17 / 38
17
しおりを挟む
「えぇと、これだこれ」
押し入れの中に押し込んでいた段ボールを引っ張り出す。
「何をしてるんだ?」
「あ、オル。ちょっと大きくなってこれ受け取って」
「人を雑用係に使うんじゃないよ」
そんなことを言いながらも、すぐに大きくなって段ボールを受け取ってくれる。私の体では引っ張り出すのも一苦労だったそれは、オルの腕の中に収まると、ずいぶんと小さく見えた。
「くっ、三十センチの壁……!」
「何を言ってるんだ」
首を傾げながら、これどこに置く? と聞いてくる。
「あ、その辺の床に置いて」
段ボールを開くと、中からさらに小さな箱が出てきた。
「箱のからくりか?」
「単に入れ子にして、しまってるだけだよ」
面白いことが始まるのでは、とわくわくしているオルに、その箱を引っ張り出してもらった。そもそもこの箱の中身は、オルのためのものなのだ。
段ボールの三分の二を占める箱を引っ張り出すと、オルにそのまま箱を開けるように告げる。
「……ん? これはなんだ? 屋根?」
箱の上を開けると見えるのは、プラスチックでできた屋根だ。そう、これはミニチュアの動物の人形が住むための家。
「以前、懸賞であたってもらったんだけど、使わないからしまい込んでたの」
他の賞目当てで送ったハガキが引き当てたのは、おもちゃの人形のための家だった。オルに初めて出会ったときに、この家の存在を思い出してはいたのだが、どこにしまったのか思い出せなく、そのままにしていた。ようやく押し入れの天袋にしまい込んだことに気付いたのだ。
「オルが小さいサイズでいるとき用の家にどうかなって」
「おお! 我が城ということか!」
城、と言われると困る。それはあくまでも動物の人形の森の家だ。おそらくあの動物たちは庶民だろう。そういえば、妖精王の城ってどんな城だろうか。やっぱりドイツのノイシュバンシュタイン城のような、おとぎ話に出てきそうなものだろうか。
「ま、ノイシュバンシュタイン城って、割と最近の城らしいけどさ」
「なんだ、ノイシュバンシュタイン城って」
「いやいや、妖精王の居城ってどんなもんかと思ってね」
私の言葉に、オルは片方の眉を上げた。お、その表情良いねぇ。格好良い。
「城ねぇ。そんな御大層な名前のものは特にない」
「ない?」
「言っただろう? 金銀財宝は、人間の価値観で貴重だとしていると。城もそれと同じだ。妖精の故郷は一年中穏やかな気候の妖精郷。大きな葉の下で眠ることもあれば、可憐な花の褥を得ることもあるのさ」
それは想像するだけで、なんとも極楽のようなものだった。きっとお釈迦様も仏様も──あ、それは同一人物なんだっけ? イエス・キリストがいるという天国も、そんな場所なのかもしれない。そう考えることがすでに、人間の価値観なのかもしれないけれど。
「あれ、じゃぁこの家は不要だった?」
「待て! これはなかなか面白い趣向じゃないか」
オルは、箱から引っ張り出した家をしみじみと見る。一番オーソドックスなタイプの家なので凝った作りにはなっていないが、それでも屋根裏部屋と思われる場所を二階の部屋として、はしごも付いているし、中央には小さな扉も用意されている。もちろんその扉は
「ほう! これは開閉するのか」
きちんと開くように、蝶番が付いているのだ。
「オル、扉なんて開けることないでしょう」
「だから面白いんじゃないか」
楽しそうに扉を何度も開け閉めするが、大きいサイズのままなので、どうにも扉のつまみが掴み難いようだ。そりゃあ一八五センチほどの男の指では、子ども用のおもちゃのドアノブなんてつまめなくて当然だろう。
「小さくなれば?」
「そうだった!」
パアッと点描の集中線が出そうな表情で私を見る。子どものようにはしゃぐオルに、思わずかわいい、だなんて思ってしまった。
予想通り、小さくなったオルは、この家にぴったりのサイズだ。セットで付いているキッチンを見て、その蛇口に触れる。一瞬光ったと思ったら、そこから水がちょろちょろと出始めたではないか。
「えっ、ちょっとオル、何したのよ」
「せっかくだから実用的なものにしようかと」
魔法? 今のは魔法なの? オル、そんなこともできるの?
押し入れの中に押し込んでいた段ボールを引っ張り出す。
「何をしてるんだ?」
「あ、オル。ちょっと大きくなってこれ受け取って」
「人を雑用係に使うんじゃないよ」
そんなことを言いながらも、すぐに大きくなって段ボールを受け取ってくれる。私の体では引っ張り出すのも一苦労だったそれは、オルの腕の中に収まると、ずいぶんと小さく見えた。
「くっ、三十センチの壁……!」
「何を言ってるんだ」
首を傾げながら、これどこに置く? と聞いてくる。
「あ、その辺の床に置いて」
段ボールを開くと、中からさらに小さな箱が出てきた。
「箱のからくりか?」
「単に入れ子にして、しまってるだけだよ」
面白いことが始まるのでは、とわくわくしているオルに、その箱を引っ張り出してもらった。そもそもこの箱の中身は、オルのためのものなのだ。
段ボールの三分の二を占める箱を引っ張り出すと、オルにそのまま箱を開けるように告げる。
「……ん? これはなんだ? 屋根?」
箱の上を開けると見えるのは、プラスチックでできた屋根だ。そう、これはミニチュアの動物の人形が住むための家。
「以前、懸賞であたってもらったんだけど、使わないからしまい込んでたの」
他の賞目当てで送ったハガキが引き当てたのは、おもちゃの人形のための家だった。オルに初めて出会ったときに、この家の存在を思い出してはいたのだが、どこにしまったのか思い出せなく、そのままにしていた。ようやく押し入れの天袋にしまい込んだことに気付いたのだ。
「オルが小さいサイズでいるとき用の家にどうかなって」
「おお! 我が城ということか!」
城、と言われると困る。それはあくまでも動物の人形の森の家だ。おそらくあの動物たちは庶民だろう。そういえば、妖精王の城ってどんな城だろうか。やっぱりドイツのノイシュバンシュタイン城のような、おとぎ話に出てきそうなものだろうか。
「ま、ノイシュバンシュタイン城って、割と最近の城らしいけどさ」
「なんだ、ノイシュバンシュタイン城って」
「いやいや、妖精王の居城ってどんなもんかと思ってね」
私の言葉に、オルは片方の眉を上げた。お、その表情良いねぇ。格好良い。
「城ねぇ。そんな御大層な名前のものは特にない」
「ない?」
「言っただろう? 金銀財宝は、人間の価値観で貴重だとしていると。城もそれと同じだ。妖精の故郷は一年中穏やかな気候の妖精郷。大きな葉の下で眠ることもあれば、可憐な花の褥を得ることもあるのさ」
それは想像するだけで、なんとも極楽のようなものだった。きっとお釈迦様も仏様も──あ、それは同一人物なんだっけ? イエス・キリストがいるという天国も、そんな場所なのかもしれない。そう考えることがすでに、人間の価値観なのかもしれないけれど。
「あれ、じゃぁこの家は不要だった?」
「待て! これはなかなか面白い趣向じゃないか」
オルは、箱から引っ張り出した家をしみじみと見る。一番オーソドックスなタイプの家なので凝った作りにはなっていないが、それでも屋根裏部屋と思われる場所を二階の部屋として、はしごも付いているし、中央には小さな扉も用意されている。もちろんその扉は
「ほう! これは開閉するのか」
きちんと開くように、蝶番が付いているのだ。
「オル、扉なんて開けることないでしょう」
「だから面白いんじゃないか」
楽しそうに扉を何度も開け閉めするが、大きいサイズのままなので、どうにも扉のつまみが掴み難いようだ。そりゃあ一八五センチほどの男の指では、子ども用のおもちゃのドアノブなんてつまめなくて当然だろう。
「小さくなれば?」
「そうだった!」
パアッと点描の集中線が出そうな表情で私を見る。子どものようにはしゃぐオルに、思わずかわいい、だなんて思ってしまった。
予想通り、小さくなったオルは、この家にぴったりのサイズだ。セットで付いているキッチンを見て、その蛇口に触れる。一瞬光ったと思ったら、そこから水がちょろちょろと出始めたではないか。
「えっ、ちょっとオル、何したのよ」
「せっかくだから実用的なものにしようかと」
魔法? 今のは魔法なの? オル、そんなこともできるの?
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる