少年王と時空の扉

みっち~6画

文字の大きさ
25 / 74

25 むき出しの悪意⑤

しおりを挟む
 帰り支度を始めたアムルは、隼斗に追い打ちをかける。
「怠け者の、役立たず!」
 仲間たちと愉快そうに笑い合う彼の背中は、まったくの無防備だ。
 今なんじゃないのか、と隼斗は足元の砂粒に目を落とした。
「ぼくのメダルを、取り返すのは……」
 のっそりと身を伸ばし、アムルの背後に忍び寄った。
 隼斗のわずかな変化に、気づく者はない。熱く震える手が、アムルの胸元に伸びていく。
「なんだ、おまえ!」
 ふいを付かれたアムルは、体勢をくずしながらも隼斗の腕を払った。させるまいと、隼斗も食い下がる。
 懸命に伸ばした指先がアムルの胸元をかすり、メダルが大きく揺れる。
 そのたびに、周囲でわめく大人たちの声が、意味を持って隼斗の脳裏に響き渡った。
「盗人め! このガキ、アムルのものを盗もうとしているぞ」
「なんて野郎だ。親切に仕事を世話してやったアムルに!」
 思わずひるんだ隼斗を、アムルの腕が捕らえる。のしかかるようにして押さえつけられ、地面に叩きつけられた。
 よろめいた隼斗は、周囲の人垣に体当たりして、ようやく止まった。
「ちっくしょ!」
 隼斗は崩れた岩肌に手を伸ばし、硬い石粒を握りしめる。アムルに向けて、力を込めて夢中で投げ付けた。
 だれかの悲鳴が耳を付く。我に返った隼斗が見たのは、のけぞって、巨大な石灰岩に頭を打ちすえたヒゲ面の男の姿だった。
 まるで映画のワンシーンのように、ゆったりと地面に倒れていく男の隣で、アムルが目をむいて隼斗を見つめている。てめえ、と冷たい響きが辺りにこだました。
「ガキだと思って優しくしてりゃあ、付け上がりやがって! おれの仲間を殺す気か!」
「違う。ぼくは……ぼくは……」
 男の頭からどす黒い液体が流れていくさまを見やり、隼斗は唇を震わせる。
「そこで待ってろ! おまえの処刑を、ヘムオン様に願い出る!」
 アムルのコブシが、隼斗の胸倉を引っつかんだ。反射的にそれを振り払い、夢中で駆け出す隼斗の背に、逃げる気か、と気色ばむアムルの声が投げ付けられる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

ママのごはんはたべたくない

もちっぱち
絵本
おとこのこが ママのごはん たべたくないきもちを ほんに してみました。 ちょっと、おもしろエピソード よんでみてください。  これをよんだら おやこで   ハッピーに なれるかも? 約3600文字あります。 ゆっくり読んで大体20分以内で 読み終えると思います。 寝かしつけの読み聞かせにぜひどうぞ。 表紙作画:ぽん太郎 様  2023.3.7更新

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

カリンカの子メルヴェ

田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。 かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。 彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」 十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。 幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。 年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。 そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。 ※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

処理中です...