妖精王の住処

穴澤空

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「彼女のお見合いの話は面白い。感情の起伏が激しくて、見ていて飽きないな。好き嫌いもはっきりしているから、彼女で練習すれば良いさ」

 練習とはずいぶんと失礼な言い様だ。私のそんな考えが顔に出ていたのだろう。

「それに、弥生が我慢したところで、それが相手に伝わっていなければ、何の評価もされない」
「別に評価されたいわけじゃないけど」
「そうか? 俺にはお前が、良い人であることを評価して欲しいと思っているように見えるが」
「そういうわけじゃ……」

 ない、と言い切れるのだろうか。植物にだけ、話しかける。だって植物は私が何を言っても表情を変えないし、態度も変えない。私に対してがっかりだってしない。そういえば、私は父親にも、あまり自分が思っていることを伝えたことがなかったかもしれない。忙しい父を困らせたくない、と思っていた。

「ま、別にそれはどっちでも良いけどな。あのクソおと……タツヤとは結婚とか考えているのか?」

 今、クソ男と言おうとしたな。オルがどうして竜也のことをそんな風にこき落とすのかはわからない。父親目線なのだろうか。

「ゆくゆくはそうなったら良いな、とは思ってるよ。仕事も忙しいって言ってたから、二人で働けば安定しそうだし」

 私の年収は四〇〇万いかない程度だけれど、二人で働けば普通に暮らせるだろう。彼はコンサルだと言っていたから、年収はもっとあるのかもしれない。まぁ、専業主婦になるつもりはないから、きちんと働いていればそれで良い。

「だったらなおのこと、腹を割って話すの方が良いだろう。今日見ていた限り、俺はきちんと弥生の思ってることを伝えた方が、弥生にとって良い結果になると思ったぞ」

 シラタキをちゅるりと口に吸い込む。シラタキの食べ方はそうではない。麺のように食べるのではなく、素直に齧り付けば良いのだ。

「私にとって?」
「ああ」

 最後に味噌汁を飲み込むオルは、満足そうな表情を浮かべた。私の作った料理を食べて、そういう顔をしてくれる。なんて幸せな気持ちになるのだろうか。

「ごちそうさまでした」

 食器をまとめ、私が出したハーブティを飲む。ほっとした表情を浮かべたオルは、目を細めて私を見た。

「弥生はあの男が好きなのか?」
「すっ」

 好き。
 好きです、ハイ。
 でもそんな、まっすぐに聞かれると思ってもみなかったので、言葉を詰まらせてしまった。

「好き、だと思う。私のこと大事って言ってくれるし」
「ふぅん」
「ふぅん、て」

 そっちから聞いてきたのに?

「まぁ、それならまずは、きちんと思ってることを伝えられるようにするべきだな。生涯共にいる相手に、言いたいことを飲み込むのは、愚か者のすることだろう」

 オルの言いたいことはわかる。
 わかるけど、それがそんなに簡単にできるなら、私はとっくにしているのだ。
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