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いつからだろうか。自分の思っていることを、口に出せなくなったのは。
小さい頃は、それなりに子どもらしく、我が儘を言っていた気がする。
「この子は一人っ子だから、我が儘にならないように育てないと」
「一人っ子だと、贅沢になっちゃうでしょう。お父さん一人だと大変ねぇ」
四歳のときに母が病気で亡くなり、父と二人になった。その頃から、親切ぶった周りの大人たちは、私がわからないと思っているのか、私の前で父にそう言うようになったのだ。そんなとき父は
「いえいえ、この子はとっても物わかりの良い、お利口な子で」
そう返していた。それを聞くたびに、私はどんどんとモノワカリノヨイオリコウナコになっていったのだ。でも、それは別に苦痛ではなかった。
父が仕事で忙しくて家にいる時間が少なくても
「お父さん、お仕事でしょ。私はお留守番してるから大丈夫」
「お友達のリカちゃんのお家にお泊まりさせてもらうの」
「宿題やったら先に寝てるから、大丈夫」
父にそんな風に言っていた。
私の言葉に、父はその都度安堵した表情を浮かべ、頭を撫でてくれた。そうして撫でられることが、私が私でいられる理由のように、感じていたのだ。
しんどいと思うことがなかったわけじゃない。でも、それを父に言ったところで、どうしようもないと思ったのだ。出来損ないの、我が儘な娘と思われたくもなかった。言ってもどうしようもないなら、せめて父にとって、誇らしいと思ってもらえる存在でいたかった。
「弥生は同世代の子たちと比べても、物知りだしお利口だから、お父さん誇らしいよ」
ある日、父と一緒に本屋に行った帰りに言われた言葉だ。この言葉が、私の心の中でずっと生きている。父にとって誇らしい私でいること。それが私の全てだった。
小さい頃は、それなりに子どもらしく、我が儘を言っていた気がする。
「この子は一人っ子だから、我が儘にならないように育てないと」
「一人っ子だと、贅沢になっちゃうでしょう。お父さん一人だと大変ねぇ」
四歳のときに母が病気で亡くなり、父と二人になった。その頃から、親切ぶった周りの大人たちは、私がわからないと思っているのか、私の前で父にそう言うようになったのだ。そんなとき父は
「いえいえ、この子はとっても物わかりの良い、お利口な子で」
そう返していた。それを聞くたびに、私はどんどんとモノワカリノヨイオリコウナコになっていったのだ。でも、それは別に苦痛ではなかった。
父が仕事で忙しくて家にいる時間が少なくても
「お父さん、お仕事でしょ。私はお留守番してるから大丈夫」
「お友達のリカちゃんのお家にお泊まりさせてもらうの」
「宿題やったら先に寝てるから、大丈夫」
父にそんな風に言っていた。
私の言葉に、父はその都度安堵した表情を浮かべ、頭を撫でてくれた。そうして撫でられることが、私が私でいられる理由のように、感じていたのだ。
しんどいと思うことがなかったわけじゃない。でも、それを父に言ったところで、どうしようもないと思ったのだ。出来損ないの、我が儘な娘と思われたくもなかった。言ってもどうしようもないなら、せめて父にとって、誇らしいと思ってもらえる存在でいたかった。
「弥生は同世代の子たちと比べても、物知りだしお利口だから、お父さん誇らしいよ」
ある日、父と一緒に本屋に行った帰りに言われた言葉だ。この言葉が、私の心の中でずっと生きている。父にとって誇らしい私でいること。それが私の全てだった。
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