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13 力の限り走りぬけ③
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ささやくように、声を振り絞る。
自分の部屋でないのは、手探りでつかみ取った砂の感触ですぐに思い知らされた。次第に慣れてきた視界の中で隼斗が見たものは、延々続く絶望の光景だった。
「そうか、ぼくはエジプト展に行って、エレベーターに乗って……」
なぜかエジプトに来てしまった。それも、とても現実だとは思えない。
一人ぼっちで砂漠の夜を迎えることになろうとは、朝うきうきと家を出たときには想像もしていなかった。
「はは、意味分かんない。何、これ」
かみ合わない歯がカチカチたてる音が、見渡す限りの砂漠に吸い込まれていく。
無意識に胸元に手をやって、そこに何もないと気づいた。
「落としちゃったんだ、あのメダル」
冷静に考えればすべての元凶はそれだというのに、手放してしまったのが非常に惜しい。すぐに辺りを探ったが、黄金色に光るメダルはどこにも見当たらなかった。
隼斗の周りの砂地には、不自然に残された長いミゾのような痕跡がある。
「……タブレットは?」
巻き付けたタブレットは、隼斗の腕に収まったままだ。
「あれ、これ……動いてる? ……いや、減ってる!」
暗い砂地を照らす液晶には、「二十・ギザ」という文字が浮かび上がっている。
「カウントダウン、なのかな」
きっちり四時間減ったのだから、今は午後八時ほどなのだろう。
「どこに行っちゃったんだよ、みんな」
腰に巻きつけていたシャツを羽織ると、身を抱くようにして両腕をかき合わせる。
不思議な青スーツの男との待ち合わせ場所は、砂丘の向こう側。ここを離れずになんとか時間を過ごせば、確実に迎えが来るはずだ。
だが、隼斗をかばってサンドワームに追い立てられたはずの家族のことが心配だった。
意識を失う瞬間、だれかが叫んでいたような気もする。
手がかりは残っていないかと、辺りを見渡すが、やっと見つけ出した足跡は、嵐のような砂に埋もれて途中で消えてしまっていた。
せめて体を休めようと座ってみるが、カウントダウンする時計に気を取られ、落ち着かない。
おぼろな月に照らされた砂地は、どこまでも心細くて頼りなく思える。
自分の部屋でないのは、手探りでつかみ取った砂の感触ですぐに思い知らされた。次第に慣れてきた視界の中で隼斗が見たものは、延々続く絶望の光景だった。
「そうか、ぼくはエジプト展に行って、エレベーターに乗って……」
なぜかエジプトに来てしまった。それも、とても現実だとは思えない。
一人ぼっちで砂漠の夜を迎えることになろうとは、朝うきうきと家を出たときには想像もしていなかった。
「はは、意味分かんない。何、これ」
かみ合わない歯がカチカチたてる音が、見渡す限りの砂漠に吸い込まれていく。
無意識に胸元に手をやって、そこに何もないと気づいた。
「落としちゃったんだ、あのメダル」
冷静に考えればすべての元凶はそれだというのに、手放してしまったのが非常に惜しい。すぐに辺りを探ったが、黄金色に光るメダルはどこにも見当たらなかった。
隼斗の周りの砂地には、不自然に残された長いミゾのような痕跡がある。
「……タブレットは?」
巻き付けたタブレットは、隼斗の腕に収まったままだ。
「あれ、これ……動いてる? ……いや、減ってる!」
暗い砂地を照らす液晶には、「二十・ギザ」という文字が浮かび上がっている。
「カウントダウン、なのかな」
きっちり四時間減ったのだから、今は午後八時ほどなのだろう。
「どこに行っちゃったんだよ、みんな」
腰に巻きつけていたシャツを羽織ると、身を抱くようにして両腕をかき合わせる。
不思議な青スーツの男との待ち合わせ場所は、砂丘の向こう側。ここを離れずになんとか時間を過ごせば、確実に迎えが来るはずだ。
だが、隼斗をかばってサンドワームに追い立てられたはずの家族のことが心配だった。
意識を失う瞬間、だれかが叫んでいたような気もする。
手がかりは残っていないかと、辺りを見渡すが、やっと見つけ出した足跡は、嵐のような砂に埋もれて途中で消えてしまっていた。
せめて体を休めようと座ってみるが、カウントダウンする時計に気を取られ、落ち着かない。
おぼろな月に照らされた砂地は、どこまでも心細くて頼りなく思える。
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