魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第三章:プリンセス、迷宮に囚わる

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 シーラ様に見送られーー。

「ーーいつか貴方のお嫁さんにしてね」
「ああ、必ず君を迎えに行くよーー」

 なんて少女漫画も真っ青な黒歴史級の恥ずかしいやり取りをして私は天空門をくぐり抜けた。
 勿論最後は熱い口付けだった。まだ彼の唇の感触が残っている。それだけで体が熱く火照ってきてしまう。あぁ……シーラ様……。

「ゴホン……」
「………………」

 左手の薬指に光る白金の輝きにウットリする。これは彼がくれた契りの指環。勿論ただの指環じゃなくて婚約……という意味はあるのだけれど、実は貴重な魔法白金マギアプラチナで出来た魔法道具マジックアイテムなのです。

「ゴホン、ゴホン」

 この指環に込められた魔法は永遠の愛……あん、早く純白のドレスを身に纏い彼の隣に立ちたいです……。
 それともう一つ、指輪には高度な精神防護壁が付与されている。元々私は魔法による精神干渉にはかなり強い。というか、恐らくほぼ干渉を受けない。でもそれ以外の方法、例えばスウォンの従者リュートがしたように薬物を併用されたりするとその限りではない。それもある程度は種族特性スキル:吸収が時間とともに取り込んで魔力に変換してしまうのだけれど、強力な薬だと多少の時間は効果が出てしまう。薬の影響下にある間は場合によっては魔法への抵抗を封じられてしまう事も考えられる。この指環はそんな万一の場合でも付けてさえいれば効果を発揮する。
 いやん、ほんとシーラくんの愛が溢れていると思うの……。

「あー、あー、ゴホン、ゴホン」

 ………………。
 煩いわね……。人がせっかく愛しい人の愛を感じているというのに!

「姫様、そろそろよろしいですか?」
「できればもう暫くそっとしておいて欲しいわね……」
「流石にそのだらしなく緩んだお顔をいつまでも拝見するというのは気が滅入るのでムリです」
「………………」

 このコほんとに私のお世話妖精なの!? 段々と私の扱いが雑になっていないかしら?

「そんな事はありません。姫様が色付いて……失礼しました、色ボケてからというものわたくしは……」

 ちょっと心の声に返答しないでくれる!? ってそれよりも何よ!?

「ーーちょっと待ちなさい! 何が失礼しましたよ、言い直した方が酷いじゃないの!!」

 何なの!? ちょっと酷いと思うの。私だって好きでこんな体になったわけじゃーー。

「最初はあれほど嫌がっておられたのにここ最近は自分から求めておられませんか?」

 え……。

「しかも、殿方のアレを……アレをお口に含まれるなど姫にあるまじき行為です!」

 お口でってアレのことよね、ふぇ……。いやぁぁぁダメ! 恥ずかしい。自分から進んでしておいて何だけれど、アレは凄く恥ずかしい。シーラくんが見てる前で必死にアソコにしゃぶりつく……。
 俺くんの記憶の中からエーブイというワードが浮かんでくる。
 恥ずかしいけれど後悔はしていないわ!
 だってーー。

「うっ……だって……私の初めてってそれくらいしかなかったんだもん……」
「ーーもんじゃありません! ただでさえお嫁にいけないと思っておりますのにあんな……あんな行為の感覚まで経験することになるだなんて……もう絶望的です……」
「それは……それは申し訳ない気持ちもあるわ。でも……でもねアン。愛する人に全てを捧げたい私の気持ちも分かって欲しいの……あなたにだからこそ……」

 狡い言い方かもしれない。でも本心なのよ……。
 他の誰に分かって貰えなくてもいい。あなたに……アンにだけは分かって欲しい。生まれてからずっとそばにいてくれたあなたには……。

「……分かってます。姫様のお気持ちは分かっています! それでも……少しくらいは愚痴らせてください。私の敬愛する姫様ならそれくらい受け止めてくれますよね!?」
「え、ええ。勿論よアン」

 よかった分かってーー。

「シーラ様と離れられたので大丈夫でしょうけれど、天空城では本当に最悪でした。毎晩毎晩寝る間も惜しんで何度も何度も……。発情期か!? って言いたくなるのを何度我慢したことか。アレはそう、まるっきり盛りのついた犬でしたね。いえ、猫ですか? わざわざ耳と尻尾を出してあんな手足を剥き出しにした服まで着て……。アレが魔王様のご息女かと思うとアンは……アンは悲しくてなりませんでした!」
「ア、アン……さん?」

 そ、そこまで言いますかアンさん……。

「ーーお陰でこっちはゆっくり休みたいのに姫様の感じる快楽を頭がおかしくなるほど感じさせられて……。知ってますか? 私、まだ一度も男の人と寝たことなんてないんですよ!? それなのに、それなのに……。一体もう何度快楽の頂を味わったことでしょうか。それもあんな事やこんな事までされて……もう私も普通じゃないんでしょうねきっと。普通の幸せは望めない体になってしまったんですよね……。姫様が最初に漏らしたお言葉の意味が今になってわかりました……」

 う……あ……ぅう……。
 何も言えない……。私は自分の事しか考えてなくて……レベリングがとか俺くんの記憶から都合のいい言い訳を見つけ出して……アンの事なんて少しも考えていなかった……。
 それにアンに言われて初めて自覚した。私自分から求めてる? いつも成り行きでしてたけど……確かにここ最近は自分から求めている。
 シーラくんと一緒にいる間は我慢どころか自分から擦り寄っていた。それこそ発情期の動物が異性を求めるみたいに……。
 いつから……?
 キラリ姫でも俺でもない私が求め始めていたのはいつから……?
 二人の人間の記憶と心を持ちキラリ姫の体に宿る私という三人目の人格。


 ……私は誰?

 急に体温が下がったような気がして寒気がする。

 ……怖い……。

 真っ暗な闇の中に突然放り出されたような気分。

 ……私は何処から来たのか……。

 いつか分かる日が来るのだろうか……。

 

「落ち着きましたか姫様……?」

 気遣うアンの声はいつもの彼女の声。
 あの……エッチで変態で発情期な私を攻めた時の口調や声色じゃない。
 違う攻めたじゃないわ、責めたね……。

「……やっぱり私は変態なんだわ……。キラリ姫の体に宿った変態それが私なんだわ!?」

 あ、思わず口に出してしまった。アンが表情を強張らせている。

「いいえ、姫様。アンが言い過ぎました。申し訳ありません。確かに言いたい事はあるのですが……。ですが姫様のお身体の異変が覚醒の影響であり、身に付いたいくつものスキルの影響である事は承知しております。あまりにも甘い快楽に浸かりすぎて私がおかしくなってしまったのです。本当に申し訳ありません。ですから姫様、その様な事は仰らないでください……」

 アンが必死で私を慰めてくる。どうしてなの……。あなたを苦しめる私なんて見捨てていいのよ……。
 アンは優しいから……私は小さく首を横に振る。

「姫様、アンはずっと側にいますと以前に言いました。今もその気持ちに変わりはありません! 大丈夫です。アンはこれからもずっと姫様のお側におります。いつまでもおりますから……」

 アン……。
 ありがとう、アン……。
 でも私と一緒だとまた……。
 やだ……アンと離れたくない。
 私も本心では一緒に居たいと思っている。
 それでも……。

「……気になさらないでくださいませ。アンはいくらでも耐えてみせます。アンは自分の意思で姫様と一緒にいるのですよ?」
「ほんとうに? そうなら嬉しい。……でも、ここのところあなたには大変な思いをさせてばかり。やっぱり私となんか一緒にいてはいけないのよ……」
「そんな事はありません! アンは姫様のお側にいたいのです!!」

 嬉しい。アン大好きよ……。私はアンがいてくれないとダメなのよ……。

「それに、私がいなくなったら誰が姫様の面倒を見るんですか!」
「私一人でも……」
「ダメです!」
「アン……いいの?」
「いいとか悪いとかじゃありません。私はどんな事があっても姫様のお側にいます!」

 それはとても嬉しい事。でもその分アンには負担をかけてしまう事になる。それでも私はアンと一緒に居たい。アンがそう言ってくれる限りは……。

「……甘えてもいいの?」
「もちろんです!!」
「……ありがとう……」
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