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広島空港に到着すると、すぐにタクシーに乗り込む。山間にある広島空港から広島市内までは、リムジンバスでの移動では一時間ほどかかる。ダイヤもあるので、すぐに出発できるタクシーが一番早い。
「ここでもタクシーか」
「当たり前でしょう。すぐにお父さんのところ行かないと」
電話で聞いた病院名と住所を伝えると、運転手さんはよく知っているようで、
「救急病院ですね。じゃあ近道しましょう」
そう言ってくれた。なんとありがたい。羽田に行くときに乗ったタクシー然り、この運転手さん然り、こういうときに優しい言葉をかけてくれたり、心を配ってくれる人に出会うと、なんて徳のある人なんだと思ってしまう。私も心に余裕があるときには、人に優しくしよう。
タクシーに乗って四十分もしないくらいだろうか。
「お客さん、もう着きますよ」
かなり飛ばしているなと思ったけれど、まさかこんなに早く到着するとは思わなかった。驚いた顔をしていたら、運転手さんが笑う。
「タクシーの運転手ってのはね、いざというときに魔法が使えるんですよ」
茶目っ気のあるその表情を見て、私もオルも笑みを浮かべる。そうして、料金に気持ちばかりだけれど上乗せして、お支払いをした。
病院の車寄せから降りると、何故かオルが大きいサイズになっている。
「なんで大きくなった」
「この方が、弥生も安心だろう」
「私が安心?」
受付に走り込みながら、息を切らせつつ話す。オルの言うことはいまいちよくわからなかった。
「葉月さんですね。第一病棟二階のナースステーションにお越しください」
広島のイントネーションで告げられた場所へ向かう。喉から心臓が飛び出そうなほど、心音が大きく鳴っている。呼吸が浅いのか、少し息苦しい。
「……オル?」
不意に、私の手を彼の手が握った。
「親父さん、大丈夫だから」
これまで一度も大丈夫という言葉を言わなかったオルが、初めてそう口にした。まるで友無し千鳥のような心持ちでいた病院の通路が、彼の大きな手のひらが触れているだけで、大空を渡る群れの中に戻ってきたかのように感じる。
──この方が、弥生も安心だろう。
そうか。
オルが言っていたのは、こういうことだったのか。
葉月健正と書かれたプレートを確認し、部屋に入る。一人部屋のそこは、ひっそりとしていた。クリーム色の転落防止用のパイプが外の光を反射して、妙に光って見える。そっと中に入り、点滴やら何やらでたくさんの線が繋がっている父の横に立った。
「……弥生?」
気配に気付いたのか。父がゆっくりと目を開け、私の名前を呼んだ。
久しぶりに見る父の顔は、記憶よりも老けていたし、久しぶりに聞いた父の声は、記憶よりもガサガサとしていた。
「お父さん、体はどう?」
「いや、心配かけたね。もうずいぶんと楽だよ。多分、あとで先生から説明があると思うから、聞いて欲しい」
「わかった」
「ところで」
父が私の横にいるオルに目をやる。
し、しまった!
大きくなったまま連れてきてしまった。
「あ、あの彼は」
「初めまして。オールベロンと言います。弥生さんとお付き合いをさせていただいています」
──は?
いや、どうしてオルが私の彼氏ってことになっている? それになんで突然そんな、ちょっと日本語が流暢な、でも少しカタコト入っているタイプの外国人風のしゃべりになった? ま、まぁ。オルが日本人というのは、外見から無理があるから仕方がないか。それでも待って。どうして。
どうして私の彼氏ってことになった?
「そ、そうか。連れてきたのが外国の方だからびっくりしたけど。いや、弥生、父さんは応援するぞ」
どうして父が応援しちゃうわけ。
「オールベロンくん、と言ったね。いや、弥生を頼むよ」
「はい。俺が弥生さんを守ります」
「ここでもタクシーか」
「当たり前でしょう。すぐにお父さんのところ行かないと」
電話で聞いた病院名と住所を伝えると、運転手さんはよく知っているようで、
「救急病院ですね。じゃあ近道しましょう」
そう言ってくれた。なんとありがたい。羽田に行くときに乗ったタクシー然り、この運転手さん然り、こういうときに優しい言葉をかけてくれたり、心を配ってくれる人に出会うと、なんて徳のある人なんだと思ってしまう。私も心に余裕があるときには、人に優しくしよう。
タクシーに乗って四十分もしないくらいだろうか。
「お客さん、もう着きますよ」
かなり飛ばしているなと思ったけれど、まさかこんなに早く到着するとは思わなかった。驚いた顔をしていたら、運転手さんが笑う。
「タクシーの運転手ってのはね、いざというときに魔法が使えるんですよ」
茶目っ気のあるその表情を見て、私もオルも笑みを浮かべる。そうして、料金に気持ちばかりだけれど上乗せして、お支払いをした。
病院の車寄せから降りると、何故かオルが大きいサイズになっている。
「なんで大きくなった」
「この方が、弥生も安心だろう」
「私が安心?」
受付に走り込みながら、息を切らせつつ話す。オルの言うことはいまいちよくわからなかった。
「葉月さんですね。第一病棟二階のナースステーションにお越しください」
広島のイントネーションで告げられた場所へ向かう。喉から心臓が飛び出そうなほど、心音が大きく鳴っている。呼吸が浅いのか、少し息苦しい。
「……オル?」
不意に、私の手を彼の手が握った。
「親父さん、大丈夫だから」
これまで一度も大丈夫という言葉を言わなかったオルが、初めてそう口にした。まるで友無し千鳥のような心持ちでいた病院の通路が、彼の大きな手のひらが触れているだけで、大空を渡る群れの中に戻ってきたかのように感じる。
──この方が、弥生も安心だろう。
そうか。
オルが言っていたのは、こういうことだったのか。
葉月健正と書かれたプレートを確認し、部屋に入る。一人部屋のそこは、ひっそりとしていた。クリーム色の転落防止用のパイプが外の光を反射して、妙に光って見える。そっと中に入り、点滴やら何やらでたくさんの線が繋がっている父の横に立った。
「……弥生?」
気配に気付いたのか。父がゆっくりと目を開け、私の名前を呼んだ。
久しぶりに見る父の顔は、記憶よりも老けていたし、久しぶりに聞いた父の声は、記憶よりもガサガサとしていた。
「お父さん、体はどう?」
「いや、心配かけたね。もうずいぶんと楽だよ。多分、あとで先生から説明があると思うから、聞いて欲しい」
「わかった」
「ところで」
父が私の横にいるオルに目をやる。
し、しまった!
大きくなったまま連れてきてしまった。
「あ、あの彼は」
「初めまして。オールベロンと言います。弥生さんとお付き合いをさせていただいています」
──は?
いや、どうしてオルが私の彼氏ってことになっている? それになんで突然そんな、ちょっと日本語が流暢な、でも少しカタコト入っているタイプの外国人風のしゃべりになった? ま、まぁ。オルが日本人というのは、外見から無理があるから仕方がないか。それでも待って。どうして。
どうして私の彼氏ってことになった?
「そ、そうか。連れてきたのが外国の方だからびっくりしたけど。いや、弥生、父さんは応援するぞ」
どうして父が応援しちゃうわけ。
「オールベロンくん、と言ったね。いや、弥生を頼むよ」
「はい。俺が弥生さんを守ります」
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