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68 すべての道はローマに通じる③
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「王宮なんて、気軽に入れないよ。母さん、ぼくたちに気づいて、自分で出てきてくれないかな」
「無理言わないの。いい? あたしの言うことをよく聞いて」
周囲を見渡していたアカネは、急に興奮したように隼斗の肩先をつかんだ。
「……良いこと、思いついちゃった。今夜、侵入するわよ、王宮に」
「えっ、なにそれ。本当に?」
アカネの決意は固く、隼斗が口をはさむ余裕など、すでに残されてなどいなかった。
その日の夜が更けると、雑然とした市場の隅でアカネが言った。
「いい? この作戦は、あんたの勇気にかかっているの」
芝居がかった口調で隼斗を見つめ、何度も細かくうなずいている。
「姉ちゃん、本当にこれで大丈夫なの? 危なくない?」
「大丈夫だってば。ほら、さっさと入って」
長い手足を可能なかぎり折りたたんだ隼斗は、せまくて深いタルの中に足を入れた。
身をかがめ、堅い底に体育座りをする。
「ねえ、もう一回聞くけど、本当に……」
「ほーら。ぶどう酒は、話なんかしないものよ」
「だって、ぼくはぶどう酒じゃないもの」
タルに隠れるのは古い物語でも王道よ、とアカネは意味ありげに笑ってみせる。
アカネはポロシャツの上に、どこかから調達してきた灰色の衣を重ね着ている。それは、市場にたくさんいる、商人見習いの服によく似ていた。
彼らはロバの引く荷台に、大きなタルをいくつも積み込んでいる。
「うまくいくとは思えない」
「それでもいいのよ。要は、あたしたちが宮殿の中に入り込めさえすればいいんだもの」
今なんて言ったの、と隼斗は聞き返したが、アカネは容赦なくふたをする。がんがん、と何かを打つ音がして、隼斗の視界は完全な暗闇に、落ちた。
次にごろりと天地が回転し、砂利だらけの道を転がる衝撃がまともに隼斗を襲った。
「気持ち悪いよ……うぇええ」
回るたびに胃液がせり上がってくるのを何とかこらえ、隼斗は両手で口元を覆う。
よいっしょ、とかけ声がして、隼斗の入ったタルは宙に浮いた気配がした。持ち上げられているのだろう。
ロバに揺られて道を行く間じゅう、絶対に失敗する、と隼斗は身を縮ませていた。
「無理言わないの。いい? あたしの言うことをよく聞いて」
周囲を見渡していたアカネは、急に興奮したように隼斗の肩先をつかんだ。
「……良いこと、思いついちゃった。今夜、侵入するわよ、王宮に」
「えっ、なにそれ。本当に?」
アカネの決意は固く、隼斗が口をはさむ余裕など、すでに残されてなどいなかった。
その日の夜が更けると、雑然とした市場の隅でアカネが言った。
「いい? この作戦は、あんたの勇気にかかっているの」
芝居がかった口調で隼斗を見つめ、何度も細かくうなずいている。
「姉ちゃん、本当にこれで大丈夫なの? 危なくない?」
「大丈夫だってば。ほら、さっさと入って」
長い手足を可能なかぎり折りたたんだ隼斗は、せまくて深いタルの中に足を入れた。
身をかがめ、堅い底に体育座りをする。
「ねえ、もう一回聞くけど、本当に……」
「ほーら。ぶどう酒は、話なんかしないものよ」
「だって、ぼくはぶどう酒じゃないもの」
タルに隠れるのは古い物語でも王道よ、とアカネは意味ありげに笑ってみせる。
アカネはポロシャツの上に、どこかから調達してきた灰色の衣を重ね着ている。それは、市場にたくさんいる、商人見習いの服によく似ていた。
彼らはロバの引く荷台に、大きなタルをいくつも積み込んでいる。
「うまくいくとは思えない」
「それでもいいのよ。要は、あたしたちが宮殿の中に入り込めさえすればいいんだもの」
今なんて言ったの、と隼斗は聞き返したが、アカネは容赦なくふたをする。がんがん、と何かを打つ音がして、隼斗の視界は完全な暗闇に、落ちた。
次にごろりと天地が回転し、砂利だらけの道を転がる衝撃がまともに隼斗を襲った。
「気持ち悪いよ……うぇええ」
回るたびに胃液がせり上がってくるのを何とかこらえ、隼斗は両手で口元を覆う。
よいっしょ、とかけ声がして、隼斗の入ったタルは宙に浮いた気配がした。持ち上げられているのだろう。
ロバに揺られて道を行く間じゅう、絶対に失敗する、と隼斗は身を縮ませていた。
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