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45 星読みと少年王⑤
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「だからこそわしは、身動きの取れぬあの方の代わりに、お迎えにあがったのじゃ」
分かっていますよ、とほお傷の男が不満げに声を荒げた。もういい、とばかりに片手を上げて老人の話を遮る表情は暗く、何事か思いつめているようにも見える。
「おれは何も、あなたの信念まで否定する気はないのです。ただこの王宮で生き残るには、いつまでもお人よしでいてはならぬのでは、と……」
「わしのような老いぼれが、わずかに長生きしたところで、なんの得があろうか。大恩ある先代に頼まれたではないか。油断ならぬ神官どもから、ツタンカーメン様をお守りせねば」
「ツタン、カー、メン?」
頭の中の記憶を総動員させて、隼斗は若き少年王の情報をかき集めようとした。
「あっ、ちくしょ。なんだっけ?」
もともと考えるよりも先に手が出る性分の隼斗は、エジプト展での父のことばを思い出すので精いっぱいだった。
「たしか、すごく若い王様で、権力も弱くて、神官たちに言いようにされて、その上、早死にした人だっけ?」
ルクソールに君臨する少年王とは、そのツタンカーメンのことなのか。
考え込んでいた隼斗は、近づく足音に反応するのが遅れた。それは、足音というよりも、硬い棒で大地を突く音だ。
その者の気配が近づくたび、棒状の音もまた近くなる。
大量の葦の向こう側では、老人とほお傷の男が熱心に話し込んでいて、足音にはまだ気づいていない。
隼斗は身を強張らせた。
足音の主は、隼斗からそう離れていない場所に、ひそんだ気配がする。
星読みの預言者なる者を待つ、老人とほお傷の男。それを観察する、奇妙な足音の主。そして、さらにその二者をうかがう隼斗。
「この人は、だれだろう」
がぜん興味の沸いた隼斗は、そっと首だけ伸ばして様子をうかがった。
葦の合間から、真白の布がちらちらしているのが見える。
「え? なんで……ここにいるの?」
意志の強そうなひとみ。精悍なたたずまい。そして、傘の柄のような細い杖。
険しい表情で老人と男を見張っていたのは、ギザで別れたはずのシュン、その人だったのだ。
分かっていますよ、とほお傷の男が不満げに声を荒げた。もういい、とばかりに片手を上げて老人の話を遮る表情は暗く、何事か思いつめているようにも見える。
「おれは何も、あなたの信念まで否定する気はないのです。ただこの王宮で生き残るには、いつまでもお人よしでいてはならぬのでは、と……」
「わしのような老いぼれが、わずかに長生きしたところで、なんの得があろうか。大恩ある先代に頼まれたではないか。油断ならぬ神官どもから、ツタンカーメン様をお守りせねば」
「ツタン、カー、メン?」
頭の中の記憶を総動員させて、隼斗は若き少年王の情報をかき集めようとした。
「あっ、ちくしょ。なんだっけ?」
もともと考えるよりも先に手が出る性分の隼斗は、エジプト展での父のことばを思い出すので精いっぱいだった。
「たしか、すごく若い王様で、権力も弱くて、神官たちに言いようにされて、その上、早死にした人だっけ?」
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考え込んでいた隼斗は、近づく足音に反応するのが遅れた。それは、足音というよりも、硬い棒で大地を突く音だ。
その者の気配が近づくたび、棒状の音もまた近くなる。
大量の葦の向こう側では、老人とほお傷の男が熱心に話し込んでいて、足音にはまだ気づいていない。
隼斗は身を強張らせた。
足音の主は、隼斗からそう離れていない場所に、ひそんだ気配がする。
星読みの預言者なる者を待つ、老人とほお傷の男。それを観察する、奇妙な足音の主。そして、さらにその二者をうかがう隼斗。
「この人は、だれだろう」
がぜん興味の沸いた隼斗は、そっと首だけ伸ばして様子をうかがった。
葦の合間から、真白の布がちらちらしているのが見える。
「え? なんで……ここにいるの?」
意志の強そうなひとみ。精悍なたたずまい。そして、傘の柄のような細い杖。
険しい表情で老人と男を見張っていたのは、ギザで別れたはずのシュン、その人だったのだ。
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