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第6話 そのうちといつかと今度は永遠に来ない
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「よう、陸人じゃないか!」
オーガストは満面の笑みで陸人に歩み寄ってきた。
「おじさん…。なんでこんなところに?」
陸人は今ここでオーガストに出会えたことを、心の底から嬉しく思っていた。と言っても、彼がレストランで勘定を押し付けてトンズラしたことを、決して忘れたわけではない。
今の陸人にとっては、相手が魔物でさえなければ、もはやどんな悪党であろうと大歓迎だったのだ。
その理由は言うまでもなく、おぞましい魔物達に連続して遭遇したせいであろう。
「いやぁ、昼間お前が一人で森へ行くって話していたから、心配して様子を見に来たんだよ」
空々しい張り付けたような笑顔。
陸人は非難がましくオーガストを見据えた。
「ねぇ、昼間の昼食代返してよ。あんたのせいで僕は全財産失ったんだ」
とは言え陸人は彼の昼食代を全額払ったわけではないし、払った3000メルンも元々陸人のものではない。
「ああ、悪い、悪い」
しかしオーガストはもっと質が悪かった。
「ちょうど持ち合わせがなくってよ。ああするしかなかったんだよ。そのうちいつか今度返すから、許してくれよ」
『“そのうち”と“いつか”と“今度”は永遠に来ない』ということを、陸人は日頃の経験で学んでよく知っている。
「なぁなぁ、それより」と、オーガストは誤魔化すように話題を変え、高揚した様子で切り出した。
「宝探しは順調に進んでるか?」
陸人は肩を竦め、小さく首を振った。
「実を言うと、化け物達から逃げてるうちに、道に迷っちゃったんだ」
「何?魔物に出くわしたのか?」
「うん。二回もね。運よく逃げ切れたけどさ、もう走りすぎてくたくただよ」
「そうかそうか、それは大変だったな。でも俺が来たからにはもう大丈夫だぞ」
オーガストは得意げに胸を張り、くるりと身を翻して歩き始めた。陸人もすぐ彼の後に続いた。
すると突如、巻物が尋常じゃないほど明るく輝きだした。
異変に気付き、オーガストがすぐさま振り返る。
「なるほど、この墓石だな」
「え?何が?」
彼は陸人の問いかけに答えず、おもむろに目の前の墓石に向かって片手を突き出した。
「“開け墓石、パッカーーーン!”」
思わず陸人はずっこけそうになった。
「なんだよ、そのダッサい呪文は!」
「呪文なんかテキトーでいいんだよ。どうせ本格的なファンタジー小説じゃないんだから」
「それにしてもダサすぎるだろ!ファンタジー舐めんな!」
と、その直後――墓石がゆっくりと横に動き始めた。
「うわっ!何これ?!」
墓石の下から現れたのは、およそ1メートル四方の大きな穴。さらに穴の奥には、地下へと下る階段がどこまでも続いている。
「ふむ…やっぱりここがそうだったか」
「ねぇ、一人で納得してないで、この状況を説明してよ」
「ああ、悪い悪い。つまりだな…君の探しているお宝がこの下にあるってことだよ」
「え?」
陸人はすぐさま巻物に命じて宝の地図を表示させた。
「ここが赤いバツ印の場所か。そっか、宝に近付くと巻物が光って教えてくれるって仕組みなんだ。楽しみだな…どんなお宝が眠ってるんだろう?」
「ジャン・ギッフェルの秘宝だから、とんでもなく凄いお宝だろうな」
「え?誰それ?」
オーガストはハッとしたように口元を押さえ、目を逸らしてひゅうひゅう口笛を吹き始めた。
「おじさん、この宝の地図のこと何か知ってるの?」
「いいや、俺はなーんも知らないぞ」
「嘘つけ。さっきジャンがどうのこうのって言ったろ」
「そうか、そんなに知りたいのなら教えてやる。俺は豆板醤よりコチュジャン派、スカジャンよりスタジャン派だ。さぁ、宝を探しに行こうじゃないか」
オーガストはそそくさと階段を下り始めた。
「は?!ふざけるなよ!誰もおじさんの好みなんて聞いてないよ!」
慌てて後を追いかけながら、陸人はふとジャンという名に聞き覚えがあるような気がした。だがいつどこで聞いたのか、そこまでは思い出せなかった。
オーガストは満面の笑みで陸人に歩み寄ってきた。
「おじさん…。なんでこんなところに?」
陸人は今ここでオーガストに出会えたことを、心の底から嬉しく思っていた。と言っても、彼がレストランで勘定を押し付けてトンズラしたことを、決して忘れたわけではない。
今の陸人にとっては、相手が魔物でさえなければ、もはやどんな悪党であろうと大歓迎だったのだ。
その理由は言うまでもなく、おぞましい魔物達に連続して遭遇したせいであろう。
「いやぁ、昼間お前が一人で森へ行くって話していたから、心配して様子を見に来たんだよ」
空々しい張り付けたような笑顔。
陸人は非難がましくオーガストを見据えた。
「ねぇ、昼間の昼食代返してよ。あんたのせいで僕は全財産失ったんだ」
とは言え陸人は彼の昼食代を全額払ったわけではないし、払った3000メルンも元々陸人のものではない。
「ああ、悪い、悪い」
しかしオーガストはもっと質が悪かった。
「ちょうど持ち合わせがなくってよ。ああするしかなかったんだよ。そのうちいつか今度返すから、許してくれよ」
『“そのうち”と“いつか”と“今度”は永遠に来ない』ということを、陸人は日頃の経験で学んでよく知っている。
「なぁなぁ、それより」と、オーガストは誤魔化すように話題を変え、高揚した様子で切り出した。
「宝探しは順調に進んでるか?」
陸人は肩を竦め、小さく首を振った。
「実を言うと、化け物達から逃げてるうちに、道に迷っちゃったんだ」
「何?魔物に出くわしたのか?」
「うん。二回もね。運よく逃げ切れたけどさ、もう走りすぎてくたくただよ」
「そうかそうか、それは大変だったな。でも俺が来たからにはもう大丈夫だぞ」
オーガストは得意げに胸を張り、くるりと身を翻して歩き始めた。陸人もすぐ彼の後に続いた。
すると突如、巻物が尋常じゃないほど明るく輝きだした。
異変に気付き、オーガストがすぐさま振り返る。
「なるほど、この墓石だな」
「え?何が?」
彼は陸人の問いかけに答えず、おもむろに目の前の墓石に向かって片手を突き出した。
「“開け墓石、パッカーーーン!”」
思わず陸人はずっこけそうになった。
「なんだよ、そのダッサい呪文は!」
「呪文なんかテキトーでいいんだよ。どうせ本格的なファンタジー小説じゃないんだから」
「それにしてもダサすぎるだろ!ファンタジー舐めんな!」
と、その直後――墓石がゆっくりと横に動き始めた。
「うわっ!何これ?!」
墓石の下から現れたのは、およそ1メートル四方の大きな穴。さらに穴の奥には、地下へと下る階段がどこまでも続いている。
「ふむ…やっぱりここがそうだったか」
「ねぇ、一人で納得してないで、この状況を説明してよ」
「ああ、悪い悪い。つまりだな…君の探しているお宝がこの下にあるってことだよ」
「え?」
陸人はすぐさま巻物に命じて宝の地図を表示させた。
「ここが赤いバツ印の場所か。そっか、宝に近付くと巻物が光って教えてくれるって仕組みなんだ。楽しみだな…どんなお宝が眠ってるんだろう?」
「ジャン・ギッフェルの秘宝だから、とんでもなく凄いお宝だろうな」
「え?誰それ?」
オーガストはハッとしたように口元を押さえ、目を逸らしてひゅうひゅう口笛を吹き始めた。
「おじさん、この宝の地図のこと何か知ってるの?」
「いいや、俺はなーんも知らないぞ」
「嘘つけ。さっきジャンがどうのこうのって言ったろ」
「そうか、そんなに知りたいのなら教えてやる。俺は豆板醤よりコチュジャン派、スカジャンよりスタジャン派だ。さぁ、宝を探しに行こうじゃないか」
オーガストはそそくさと階段を下り始めた。
「は?!ふざけるなよ!誰もおじさんの好みなんて聞いてないよ!」
慌てて後を追いかけながら、陸人はふとジャンという名に聞き覚えがあるような気がした。だがいつどこで聞いたのか、そこまでは思い出せなかった。
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