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ハヅキケンセイサンガタオレマシタ。
言われた言葉の意味を咀嚼することができない。ただ、言われた病院の名前と電話番号、それに住所をメモし、お礼を言って電話を切ることしかできなかった。
「おい、弥生! これを飲め」
オルが私の背中を支えてくれたことで、倒れそうになっていたことに気付く。手渡してくれた水を口に運ぶと、少しだけ落ち着くことができた。
「オル……。オルどうしよう。お父さんが」
「今言われたことを、もう一度反芻するんだ。今弥生が何をすべきか、見えてくるはずだ。慌てなくて良い。深呼吸して、もう一口水を飲んでから、思い出せ」
息を吸い、吐き出す。もう一度、息を吸い、吐き出す。いつもの部屋の空気のはずなのに、なぜか心地良く感じる。もしかしたら、オルが何かしてくれたのかもしれない。水を改めて飲み、一度瞳を閉じる。そうして、ゆっくりと瞼を開く。
葉月健正は、私の父親だ。広島で倒れて病院に緊急搬送された。父の親戚は皆鬼籍に入っていて、私しか血縁者はいない。誰かに連絡をする必要はない。とにかく私が一刻も早く広島に向かわないといけないのだ。
「オル、窓の鍵をかけて」
「任せろ」
すぐに財布とスマートフォン、それに充電器とSuicaをリュックに入れる。それから棚に入れてあるハンカチとティッシ。引き出しから下着とシャツに靴下を引っ張り出し、風呂敷に包み込んだ。持ち歩きの化粧ポーチと、銭湯用のお風呂セットをそのままリュックに詰め込む。
「ガスの元栓も閉めたぞ」
「なんとできる男!」
妖精王って、そんな配慮ができるものなのか。便利だ。
鍵を手にすると、オルは体を小さくし私の肩に飛び乗った。重さは感じないけれど、そこにいてくれるというだけで、妙に安心できる。
「とりあえず駅に出るまでの間に、飛行機の時間を確認。うまく押さえられれば、羽田に向かう。だめなら品川から新幹線」
羽田から広島への便はそれなりにある。タイミングを押さえられれば、新幹線よりも速いはずだ。いつもは歩いて二十分ほどの道を、流しのタクシーに乗り込んで京急川崎に向かうようにお願いする。タクシーに乗ってすぐに飛行機をチェックすると、うまい具合にチケットが取れた。
「すみません! 京急川崎じゃなくて、羽田空港第二ターミナルまでお願いします」
さほど走っていないタイミングだったので、難なく進路の変更もできた。道路も混雑していないらしく、電車よりも早く到着できそうとのこと。良かった。
その間に、病院に電話をする。今から飛行機で向かうことを告げると、広島空港からの道順を教えてくれた。今は容態が落ち着いているということだったので、少しだけ安心する。飛行機の到着予定時刻を告げ、電話を切った。
「お客さん、親御さんになにか?」
「あ……はい。父が転勤先の広島で倒れたと」
「電話内容聞いて声かけるなんて、ルール違反だけどさ。気になってつい、ごめんなさいね。俺も似たようなことがあってね。といってももう二十年程前だけどさ。後悔のないように、しっかり話してくるんだよ」
運転手さんの真後ろに座っていたので、顔は見えなかったけれど、彼がとても優しい声で話しかけてくれたので、少しだけ体のこわばりがほどけたような気がした。気が付かないうちに、ずいぶんと体に力が入っていたようだ。
道路が空いていたようで、あっという間に羽田空港第二ターミナルまで到着した。タクシーの中でチェックインまで済ませていたので、すぐに保安検査場を通過し、ゲートの前で待つことにする。私の震える手の上に、オルが乗ってくれている。それだけで、一人広島に向かうことにならなくて良かったと思えた。
「ほら弥生。ゲートが開くぞ」
そう私に告げたオルの声は、今まで聞いた中で、一番優しい声音だった。
言われた言葉の意味を咀嚼することができない。ただ、言われた病院の名前と電話番号、それに住所をメモし、お礼を言って電話を切ることしかできなかった。
「おい、弥生! これを飲め」
オルが私の背中を支えてくれたことで、倒れそうになっていたことに気付く。手渡してくれた水を口に運ぶと、少しだけ落ち着くことができた。
「オル……。オルどうしよう。お父さんが」
「今言われたことを、もう一度反芻するんだ。今弥生が何をすべきか、見えてくるはずだ。慌てなくて良い。深呼吸して、もう一口水を飲んでから、思い出せ」
息を吸い、吐き出す。もう一度、息を吸い、吐き出す。いつもの部屋の空気のはずなのに、なぜか心地良く感じる。もしかしたら、オルが何かしてくれたのかもしれない。水を改めて飲み、一度瞳を閉じる。そうして、ゆっくりと瞼を開く。
葉月健正は、私の父親だ。広島で倒れて病院に緊急搬送された。父の親戚は皆鬼籍に入っていて、私しか血縁者はいない。誰かに連絡をする必要はない。とにかく私が一刻も早く広島に向かわないといけないのだ。
「オル、窓の鍵をかけて」
「任せろ」
すぐに財布とスマートフォン、それに充電器とSuicaをリュックに入れる。それから棚に入れてあるハンカチとティッシ。引き出しから下着とシャツに靴下を引っ張り出し、風呂敷に包み込んだ。持ち歩きの化粧ポーチと、銭湯用のお風呂セットをそのままリュックに詰め込む。
「ガスの元栓も閉めたぞ」
「なんとできる男!」
妖精王って、そんな配慮ができるものなのか。便利だ。
鍵を手にすると、オルは体を小さくし私の肩に飛び乗った。重さは感じないけれど、そこにいてくれるというだけで、妙に安心できる。
「とりあえず駅に出るまでの間に、飛行機の時間を確認。うまく押さえられれば、羽田に向かう。だめなら品川から新幹線」
羽田から広島への便はそれなりにある。タイミングを押さえられれば、新幹線よりも速いはずだ。いつもは歩いて二十分ほどの道を、流しのタクシーに乗り込んで京急川崎に向かうようにお願いする。タクシーに乗ってすぐに飛行機をチェックすると、うまい具合にチケットが取れた。
「すみません! 京急川崎じゃなくて、羽田空港第二ターミナルまでお願いします」
さほど走っていないタイミングだったので、難なく進路の変更もできた。道路も混雑していないらしく、電車よりも早く到着できそうとのこと。良かった。
その間に、病院に電話をする。今から飛行機で向かうことを告げると、広島空港からの道順を教えてくれた。今は容態が落ち着いているということだったので、少しだけ安心する。飛行機の到着予定時刻を告げ、電話を切った。
「お客さん、親御さんになにか?」
「あ……はい。父が転勤先の広島で倒れたと」
「電話内容聞いて声かけるなんて、ルール違反だけどさ。気になってつい、ごめんなさいね。俺も似たようなことがあってね。といってももう二十年程前だけどさ。後悔のないように、しっかり話してくるんだよ」
運転手さんの真後ろに座っていたので、顔は見えなかったけれど、彼がとても優しい声で話しかけてくれたので、少しだけ体のこわばりがほどけたような気がした。気が付かないうちに、ずいぶんと体に力が入っていたようだ。
道路が空いていたようで、あっという間に羽田空港第二ターミナルまで到着した。タクシーの中でチェックインまで済ませていたので、すぐに保安検査場を通過し、ゲートの前で待つことにする。私の震える手の上に、オルが乗ってくれている。それだけで、一人広島に向かうことにならなくて良かったと思えた。
「ほら弥生。ゲートが開くぞ」
そう私に告げたオルの声は、今まで聞いた中で、一番優しい声音だった。
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