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67 すべての道はローマに通じる②
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隼斗、とアカネのほおがわずかに上気する。
「いま、なんて言ったの? ……違う。そのあと」
「クレオパトラが近くにいるって話?」
一度うなずいたきりアカネは何事か考え込み、口の中で小さくつぶやいた。
図書館の建物を振り仰ぎ、野草園の荒れ地を見やり、隼斗に視線を戻す。
「ねえ、隼斗。こう考えられない? あのね……」
ひそやかな姉の声は、騒々しい兵士の会話に遮られた。
「クレオパトラ様には困ったものだ」
兵士は、ふたりが潜んでいる物陰のすぐ近くまできて止まった。
「つい先日までは、反逆者となった妹君を即刻幽閉せよと命じておられたというのに。一夜明ければ、なんの条件も付けずに釈放とはな」
「このところ、下す命令に一貫性が見られない。まるで、別人のような変ぼうぶりですな」
ここで、アカネが隼斗のすねをけり上げた。涙目で痛がる隼斗に、アカネはウィンクする。
「分かったわ、あたし。母さんがどこにいるのか。……王宮よ」
勝ちほこったような表情で、アカネはにやりと笑い、見開いた目を遠くそびえる宮殿に向ける。
「さぁ、行くわよ。母さんはきっとクレオパトラとして、王宮で待っているんだわ」
「なんでそんなこと、分かるの」
「なんでそんなことも、分からないのよ」
アカネは肩をすくめてから、あたりまえのように吐き捨てた。
「今、別人みたいになったって、言ってたじゃないの。信じてないって、顔をしてるのね。でも、このあたしだって、アンケセナーメンだったんだからね」
確かに、と隼斗は口元に手をやった。
「でも、どうかな。だって、そのクレオパトラってさ、世界の三大美人とか言われた、すっごくきれいな女の人なんでしょう? 母さんで大丈夫なの?」
あんたね、と言いながら、アカネはすばやく顔をそむけた。
怒られるかも、と隼斗はすぐに身構えたが、肩先が細かく揺れているのを見ると、どうやら姉は笑っているらしい。
「絶対に今の、母さんには言うんじゃないわよ」
「言えるかよ」
ローマ兵らしき屈強な男たちは、宮殿に続く小道を過ぎ去っていった。
「いま、なんて言ったの? ……違う。そのあと」
「クレオパトラが近くにいるって話?」
一度うなずいたきりアカネは何事か考え込み、口の中で小さくつぶやいた。
図書館の建物を振り仰ぎ、野草園の荒れ地を見やり、隼斗に視線を戻す。
「ねえ、隼斗。こう考えられない? あのね……」
ひそやかな姉の声は、騒々しい兵士の会話に遮られた。
「クレオパトラ様には困ったものだ」
兵士は、ふたりが潜んでいる物陰のすぐ近くまできて止まった。
「つい先日までは、反逆者となった妹君を即刻幽閉せよと命じておられたというのに。一夜明ければ、なんの条件も付けずに釈放とはな」
「このところ、下す命令に一貫性が見られない。まるで、別人のような変ぼうぶりですな」
ここで、アカネが隼斗のすねをけり上げた。涙目で痛がる隼斗に、アカネはウィンクする。
「分かったわ、あたし。母さんがどこにいるのか。……王宮よ」
勝ちほこったような表情で、アカネはにやりと笑い、見開いた目を遠くそびえる宮殿に向ける。
「さぁ、行くわよ。母さんはきっとクレオパトラとして、王宮で待っているんだわ」
「なんでそんなこと、分かるの」
「なんでそんなことも、分からないのよ」
アカネは肩をすくめてから、あたりまえのように吐き捨てた。
「今、別人みたいになったって、言ってたじゃないの。信じてないって、顔をしてるのね。でも、このあたしだって、アンケセナーメンだったんだからね」
確かに、と隼斗は口元に手をやった。
「でも、どうかな。だって、そのクレオパトラってさ、世界の三大美人とか言われた、すっごくきれいな女の人なんでしょう? 母さんで大丈夫なの?」
あんたね、と言いながら、アカネはすばやく顔をそむけた。
怒られるかも、と隼斗はすぐに身構えたが、肩先が細かく揺れているのを見ると、どうやら姉は笑っているらしい。
「絶対に今の、母さんには言うんじゃないわよ」
「言えるかよ」
ローマ兵らしき屈強な男たちは、宮殿に続く小道を過ぎ去っていった。
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