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第53話 プライバシーの侵害だ!
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「えっ…?何?どういうこと?」
状況がまったく把握できず、陸人達はしばらくフリーズしていた。
「わしは六十五年間、ずっとこの瞬間を待ち望んでおったんじゃ…」
体を小刻みに震わせながら、老婆はカラスのような声で笑い出した。
「ついに…ついにわしの望みが叶う!キェーッケッケッケッケ!」
「どうしたんだろう、アラクネばあちゃん…。前はここまで酷いキャラじゃなかったのに…」
「何か憑依したんじゃねーのか?」
陸人とシメオンはかなりドン引きしている。
「これはもしかすると、俗に言うラスボスというものじゃないかしら?」
「おお、確かにその貫禄は充分あるな!」
オーガストが興味深げにアラクネの顔を覗きこむ。と、その時――――
「ハァァァァァァァッ!」
突如アラクネが目、鼻の穴、口をカッと開き、何か準備するかのように深呼吸した。
「おい、なんかヤバそうだぞ!」
「あれきっと“溜め技”だよ!溜めた力で必殺技を使うつもりなんだ!」
「大丈夫、バリアを張るわ」
エレミアのバリアの中で、陸人達は息を詰めてアラクネの攻撃が繰り出されるのを待っていた。
と、次の瞬間――――
「ハ…ファッ…ブァーーーーックショイッ!」
けたたましいくしゃみが神殿に響き渡った。アラクネが洟をすすり、体をぶるっと震わせる。
「おお…地下はやっぱり冷えるのう…」
陸人達はすっかり拍子抜けしてしまった。
「散々人を身構えさせておいて、なんなんだよ、あんた!ラスボスなら目からビームくらい出せよ!」
案の定、シメオンはキレた。
「わしはラスボスとして現れたわけではない。実を言うとお前さん達のことをずっと見張っておったんじゃ」
アラクネは陸人に視線を転じ、
「お前さんに渡したあの風呂敷、あれは追跡風呂敷という魔法アイテムでな、遠隔地から所有者の位置を特定すると同時に、半径1.5メートル圏内の音声を盗聴することができるんじゃ」
「はぁ?!なんだと、このくそババア!」
「酷いよ、プライバシーの侵害だ!」
「まぁ、落ち着け二人共」
騒ぎ立てる陸人とシメオンを宥め、オーガストは老婆に問いかけた。
「で、あなたはなぜ我々の追跡を?」
「そりゃ勿論、わしもお前さん達に便乗して個人的な願い事を叶えてもらいたいからじゃよ」
「はぁ?ふざけんな!あんたは石探しにも参加してねーし、ただジャンのお宝のこと語っただけだろ!厚かましいにも程があるだろ!」
「黙らっしゃい!」
アラクネは魔力を込めた拳をシメオンの顔面にめり込ませて黙らせた。
「痛ってぇぇぇ!何すんだこの暴力ババア!」
シメオンを無視し、アラクネは得意気な顔で話を続ける。
「わしにだって願い事を頼む資格は充分にある。なんたってわしはジャン・ギッフェルの直系の子孫じゃからな」
「いやいやいや、いくらなんでもその嘘はちょっと無理があるだろう!」
オーガストは笑いながら即座に突っ込んだ。
「ジャンの直系の子孫が魔物であるはずがない!」
「わしはれっきとした人間じゃ!妖怪と一緒にするでない!」
オーガストはアラクネパンチの二人目の犠牲者となった。
「その話が本当だとして…」
今度は陸人が口を開く。
「アラクネばあちゃんの望みって何なの?宝石?若返り?それともカッコいい彼氏が欲しいとか?」
「いいや、そんなくだらないことではない」
アラクネは陸人が握る巻物を一瞥し、声を低くしてこう続けた。
「その朔の書に連れ去られた妹を取り返すことじゃ」
「朔の書に連れ去られたって…どういうこと?」
「話せば長くなるのじゃが…」
アラクネの回想が始まった。
それは遡ること六十五年前の夏のある日の出来事である。
まだ妖怪の面影すらなかった十五のうら若きアラクネは、十歳の妹と共に自宅の裏で穴を掘っていた。
「隣の家にキャンキャンうるさい放し飼いの犬っころがおってな…。捕まえてとことん痛めつけてやろうと思うて、落とし穴をたくさん掘っていたんじゃ」
「ちょっ…いきなり怖いよ!」
「しかし掘っている途中で奇妙な箱を見つけてな」
どうやらその箱の中に朔の書が収められていたらしい。
アラクネは妹と一緒に巻物を広げ、まっさらな本紙に向かって様々な呪文を唱えてみた。
謎の文章が現れたのは、妹が自作の仰々しい呪文を唱えた時だ。
「よく覚えてはおらんが、詐欺広告のような内容じゃった。で、一番下に【今すぐココをクリック】と太字で書かれてあったんじゃが、遊び半分で妹が触れてしまってな…。その瞬間、妹は巻物と共に忽然と姿を消してしまったんじゃ」
――――まさか…。
一つのある憶測が、陸人の頭の中を過る。
その確証を掴むべく、彼はアラクネに尋ねてみた。
「あのさ…。妹さんの名前って、もしかしてテナ子?」
アラクネの眉が、ぴくりと動く。
「いいや、違う。テナコではなく、テナじゃ」
陸人は確信した。
六十五年前に朔の書と共に消えてしまったアラクネの妹テナは、陸人の祖母のテナ子と同一人物だ。
状況がまったく把握できず、陸人達はしばらくフリーズしていた。
「わしは六十五年間、ずっとこの瞬間を待ち望んでおったんじゃ…」
体を小刻みに震わせながら、老婆はカラスのような声で笑い出した。
「ついに…ついにわしの望みが叶う!キェーッケッケッケッケ!」
「どうしたんだろう、アラクネばあちゃん…。前はここまで酷いキャラじゃなかったのに…」
「何か憑依したんじゃねーのか?」
陸人とシメオンはかなりドン引きしている。
「これはもしかすると、俗に言うラスボスというものじゃないかしら?」
「おお、確かにその貫禄は充分あるな!」
オーガストが興味深げにアラクネの顔を覗きこむ。と、その時――――
「ハァァァァァァァッ!」
突如アラクネが目、鼻の穴、口をカッと開き、何か準備するかのように深呼吸した。
「おい、なんかヤバそうだぞ!」
「あれきっと“溜め技”だよ!溜めた力で必殺技を使うつもりなんだ!」
「大丈夫、バリアを張るわ」
エレミアのバリアの中で、陸人達は息を詰めてアラクネの攻撃が繰り出されるのを待っていた。
と、次の瞬間――――
「ハ…ファッ…ブァーーーーックショイッ!」
けたたましいくしゃみが神殿に響き渡った。アラクネが洟をすすり、体をぶるっと震わせる。
「おお…地下はやっぱり冷えるのう…」
陸人達はすっかり拍子抜けしてしまった。
「散々人を身構えさせておいて、なんなんだよ、あんた!ラスボスなら目からビームくらい出せよ!」
案の定、シメオンはキレた。
「わしはラスボスとして現れたわけではない。実を言うとお前さん達のことをずっと見張っておったんじゃ」
アラクネは陸人に視線を転じ、
「お前さんに渡したあの風呂敷、あれは追跡風呂敷という魔法アイテムでな、遠隔地から所有者の位置を特定すると同時に、半径1.5メートル圏内の音声を盗聴することができるんじゃ」
「はぁ?!なんだと、このくそババア!」
「酷いよ、プライバシーの侵害だ!」
「まぁ、落ち着け二人共」
騒ぎ立てる陸人とシメオンを宥め、オーガストは老婆に問いかけた。
「で、あなたはなぜ我々の追跡を?」
「そりゃ勿論、わしもお前さん達に便乗して個人的な願い事を叶えてもらいたいからじゃよ」
「はぁ?ふざけんな!あんたは石探しにも参加してねーし、ただジャンのお宝のこと語っただけだろ!厚かましいにも程があるだろ!」
「黙らっしゃい!」
アラクネは魔力を込めた拳をシメオンの顔面にめり込ませて黙らせた。
「痛ってぇぇぇ!何すんだこの暴力ババア!」
シメオンを無視し、アラクネは得意気な顔で話を続ける。
「わしにだって願い事を頼む資格は充分にある。なんたってわしはジャン・ギッフェルの直系の子孫じゃからな」
「いやいやいや、いくらなんでもその嘘はちょっと無理があるだろう!」
オーガストは笑いながら即座に突っ込んだ。
「ジャンの直系の子孫が魔物であるはずがない!」
「わしはれっきとした人間じゃ!妖怪と一緒にするでない!」
オーガストはアラクネパンチの二人目の犠牲者となった。
「その話が本当だとして…」
今度は陸人が口を開く。
「アラクネばあちゃんの望みって何なの?宝石?若返り?それともカッコいい彼氏が欲しいとか?」
「いいや、そんなくだらないことではない」
アラクネは陸人が握る巻物を一瞥し、声を低くしてこう続けた。
「その朔の書に連れ去られた妹を取り返すことじゃ」
「朔の書に連れ去られたって…どういうこと?」
「話せば長くなるのじゃが…」
アラクネの回想が始まった。
それは遡ること六十五年前の夏のある日の出来事である。
まだ妖怪の面影すらなかった十五のうら若きアラクネは、十歳の妹と共に自宅の裏で穴を掘っていた。
「隣の家にキャンキャンうるさい放し飼いの犬っころがおってな…。捕まえてとことん痛めつけてやろうと思うて、落とし穴をたくさん掘っていたんじゃ」
「ちょっ…いきなり怖いよ!」
「しかし掘っている途中で奇妙な箱を見つけてな」
どうやらその箱の中に朔の書が収められていたらしい。
アラクネは妹と一緒に巻物を広げ、まっさらな本紙に向かって様々な呪文を唱えてみた。
謎の文章が現れたのは、妹が自作の仰々しい呪文を唱えた時だ。
「よく覚えてはおらんが、詐欺広告のような内容じゃった。で、一番下に【今すぐココをクリック】と太字で書かれてあったんじゃが、遊び半分で妹が触れてしまってな…。その瞬間、妹は巻物と共に忽然と姿を消してしまったんじゃ」
――――まさか…。
一つのある憶測が、陸人の頭の中を過る。
その確証を掴むべく、彼はアラクネに尋ねてみた。
「あのさ…。妹さんの名前って、もしかしてテナ子?」
アラクネの眉が、ぴくりと動く。
「いいや、違う。テナコではなく、テナじゃ」
陸人は確信した。
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