祖母は祈り続けました。そして恐ろしいことを考えたのです。
「野田先生、祖母がお話ししたいことがあるそうです」
私は祖母の計画通りに従いました。
「おい、君のおばあちゃんのことは噂で聞いている。だが俺はちっとも怖くない。いいよ、いつでも会ってやるさ。俺は好きで教師をしている訳じゃないからいつ首になっても構わない。正義を貫いての首ならこっちからこんな学校真っ平御免だ」
野田先生は大きな声で言いました。私は祖母から預かった封筒を渡しました。それには『いつもうちの幸一がお世話になっています。そのお礼がしたく、今夜零時にサッカー場西側ゴール前でお待ちしております』
野田は読んで高笑いしました。
「おばあちゃんPK戦で善悪を決めるつもりか。しっかりお受けいたしますって伝えとけ」
野田の高笑いは私が廊下に出ても続いていました。そして零時にグラウンドに行きました。野田はジャージ姿でストレッチをしていました。投光器をゴールポストの両側に一つずつ取り付けていました。
「野田先生、幸一の祖母です。いつも幸一がお世話になっております。先生、幸一は生れ付き身体が弱く、サッカーなどと言う野蛮なスポーツには適しておりません。どうかお願いです。この通りです。無理やり体育の授業をさせないでください。これが最後のお願いです」
祖母は深く頭を下げました。
「おばあちゃん、お宅の孫は健康だよ身体だけは、だけど中身は腐っているようだ。そして嘘吐きだ。嘘ばかりついているから誰も相手にしない。それとあんたの仕返しが恐いようだ。でも俺は違う、孫の嘘吐きの口を捩じって正常に戻してやろう。曲がった根性を叩きなおしてくれる。教育委員会でもどこでも行けばいい。俺は教師なんて糞くらえだ。ただこいつのようなガキを見てると腹が立つんだよ。分かったか?このクソガキ」
野田の笑い声はグラウンドに響きました。祖母は野田の話を聞きながらぶつぶつ独り言を言っていました。よく聞き取れませんが「今日様今日様、この男を殺してください。幸一をいたぶるこの男を殺してください」と祈っていると思います。
「幸一が先生のシュートをどれだけ恐がっているか分かりますか?幸一、先生にどれだけ恐いかおもいきりシュートを浴びせてあげなさい」
「こんなガキのシュートなんて全部受けてやるよ。一本でもゴールしたら土下座してやるよばばあ」
祖母の顔色が変わりました。今日様がどんな容姿なのか想像も付きませんが、神様ならきっとやさしい顔だと思います。しかし投光器に照らされる祖母は鬼のように眉が吊り上がっています。
「幸一、蹴りなさい」
私はサッカーボールを蹴ったことがありませんでした。走り込んで蹴るとボールの上に足が乗っかって転倒しました。
野田が大笑いしています。
「もう一度」
今度はゴロで野田の正面にゆっくりと転がりました。それを先生はおもいきり蹴りました。ボールは高く上がり反対側のゴールに入りました。
「ゴール、拾ってこーい」
どうして私が拾いに行かなければならないのでしょう。私は悔しくて泣きそうになりました。
「そこに置きなさい」
祖母が静かに言いました。
「おっ、ばばあが蹴るってか」
野田は笑い転げていました。祖母は今日様の祈りをボールに吹き込んでいます。そしてその場蹴りしたボールはゆっくりといい角度、いいコースに上がりました。野田先生はゴール中央から走り横っ飛びしてボールを掴みました。しかし勢い余りゴールポストに脳天から突っ込みました。野田先生はぴくぴくして起き上がれませんでした。
学校の警備員が駆け付けました。
「救急車を呼んであげて」
祖母が言いました。その時も祖母はぶつぶつと独り言を呟いていました。
「今日様今日様この男が死にますように、今日様」
野田先生の脳天から血が噴き出しました。ピクピクと言う動きも止まりました。
「今日様ありがとがざいます、今日様~」
救急車で運ばれるとき隊員が首をひねっていました。もしかしたら既に絶命していたかもしれません。救急車が出て行くとすぐにパトカーが来ました。一部始終を目撃していた警備員ですが、三人の話し声は聞こえていませんでした。
「はい、PK戦だと思いじっと見ていました。声は聞こえませんが、倒れた先生の笑い声と『取ってこーい』と蹴り飛ばしたボールを取って来るようにあの生徒に命じていました」
「そりゃ可哀そうに」
「ひどい先生がいると思いました。恐らくあの二人は呼び出されたんじゃありませんかあの先生に、あの子は泣きそうな顔をしていました」
祖母も私も手出しはしていません。目撃者の証言で事故として処理されました。そして私は高校で教師からも生徒からも無視されました。誰とも関わらずに高校生活を満喫出来るのです。私は無視されて不登校になどなりません。今日は体育祭の予行演習、みんなブラバンのマーチに合わせて入場行進です。私は参加しません。朝礼台上で一人入場行進です。観客は祖母、茣蓙を広げ三段のお重を並べて拍手しています。
「幸一、みんなに負けないようにもっと大きく手を振りなさい」
すごく楽しい日です。今日様今日も一日ありがとうございます。
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