少年王と時空の扉

みっち~6画

文字の大きさ
51 / 74

51 夢見の国で逢いましょう①

しおりを挟む
 あまりの驚きに隼斗はぐふん、とむせ返る。
 普段から落ち着いた色合いのデザインを好んでいたはずの姉が、金の縁取りのある純白の衣装に包まれている。
「私はもう行かねばなりません。ですが、お約束致します。必ずや皆様をお救いすると」
 仰々しく囚人らに語りかけ、彼らは熱気を持ってそれに応える。それらをぼやりと聞いていると、着飾った姉がぐるりと振り返った。
「行くわよ」
 口をぽかりと開けたままの隼斗の腕をがっしりと鷲づかみにし、そのまま牢の鍵を開ける。
 大胆不敵な牢破りを、だれもとがめようとはしない。
「……姉ちゃん、ここでは何の役?」
 父がギザの台地で、王の従兄弟ヘムオンと呼ばれていたことを思い返し、隼斗は鎌をかける。
「うるさいな、黙って歩け」
 歩けと言う割には容赦なく引きずって、アカネは小さな部屋に隼斗を押し込んだ。
 窓には厚い覆いがかけられ、外からの視界を遮っている。
 来たか、と明かりのない部屋の奥で、だれかが声を上げた。油断しきっていた隼斗は、思わず姉の手を握る。平気よ、とアカネは普段では思いもよらない優しい声音を作った。
「あの方は、ツタンカーメン様。……私の、夫」
 そのまま小さくほほ笑むと、映画やドラマの恋人同士がするように彼の背に腕を回した。
 衣ずれの音と共に、鈴がしゃらりと音を立てる。どこか聞き覚えのある、鈴の音だった。
「シュン?」
 隼斗の声など耳に入らないのか、それとも聞こえないフリをしているだけなのか、姉アンケセナーメンはそのままシュンの横顔に自らのほおを寄せる。
「ちょっと、姉ちゃん!」
 姉は弾かれたように顔を上げ、夢から覚めたばかりの赤子のようにぽかりと口を開いた。
「あのさ、その、まったく状況が……のみ込めないんだけど」
 急に申し訳ないような気分になって、隼斗は声をひそめる。
 薄暗がりの中、窓辺から臨む月を背景に、シュンがすらりと背筋を伸ばした。
「迎えが遅くなって、すまなかった。アイとの交渉がうまくいかずに、時間がかかってしまったのだ」
「アイって……だれ? 悪い人? 敵なの?」
 神官よ、と姉アンケセナーメンが答える。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

ママのごはんはたべたくない

もちっぱち
絵本
おとこのこが ママのごはん たべたくないきもちを ほんに してみました。 ちょっと、おもしろエピソード よんでみてください。  これをよんだら おやこで   ハッピーに なれるかも? 約3600文字あります。 ゆっくり読んで大体20分以内で 読み終えると思います。 寝かしつけの読み聞かせにぜひどうぞ。 表紙作画:ぽん太郎 様  2023.3.7更新

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

カリンカの子メルヴェ

田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。 かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。 彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」 十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。 幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。 年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。 そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。 ※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

処理中です...