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50 東の空に見た夢⑤
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「なんか、本当に姉ちゃんが歌っているみたいだ」
けんかしたあとなど、アカネはわざとでたらめな歌詞を作り、弟をからかうのだ。
歌詞だけならばまだしも、アカネの音程はどこか調子が外れている。それを隼斗が正しく歌って対抗し、最後にはふたりで笑い合って仲直りするというのが、姉弟げんかの終わり方だった。
「まさか、本当に?」
正しい歌詞を小さく口ずさみながら、隼斗は立ち上がった。
そろそろと鉄格子に両手をかけ、首を伸ばす。しゃらりと衣ずれの音が辺りに響き、隼斗は目を凝らした。規則正しく石畳の上を行く、靴音。
月が雲間に隠れてしまったのか、暗闇がいっそう深まっていく。
姉ちゃん、と気配のするほうへと、隼斗は声を投げた。
「……姉ちゃんなの?」
歌がやむ。すると、牢の中にいた男がひとり、急に立ち上がった。それは、先ほど隼斗に食べものをくれた脚の悪い男だった。
彼は隼斗の分からないことばで急激にわめき立て、周りの者たちを見渡した。
それが引き金となったのか、気味の悪いほど押し黙っていた囚人らの不満が一気に爆発する。口々に叫びながら、格子に体当たりを始めた。
「うわあ、あああ、姉ちゃん? 姉ちゃん!」
囚人たちは、我先にと格子の合間に腕を差し入れ、懸命に伸ばしている。恐ろしさのあまり半ばパニックになりながら、隼斗は格子のすぐ外にいるはずの姉の身を案じた。
そのひとみに、きらりと光る何かが映り込む。
「……メダル、だ」
だれかが、格子の向こう側から隼斗に向けて黄金のメダルを差し出しているのが見える。何か考えるより先に、身体が反応した。すばやく手を伸ばし、腕を押し上げる。
その黄金に指先が触れたとたん、隼斗の周りにことばの渦が戻った。
「アンケセナーメン様! 我らの戦いはこれからですぞ!」
「我らの意思はだれにも縛られない! 神官ごときに王は、負けはせぬわ!」
興奮状態の囚人らが声高に叫んでいる先に、ひとりの女の姿が映り込んだ。
目元を濃い紫のアイシャドウで彩ったその女は、きゃしゃな指先をそっと唇に押し当て、静かに、とささやいた。
「ここで騒ぎを起こしてはなりません」
けんかしたあとなど、アカネはわざとでたらめな歌詞を作り、弟をからかうのだ。
歌詞だけならばまだしも、アカネの音程はどこか調子が外れている。それを隼斗が正しく歌って対抗し、最後にはふたりで笑い合って仲直りするというのが、姉弟げんかの終わり方だった。
「まさか、本当に?」
正しい歌詞を小さく口ずさみながら、隼斗は立ち上がった。
そろそろと鉄格子に両手をかけ、首を伸ばす。しゃらりと衣ずれの音が辺りに響き、隼斗は目を凝らした。規則正しく石畳の上を行く、靴音。
月が雲間に隠れてしまったのか、暗闇がいっそう深まっていく。
姉ちゃん、と気配のするほうへと、隼斗は声を投げた。
「……姉ちゃんなの?」
歌がやむ。すると、牢の中にいた男がひとり、急に立ち上がった。それは、先ほど隼斗に食べものをくれた脚の悪い男だった。
彼は隼斗の分からないことばで急激にわめき立て、周りの者たちを見渡した。
それが引き金となったのか、気味の悪いほど押し黙っていた囚人らの不満が一気に爆発する。口々に叫びながら、格子に体当たりを始めた。
「うわあ、あああ、姉ちゃん? 姉ちゃん!」
囚人たちは、我先にと格子の合間に腕を差し入れ、懸命に伸ばしている。恐ろしさのあまり半ばパニックになりながら、隼斗は格子のすぐ外にいるはずの姉の身を案じた。
そのひとみに、きらりと光る何かが映り込む。
「……メダル、だ」
だれかが、格子の向こう側から隼斗に向けて黄金のメダルを差し出しているのが見える。何か考えるより先に、身体が反応した。すばやく手を伸ばし、腕を押し上げる。
その黄金に指先が触れたとたん、隼斗の周りにことばの渦が戻った。
「アンケセナーメン様! 我らの戦いはこれからですぞ!」
「我らの意思はだれにも縛られない! 神官ごときに王は、負けはせぬわ!」
興奮状態の囚人らが声高に叫んでいる先に、ひとりの女の姿が映り込んだ。
目元を濃い紫のアイシャドウで彩ったその女は、きゃしゃな指先をそっと唇に押し当て、静かに、とささやいた。
「ここで騒ぎを起こしてはなりません」
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