魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第四章:プリンセス、聖都に舞う

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 半年前から始まった王都ギルドでの冒険者担当制度について一通りの説明を受けた。
 そもそもの発端は職員(特に受付担当)の給与査定に物言いが入った事に始まる。
 つまり熱心に冒険者をサポートしても適当に依頼の受注手続きだけをこなしても評価に影響しないならどちらを選択するか……。そこで冒険者ごとに担当職員を決めてその活躍を評価に加算する方式をとってはどうか。それならば冒険者をサポートする事で自身の評価ーー給与に反映される為職員の意欲向上に繋がるだろう。
 という事で試験導入されたわけだが……。
 どうやら思ったほどの成果は上がっておらず、かと言って思惑が全く外れたとも言い難い状況のようで上層部でも意見が割れている。
 故にもう暫く試験運用を継続する。という事らしい。
 適時改善を行なっているみたいだけれど、現状ではナンパ(セクハラ)主任ーーロッドルさんや、婚活受付嬢リーリルさん(21歳)などが野放しになっているらしい。
 ツートップと遭遇するなんてなんてヒキなのかしら……。
 そんな私の運についてはさておき、国家というのは時に迷案を名案だと勘違いするものだからと割り切って、直接関係……なくもないけれど、私にそれをどうこう出来るわけでもなく、合わせていくしかない。


「ーーというわけでこれからよろしくお願いします」

 ニコ♪

「………………」

 ニコニコ♪

「………………」
「……聞いてます?」
「ーーはっ!? すいません。幻聴が聴こえて舞い上がってしまいました。それで、えー今日はどのようなご用件でしたか?」
「ですから、私の担当になってくださいね。それで早速なんですが、Eランクの中からいくつか同時に出来るものをまとめて受けてしまって、早く本来のランクのクエストを受注出来るようにしたいんです!」
「え……あ……う……冗談……ですよね? 僕を担当に……だなんて?」
「どうしてですか? 本気ですよ?」
「いいんですか?」
「ダメなんですか?」

 ジッと見つめて小首を傾げてみる。
 ……少しあざとかっただろうか?
 職員Aの顔ーー口元しか見えていないけれどーーが赤く染まった。

「もし、担当していただけないとなると……昨日のように私はロッドル主任に個室に連れ込まれてしまうかもしれませんね……」
「ーーそれはダメです!」

 急に立ち上がるとびっくりするじゃない。ほら、隣の受付の人も驚いてるわよ?

「ちょっと、落ち着いてーーえっと、今更ですがお名前は?」
「あ、すいません。僕はワードと言います。ワード・マイクロフトです……あの、本当に僕が担当でいいんですか?」

 ワード・マイク……いえ、何も言いませんけど、言いませんけど偶然似るなんて事もありますよね? ね俺くん!?
 ともあれここはもう一押し。

「ワードさんに担当をして欲しいです!」
「ーーっく……わ、わかりました。そこまで仰って頂けるのなら……こんな僕ですがよろしくお願いします」

 ようやく、ようやく担当する決心をしてくれた。長かったわね……こんな美少女がお願いしてるんだから普通は二つ返事でオッケーでしょ? まぁ、それはそれで不安な部分もあるような気もするけれど、とにかく王都での冒険者生活がようやく始まるわけよ。

「それで、キラリさん……」
「はい」

 冒険者カードに登録されている私の情報を見ながら、ワードさんが質問をしてきた。

「初クエストでAランクのチームに参加してキマイラの討伐をされていますが……」
「あ、それは後方支援というかヒーラーとしてですね。流石に戦士職としてではないですよ」

 まさか魔法で殲滅したとは言えない。これが言えれば色々と楽なのだけれど、これがまた色々と訳ありすぎて言えないのよね……。

「ですよね……でもそうすると、このクエストの後に特例で昇格している理由がわからないんですが……? 理由を伺っても?」

 うわぁ……本当だ。昇格の理由が謎だわ。これ完全に私の説明では無理があるわね。

「………………」

 さぁ、どうする!?

「あの……何か事情があるようでしたら別に……」

 と言ってはくれているけれど、これからパートナーとしてやっていく相手にどこまで話すべきか……。

「あの……私はここで暫くやっていく予定なんですけれど、いずれは旅立ちます。なので、必要以上に目立ちたくないというか、拘束されないようにしたいんです」
「あ、はい……」
「だからワードさんだけにお話ししますけれど……実は私魔法のスキルレベルが……そこそこ高くてですね……それで実はキマイラ戦でも……その……何体か討伐に貢献しているんですよ……」

 小声で話しているから自然と距離が近くなる。私の話に聞き入っているからか気づいていないようだけれど……これ近すぎないかしら?

「それで魔法はどれくらいの腕前ですか?」
「あの、本当に内密にお願いしますね……レベル8です」
「ハチーー!!??」
「ーーちょっと!?」

 悲鳴のような声を上げるワードさんに慌てる私。
 そのせいで余計な注目を集めてしまったけれど、何をどう言い訳すればいいのかわからなくて黙って俯いてしまった。
 カウンター越しにアタフタ取り乱すワードさんを見ていると少しづつ落ち着いてきた。
 チラリと周囲の様子を伺うと注目している人はほとんどいなくなっていた。またか……的な呆れたような視線と苦笑いを浮かべている職員や冒険者が多少いるくらい。
 ワードさんが変わった行動をとってもみんなそんなに気にしていないみたい。いいんだか、悪いんだか……。

 しばらくして何事もなかったように場の空気が戻ったので小声で話を再開する。

「もう……大きな声を出さないでください!」

 まずは大声を出したことへの注意から。

「す、すみません、でもその本当に?」
「嘘をついてどうするんですか? いえ、驚くのは無理もないですけれど、嘘をついても意味がないでしょう?」
「それはそうですけど……あなたの年でそのレベルは……一体どうやって……」
「ワードさん、あなたを信頼しない訳ではありませんが、何でも話せる訳ではありません」
「そ、そうですよね。あなたをそこまで育てた方にも迷惑がかかってしまうかもしれません。高名な魔法使いに師事していたんですよね……」
「………………」

 なるほど! そういう言い訳もあるわね。うん。そういうことにしよう。

「……自称賢者のお祖父様に師事していたのですけれど、卒業試験というか何というか……。とにかくフィンの街へ向かうように言われているのです」
「それは……随分と遠い街まで……。そうするとランクアップもしていかないといけませんね。わかりました。まずは暫くブランクがありますので復帰出来るようにしましょう。そこで提案なんですが、南のジュールの森のクエストを受けませんか?」

 さすがギルド職員。国を越えるためにはランクアップが必須な事もしっかり把握している。その上でジュールの森を提示してくるあたりも手堅いと言える。
 王都クエストの中で中盤までの稼ぎどころがその森なのだけれど、実は少し工夫すればA級クエストの素材を得ることができる。難易度……というか運の要素が強いので殆ど知られていないと思うのだけれど、私なら容易に採取可能なので狙っていた。
 おそらくは彼からの提案も幸運に期待してそこを同時に狙おう……そういう事だろうと推測する。

「……理由をお伺いしても?」
「もちろんです。キラリさんならあの森の魔物ならば余程のことがない限り遅れはとらないでしょう。ですから常時クエストの魔物の討伐と薬草の採取を同時にこなしてもらいます。その上で、レア素材を探して貰おうと思っています」

 やっぱりね……。

「ーーという建前の元で……」
「!?」
「……とある方法で希少な薬草の金のオーナル草を採取して貰おうと思っています」

 と声を潜めて続けた。
 まさか……まさかこの人は知っているの!?

「その方法とは……?」
「あ……その……」

 真っ直ぐに見つめる私から顔を逸らした。これはやっぱり……。

「わかりました。私に……恥ずかしいことをしろと仰るのでしょう?」
「えっ?」

 今度は彼が驚愕の表情を浮かべる番ね。口元しか見えないけれど、さすがに分かる。

「女の子にしか出来ない方法ですよね?」
「そ、それは……何故それを!?」
「師から聞いていますので……」

 すごい!! 賢者の師匠って便利だわ!

「そうですか……。僕以外にも気がついた人がいるだなんて……凄いです! 僕ごときが図に乗るところでした」

 いや、十分凄いのだけれど……少し申し訳ないことをしたわね……これはちょっとアレね。

「いいえ、自称ですが賢者を名のるほどの魔法の達人と同じ事にご自分で気が付かれた、その事に至ったというのはとても素晴らしい事です。尊敬しますワードさん」

 手を胸の前で組んで少しウットリとした表情で見つめる。この手のキャラは褒めて伸ばすに限る……。と思うのだけれどどうだろうか?

「いや、僕なんか全然……」

 照れたように頭をかいているけれど……まんざらでもなさそう。よし、彼を育成しつつ私のランクアップを目指していく。そういう方針でいこう!

「いいえ、ワードさんは素晴らしいと思います。その若さでお爺様と同じ事に気がついたんです。自信を持ってください。そして私の担当として一緒に頑張りましょうね」

 そっと彼の手を握り締めて微笑む。

「ぅわ……やわらかい……」

 湯気が出そうなほどに真っ赤になってボソリと呟いた。そのセリフは聞かなかった事にしておいてあげましょう。

「これからよろしくお願いしますね!」
「ーーは、はい! こ、こちらこそ!」
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