2 / 12
労災調査士『ファイル22 墜落(レッコ)』 2
しおりを挟む
一方の職人達はというと手間が15,000円×25日=375,000千円。実際に二十五日稼動しているのは主要メンバーだけで、他の連中は仕事が手薄いときには休まされる。実質勤務日数は盆暮れ、GWの連休なども含めると月平均十五日から二十日がいいところである。この月給が命懸けでハードな仕事を強いられる鳶職の収入として高いか安いかは判断の基準によるだろうが、ボーナスなどの手当てもなく、交通費も自分持ち、贅沢に生きて行ける額でないのは間違いない。材料の手配や仕事の段取り、職人の割り振りなど苦労も多いが、やはり職人は親方だけが儲かることになっている。岡田の日当も15,000円であった。最悪の景気と年齢から、これからも下がる一方ではないだろうかとベテラン職人達はみな不安に感じていた。
(三)
「織田さん、悪いけどA工区南側足場の上部二段を昼前に、そうだなあ十一時頃から解体して欲しいんだけど」
A.B工区仮設担当の大竹建設監督酒井が、休憩中だった二和工業の織田に言った。
「だめだよ、酒井ちゃん、なんで昨日言ってくれなかったの。増員したのに」
予定外の仕事に織田は悔やんだ。前日に指示があれば、二人ぐらい増員出来た。二人分の配当が頭に浮かんで消えた
土木建築業界はバブル崩壊からずっと最悪の状況で、遊んでいる職人で溢れていた。声をかければすぐに集まる。増員は二和工業にも織田にとっても即利益に繋がる。
「いやあ、申しわけない、設計変更で四階部分に出窓がつくことになってさあ、俺も今朝聞いたんだよ山吹課長から、お願い、なんとかして、織田さん、この通り」
「しょうがねえなあ、それじゃD工区の安全回りは午前の予定だったけど昼からにするから、担当の錦織さんに言っといてくれる」
「錦織さんの仕事が入っているんですか。大丈夫っすかねえ、俺が先だって怒られそう」
「まあ、でも仕事の優先順位からすれば酒井ちゃんの方が先だ。俺からも伝えておくよ。午後からでも終わると思うんだけどなあ、急ぎがあるからそれ終えてからそっちに掛かる。盆明けすぐにはつり屋が入るからさ、高さを三十センチ程上げてくれって言われてるんだ。残業してでも終わらせるからいいよ」
「ありがとうございます、助かります。クローラークレーンは使いますか?」
「うん、低いからロープでばらしてもいいけど、都合がつけば大ばらしした方が楽でいいよなあ」
クローラークレーンとは一般道を自力走行するトラッククレーンとは違い、現場での組立式である。キャタピラの上に360度旋回する運転席がありタワーと呼ばれるトラスの骨組みが空に向けて立ち上がりその先端にジブと呼ばれるトラスの骨組みが起伏する。現場組立であるから楊重作業がなくなるまで現場内に居座る。構造上トラッククレーンより吊り荷が揺れる傾向がある。鉄骨建て方作業はボルト穴ひとつと言う合図が要求される。オペレーターの技術が安全と作業の進捗を左右すると言っても過言ではない。
「それじゃあ三号機十三時から手配しておきますよ、お願いします」
酒井は段取りがつくと忙しそうに職人達の休憩室を出て行った。
作業員数は今日から盆休に入っている者もいて、若干ではあるが減っている。それでも一日延べ八百人以上の作業員が働くこの現場は、さながら工場の様相を呈している。しかしいくら広大な敷地であっても、竣工まで作業中の構造物に邪魔にならない場所に、八百人を収容する休憩室を設けることは困難であり、途中から現場に入場する仕上げ関係の業者に満足な休憩室を提供出来ないのが実態である。それでも職長間で話し合い、休憩時間をずらして多くが利用出来るようにやりくりしている。
休憩室を提供されたからといって、そこが職人達にとって快適な空間と呼ぶには程遠い。フレハブ三階建てのワンフロアーに収容する人数は百人以上で、肩を寄せ合って座っている。エアコンは設備されているが、休憩時に一斉に煙草を吸われると靄がかかったように薄暗く陰気で、明るい話題など出てきそうにない。喫煙者も喉をやられるくらいだから嫌煙者にとってこれほど辛いことはない。受動喫煙の典型で、部屋の空気は排煙百%である。もしかしたら喫煙していた方が身体にいいかもしれない。休憩室を喫煙、禁煙のどちらにするかは現場所長の存在も大きい。所長がヘビーでその配下がヘビーなら作業員休憩室も喫煙可となることが多い。しかし平成に入ってからは職人も健康志向が強くなり、煙草をやらない若い職人も増えて来た。また受動喫煙などと愛煙家を隅に追いやる活動が活発になり、作業所休憩室も禁煙にする現場も増えた。
岡田も喘息持ちで煙草は元々やらず、辛い休憩時間を過ごしていた。目を細め、口を真一文字に結び、排煙濃度の薄い層から必要最低限の酸素を吸い取っている。それほどまでして休憩所に拘るのは外は熱波、だらしない恰好でいれば近隣からの目もある。現場ルールとして休憩は休憩所以外では不可、総括所長からのきついお達しである。
「じゃあ、洋二、岡ちゃんと回ってくれ、13:00時からクローラークレーンの予約取ってもらった。大払しで下ろすだけ下ろしておいて、ゆっくりと小払しすればいいじゃないか」
織田が二人を交互に見ながら言った。しかし洋二と岡田は、お互いに確認することもなく軽く頷くのみであった。
(四)
高品洋二は織田班の最若手である。若いといっても三十二を過ぎている。青森の中学を出ると自衛隊に入隊し、九年間勤めたが、昇進を諦めると同時に除隊して帰郷した。除隊後は運送屋に就職し、そこで事務を執っていた佐和子と入籍した。子供も男女一人ずつ授かり、平凡だがその生活に洋二は満足していた。
ところが長男が五歳、長女が三歳のときに、佐和子は子供達を連れて蒸発した。運送業の洋二は勤務時間が不規則で、早朝勤務があるかと思えば、深夜走りっぱなしというときもよくあった。その日も深夜勤務を終えて帰宅したのは翌朝五時を少し回っていた。いつもなら子供達は熟睡していて、佐和子だけが洋二の食事の支度をしている時間帯であるが、佐和子はおろか、子供達の姿も見えない。実家に帰るなら、前日に必ず報告を受けるはずであったが、昨日出勤するときには佐和子は何も言わず、いつもと変わらず、玄関で子供たちと一緒に手を振って見送った。洋二は書き置きでもないかとテーブルや電話台の上をくまなく探したがそれらしきものは見つからなかった。佐和子は携帯電話を持っておらず、仕方なく彼女の実家に電話をすると、母親が出て、佐和子達の来訪はないし、そういった連絡も受けていないと言う。母親は近所に散歩にでも行っているのではと、自分自身の嫌な予感を払拭するために洋二に言った。しかし十月半ばの青森で、それも早朝五時前に散歩に出かけるはずがないと義母に言い返そうかと思ったが、不安を煽るのではないかと判断し、『そうですね、少し近所を捜してみます』と言って受話器を置いた。もしかしたら外で自分の帰りを待っているのかもしれない、いやきっとそうだと自分に言い聞かせ、洋二は表に出た。
大通りから自宅アパートまでの五十メートルは直線で、もし出迎えてくれるとしても大通りを越えるとは考えられなかった。大通りに出て公園がある右へと曲がった。この通りは車の往来が激しい上に、歩道も区画されていないので、大型車が通行するときは民家の軒先にへばりつくようにやり過ごすのであった。佐和子は普段から子供達に大通りには絶対出ないよう厳しく指導していた。洋二は自分の行動が無駄に思えてきて、公園に到着するまえにUターンして小走りで自宅に戻った。電話帳を広げ、佐和子が立ち寄りそうな所を手当たり次第に電話した。電話しているうちにこれも無駄のような気がしてきた。急な用足しに出かけるなら洋二の携帯に必ず電話するだろうし、もし、運転中の洋二を気遣うなら、彼の帰宅時間を見計らって自宅に電話してくるか、メモのひとつも目立つ所に置いて行くだろうと思ったからである。
洋二は警察に連絡しようか迷った。玄関に座り込みじっと考えていたときである。電話が鳴った。
「もしもし、佐和子か?佐和子だろ、どうしたんだ」
「ごめんなさい、子供達もあたしも元気です。心配かけてすいません」
「どうしたんだ?何かあったのか?今どこにいるんだ?」
「ごめんなさい。捜さないでください。義男も陽子も大事に育てます。許してください、ごめんなさい」
「佐和子、おい佐和子」
それから半年間洋二は佐和子の帰りを待った。仕事も手につかず、勤めていた運送屋も、その日以来行っていない。朝から酒を飲み、ごろごろと無駄に毎日を過ごしていた。これは夢で、きっといつか覚める、そう思い込むために飲み続けた。最初のうちは立ち寄り心配してくれた親戚や友人も、立ち直れないと諦めたのか、或いは気の利いた慰めの言葉が続かなくなってしまったのか、すっかり顔を出さなくなった。そして親戚同士、友人同士の中で洋二の話題はタブーとなり、記憶の隅に追いやられてしまった。
洋二は人目を避けるように週に一度、それも夜中にコンビニまで出かけ、安い酒と最低限の食料を仕入れる。この日も夜中の二時にコンビニに出かけ帰宅すると、見覚えのない男がアパートの前に立っていた。男は頭も下げずに玄関前で洋二を見つめていた。
「誰だ、あんた?」
「おやじだ」
「おやじって?」
「おやじったらおやじだべ、おめえの」
洋二の父親高品守は洋二が七歳のときに出稼ぎに出てそのまま帰らなかった。しかし仕送りだけは毎月欠かさず続けていた。妻は十年間夫の帰りを待っていたが諦め、パート先の男と一緒になることを理由に離婚を迫った。洋二は自衛隊に、妹は近くの市場に就職し、親としての責任を果たしたあとであった。充分な仕送りを欠かさずにしていたとはいえ、妻に子育てを押し付け、東京で好き勝手をして生きてきた高品に、それを拒否することなどできず、離婚届に判を押して送り返した。そのことはむしろ高品にとっても胸の痞えが取れ楽になったと言ってよかった。仕送りしていた収入の半分も自身の蓄えに回していた。
高品は東京に出て、飯場を転々として生きてきたが、正式な離婚とともに土工として二和工業に入社し、埼玉の川口にある寮に入った。それでも生活は地味で、ギャンブルも付き合い程度、酒はかなりいけるくちだが、外で羽目を外すような飲み方はしなかった。
(三)
「織田さん、悪いけどA工区南側足場の上部二段を昼前に、そうだなあ十一時頃から解体して欲しいんだけど」
A.B工区仮設担当の大竹建設監督酒井が、休憩中だった二和工業の織田に言った。
「だめだよ、酒井ちゃん、なんで昨日言ってくれなかったの。増員したのに」
予定外の仕事に織田は悔やんだ。前日に指示があれば、二人ぐらい増員出来た。二人分の配当が頭に浮かんで消えた
土木建築業界はバブル崩壊からずっと最悪の状況で、遊んでいる職人で溢れていた。声をかければすぐに集まる。増員は二和工業にも織田にとっても即利益に繋がる。
「いやあ、申しわけない、設計変更で四階部分に出窓がつくことになってさあ、俺も今朝聞いたんだよ山吹課長から、お願い、なんとかして、織田さん、この通り」
「しょうがねえなあ、それじゃD工区の安全回りは午前の予定だったけど昼からにするから、担当の錦織さんに言っといてくれる」
「錦織さんの仕事が入っているんですか。大丈夫っすかねえ、俺が先だって怒られそう」
「まあ、でも仕事の優先順位からすれば酒井ちゃんの方が先だ。俺からも伝えておくよ。午後からでも終わると思うんだけどなあ、急ぎがあるからそれ終えてからそっちに掛かる。盆明けすぐにはつり屋が入るからさ、高さを三十センチ程上げてくれって言われてるんだ。残業してでも終わらせるからいいよ」
「ありがとうございます、助かります。クローラークレーンは使いますか?」
「うん、低いからロープでばらしてもいいけど、都合がつけば大ばらしした方が楽でいいよなあ」
クローラークレーンとは一般道を自力走行するトラッククレーンとは違い、現場での組立式である。キャタピラの上に360度旋回する運転席がありタワーと呼ばれるトラスの骨組みが空に向けて立ち上がりその先端にジブと呼ばれるトラスの骨組みが起伏する。現場組立であるから楊重作業がなくなるまで現場内に居座る。構造上トラッククレーンより吊り荷が揺れる傾向がある。鉄骨建て方作業はボルト穴ひとつと言う合図が要求される。オペレーターの技術が安全と作業の進捗を左右すると言っても過言ではない。
「それじゃあ三号機十三時から手配しておきますよ、お願いします」
酒井は段取りがつくと忙しそうに職人達の休憩室を出て行った。
作業員数は今日から盆休に入っている者もいて、若干ではあるが減っている。それでも一日延べ八百人以上の作業員が働くこの現場は、さながら工場の様相を呈している。しかしいくら広大な敷地であっても、竣工まで作業中の構造物に邪魔にならない場所に、八百人を収容する休憩室を設けることは困難であり、途中から現場に入場する仕上げ関係の業者に満足な休憩室を提供出来ないのが実態である。それでも職長間で話し合い、休憩時間をずらして多くが利用出来るようにやりくりしている。
休憩室を提供されたからといって、そこが職人達にとって快適な空間と呼ぶには程遠い。フレハブ三階建てのワンフロアーに収容する人数は百人以上で、肩を寄せ合って座っている。エアコンは設備されているが、休憩時に一斉に煙草を吸われると靄がかかったように薄暗く陰気で、明るい話題など出てきそうにない。喫煙者も喉をやられるくらいだから嫌煙者にとってこれほど辛いことはない。受動喫煙の典型で、部屋の空気は排煙百%である。もしかしたら喫煙していた方が身体にいいかもしれない。休憩室を喫煙、禁煙のどちらにするかは現場所長の存在も大きい。所長がヘビーでその配下がヘビーなら作業員休憩室も喫煙可となることが多い。しかし平成に入ってからは職人も健康志向が強くなり、煙草をやらない若い職人も増えて来た。また受動喫煙などと愛煙家を隅に追いやる活動が活発になり、作業所休憩室も禁煙にする現場も増えた。
岡田も喘息持ちで煙草は元々やらず、辛い休憩時間を過ごしていた。目を細め、口を真一文字に結び、排煙濃度の薄い層から必要最低限の酸素を吸い取っている。それほどまでして休憩所に拘るのは外は熱波、だらしない恰好でいれば近隣からの目もある。現場ルールとして休憩は休憩所以外では不可、総括所長からのきついお達しである。
「じゃあ、洋二、岡ちゃんと回ってくれ、13:00時からクローラークレーンの予約取ってもらった。大払しで下ろすだけ下ろしておいて、ゆっくりと小払しすればいいじゃないか」
織田が二人を交互に見ながら言った。しかし洋二と岡田は、お互いに確認することもなく軽く頷くのみであった。
(四)
高品洋二は織田班の最若手である。若いといっても三十二を過ぎている。青森の中学を出ると自衛隊に入隊し、九年間勤めたが、昇進を諦めると同時に除隊して帰郷した。除隊後は運送屋に就職し、そこで事務を執っていた佐和子と入籍した。子供も男女一人ずつ授かり、平凡だがその生活に洋二は満足していた。
ところが長男が五歳、長女が三歳のときに、佐和子は子供達を連れて蒸発した。運送業の洋二は勤務時間が不規則で、早朝勤務があるかと思えば、深夜走りっぱなしというときもよくあった。その日も深夜勤務を終えて帰宅したのは翌朝五時を少し回っていた。いつもなら子供達は熟睡していて、佐和子だけが洋二の食事の支度をしている時間帯であるが、佐和子はおろか、子供達の姿も見えない。実家に帰るなら、前日に必ず報告を受けるはずであったが、昨日出勤するときには佐和子は何も言わず、いつもと変わらず、玄関で子供たちと一緒に手を振って見送った。洋二は書き置きでもないかとテーブルや電話台の上をくまなく探したがそれらしきものは見つからなかった。佐和子は携帯電話を持っておらず、仕方なく彼女の実家に電話をすると、母親が出て、佐和子達の来訪はないし、そういった連絡も受けていないと言う。母親は近所に散歩にでも行っているのではと、自分自身の嫌な予感を払拭するために洋二に言った。しかし十月半ばの青森で、それも早朝五時前に散歩に出かけるはずがないと義母に言い返そうかと思ったが、不安を煽るのではないかと判断し、『そうですね、少し近所を捜してみます』と言って受話器を置いた。もしかしたら外で自分の帰りを待っているのかもしれない、いやきっとそうだと自分に言い聞かせ、洋二は表に出た。
大通りから自宅アパートまでの五十メートルは直線で、もし出迎えてくれるとしても大通りを越えるとは考えられなかった。大通りに出て公園がある右へと曲がった。この通りは車の往来が激しい上に、歩道も区画されていないので、大型車が通行するときは民家の軒先にへばりつくようにやり過ごすのであった。佐和子は普段から子供達に大通りには絶対出ないよう厳しく指導していた。洋二は自分の行動が無駄に思えてきて、公園に到着するまえにUターンして小走りで自宅に戻った。電話帳を広げ、佐和子が立ち寄りそうな所を手当たり次第に電話した。電話しているうちにこれも無駄のような気がしてきた。急な用足しに出かけるなら洋二の携帯に必ず電話するだろうし、もし、運転中の洋二を気遣うなら、彼の帰宅時間を見計らって自宅に電話してくるか、メモのひとつも目立つ所に置いて行くだろうと思ったからである。
洋二は警察に連絡しようか迷った。玄関に座り込みじっと考えていたときである。電話が鳴った。
「もしもし、佐和子か?佐和子だろ、どうしたんだ」
「ごめんなさい、子供達もあたしも元気です。心配かけてすいません」
「どうしたんだ?何かあったのか?今どこにいるんだ?」
「ごめんなさい。捜さないでください。義男も陽子も大事に育てます。許してください、ごめんなさい」
「佐和子、おい佐和子」
それから半年間洋二は佐和子の帰りを待った。仕事も手につかず、勤めていた運送屋も、その日以来行っていない。朝から酒を飲み、ごろごろと無駄に毎日を過ごしていた。これは夢で、きっといつか覚める、そう思い込むために飲み続けた。最初のうちは立ち寄り心配してくれた親戚や友人も、立ち直れないと諦めたのか、或いは気の利いた慰めの言葉が続かなくなってしまったのか、すっかり顔を出さなくなった。そして親戚同士、友人同士の中で洋二の話題はタブーとなり、記憶の隅に追いやられてしまった。
洋二は人目を避けるように週に一度、それも夜中にコンビニまで出かけ、安い酒と最低限の食料を仕入れる。この日も夜中の二時にコンビニに出かけ帰宅すると、見覚えのない男がアパートの前に立っていた。男は頭も下げずに玄関前で洋二を見つめていた。
「誰だ、あんた?」
「おやじだ」
「おやじって?」
「おやじったらおやじだべ、おめえの」
洋二の父親高品守は洋二が七歳のときに出稼ぎに出てそのまま帰らなかった。しかし仕送りだけは毎月欠かさず続けていた。妻は十年間夫の帰りを待っていたが諦め、パート先の男と一緒になることを理由に離婚を迫った。洋二は自衛隊に、妹は近くの市場に就職し、親としての責任を果たしたあとであった。充分な仕送りを欠かさずにしていたとはいえ、妻に子育てを押し付け、東京で好き勝手をして生きてきた高品に、それを拒否することなどできず、離婚届に判を押して送り返した。そのことはむしろ高品にとっても胸の痞えが取れ楽になったと言ってよかった。仕送りしていた収入の半分も自身の蓄えに回していた。
高品は東京に出て、飯場を転々として生きてきたが、正式な離婚とともに土工として二和工業に入社し、埼玉の川口にある寮に入った。それでも生活は地味で、ギャンブルも付き合い程度、酒はかなりいけるくちだが、外で羽目を外すような飲み方はしなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる