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11 力の限り走りぬけ①
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お気を付けて、と頭を下げた青スーツの男の口が、大きく耳元までゆがんだ。
サンドワームなる巨大ミミズは、一家目がけて再び砂地を滑り始める。凶悪な口を広げるそれを、隼斗は食い入るように見つめていた。
「いいか、逃げるぞ。力の限り、走りぬけ」
父が、サンドワームから視線をそらさずに、深くて長い息を吐き出す。
これは、大仕事を前にしたときの、いつもの父の口ぐせだった。アカネと隼斗を抱き寄せながら、そうね、と母が同意する。
「あんな怪物に、大人しく食べられてあげる義理はないもの」
「モンスターって呼んだほうが……」
カッコいい。隼斗は口を挟もうとしたが、母の真剣な眼差しを前に首をすくめた。
「隼斗、走って!」
合図のように背中を押すと、母はアカネの手を引いて走り出す。
「来い、隼斗」
すぐあとに父も続いた。待ってよ、と隼斗はひとり立ち止まり、唇をとがらせる。
「どうして逃げるのさ、ねえ! あいつによく似たモンスターカード、ぼく持ってるよ」
未練げに後ろを振り仰ぐ。
「カードは追いかけてなんか来ないだろ!」
父に一喝されても、なおも隼斗は走り出そうとしない。
「さっきの青いスーツの男の人、オプションって言ってたよ。本当にこれ、VRゲームなんじゃないの? だったら逃げる必要なんてないよ。倒さなきゃ……」
サンドワームは、ぬるりとした巨体を一度宙に舞い上がらせ、反動を付けて砂地に潜った。
目を輝かせた隼斗は、完全に見惚れて立ち止まってしまう。
「だめだ! こっちに来い!」
父が叫ぶのと隼斗が吹き飛んだのは、同時だった。
高い位置から横殴りにたたきつけられた先の砂地は、プールのコンクリートで転んだときよりも、ずっとずっと固く感じた。
耳の奥がびりりと震える。立ち上がろうとひざを立てるが、まるで力が入らない。
「隼斗!」
遠くでだれかが叫んでいる。体を持ち上げては倒れ、ひざを震わせては、また、倒れる。
「ちくしょう、怪物め! 隼斗から離れろ! ほら、こっちだ!」
サンドワームなる巨大ミミズは、一家目がけて再び砂地を滑り始める。凶悪な口を広げるそれを、隼斗は食い入るように見つめていた。
「いいか、逃げるぞ。力の限り、走りぬけ」
父が、サンドワームから視線をそらさずに、深くて長い息を吐き出す。
これは、大仕事を前にしたときの、いつもの父の口ぐせだった。アカネと隼斗を抱き寄せながら、そうね、と母が同意する。
「あんな怪物に、大人しく食べられてあげる義理はないもの」
「モンスターって呼んだほうが……」
カッコいい。隼斗は口を挟もうとしたが、母の真剣な眼差しを前に首をすくめた。
「隼斗、走って!」
合図のように背中を押すと、母はアカネの手を引いて走り出す。
「来い、隼斗」
すぐあとに父も続いた。待ってよ、と隼斗はひとり立ち止まり、唇をとがらせる。
「どうして逃げるのさ、ねえ! あいつによく似たモンスターカード、ぼく持ってるよ」
未練げに後ろを振り仰ぐ。
「カードは追いかけてなんか来ないだろ!」
父に一喝されても、なおも隼斗は走り出そうとしない。
「さっきの青いスーツの男の人、オプションって言ってたよ。本当にこれ、VRゲームなんじゃないの? だったら逃げる必要なんてないよ。倒さなきゃ……」
サンドワームは、ぬるりとした巨体を一度宙に舞い上がらせ、反動を付けて砂地に潜った。
目を輝かせた隼斗は、完全に見惚れて立ち止まってしまう。
「だめだ! こっちに来い!」
父が叫ぶのと隼斗が吹き飛んだのは、同時だった。
高い位置から横殴りにたたきつけられた先の砂地は、プールのコンクリートで転んだときよりも、ずっとずっと固く感じた。
耳の奥がびりりと震える。立ち上がろうとひざを立てるが、まるで力が入らない。
「隼斗!」
遠くでだれかが叫んでいる。体を持ち上げては倒れ、ひざを震わせては、また、倒れる。
「ちくしょう、怪物め! 隼斗から離れろ! ほら、こっちだ!」
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