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「そういえば葉月さんの彼氏の話、聞いたことないね。あ、言いたくなかったら言わなくて良いから!」
赤尾さんが両手を振って慌てている。話す間がないくらい、いつも赤尾さんがお見合い話をしてくれるから言わなかっただけなので、気にしなくて良いのに。
いつものお昼休み。会社の屋上で、私も赤尾さんもお弁当を食べていた。赤尾さんは、最近会社の近くに来ているランチカーで買ってきた中華風のお弁当だ。中華おこわが入っている、と大喜びしていた。
「話すのは構わないんですが、面白い話は何もないですよ」
「いいのよいいのよ。ハッピーな話はオチもサビもなくても楽しいもの」
赤尾さんが買ってきてくれたイチゴ大福を半分飲み込むと、うーん、と少しだけ考えながら口を開く。
「仕事はコンサルをしていて」
「あら、ということは結構コミュ力高め?」
「すごい高い、気がします。話はどんどん変わっていくし、私のよくわからないカタカナ単語もたくさん出てくる」
最近の流行りの言葉なのかもしれないけれど、いつもよくわからない言葉がたくさん出てきて、話の半分くらいはわからないのだ。
「たまにテレビで同じ単語が出てくると、おおすごい! ってなるので、やっぱり最先端の現場にいる人は違うんだなぁって思っちゃいます」
「へぇ。写真とかあるの?」
そう言われて、あれ、と思う。
そういえば、竜也と写真を撮ったことってなかったかも。そう告げれば、赤尾さんは「今度撮ってきて」と笑った。確かに、彼の写真の一枚くらいは手元にあっても良いのかもしれない。
「カタカナ語といえば、それをここで言うのはどうなんだろう、って思ったのが一つあって」
「なになに! 気になる」
「何を話したのかはもう忘れちゃったんですけど、私が話したことに対して、『アグリーだな』って言ったんです」
アグリーだな、の部分を竜也の口真似と顔真似でやってみせたら、赤尾さんが大笑いしてくれた。
「やだなにそれ! 同意だな、じゃだめなの? おっかしいの」
ヒィヒィ言いながら、予想以上に受けたので、私も一緒になって笑ってしまう。
「ねぇ、他に何言ってたか覚えてる?」
「うーん。確か、『これからはコト消費よりトキ消費だ』とか、『時代のナラティブが』とか『グローバルスタンダードが』とか言ってました」
指を一つずつ折りながら、思い出してみる。今思い出してみても、それ私との会話で必要なカタカナ語かなぁ、なんて思ってしまう。
「すっごい、想像通りのコンサルだねぇ。ベッタベタ」
赤尾さんの言いたいこと、よく分かる。私も、この人コンサルって感じだなぁと思ったのだ。でも、なんで最後のベッタベタが、少し低い声音だったんだろう。
「普段のデートはどんなことしてる?」
「彼のお仕事が忙しいから、お家デートがメインです。私の手料理を食べたり、家でゴロゴロしたり、です」
赤尾さんは目をぱちくりとしたあとで、ふぅん、と少しだけ眉間に皺を寄せて笑った。器用な笑い方だ。
「ねぇねぇ、葉月さんは彼氏さんのこと好き、なんだよね」
「はい。結婚したいなって思ってます」
「彼氏とは喧嘩したとき、どんな風に仲直りするの?」
喧嘩。うーん、喧嘩かぁ。
「今のところ、喧嘩とかしたことないんですよね。揉めるのも好きじゃないから、私が飲み込めるところは飲み込めばいいかなぁって思ってて」
「……そうなんだぁ。でも、ずっとそうやっていくの?」
「私、恋人とか夫とかって、一番近い他人だと思うんです。だから、あんまり何でも口にしちゃうのは、うまくいかなくなる元じゃないかなって」
安川に思ったことを言えたのは、別にそんなに距離が近いわけじゃないから。赤尾さんに思ったことを言えたのは、赤尾さんが私の話をきちんと聞いてくれるのでは、と思えたから。それに、会社にいる時間での付き合いだからというのも大きい。
でも、竜也とはずっと生活を一緒にしていこうと思っている。そうなると、変に思っていることを伝えて、うまくいかなくなったら、なんて考えると、怖いのだ。喧嘩して、すんなり仲直りができれば良いけど、そのまま別れてしまったら? 竜也は赤尾さんのように、私の話を聞いてくれるのかもわからない。
「葉月さんがそう思っているなら、今はそれでも良いけどさ。でも、一度考えてみて欲しいな。思っていることを伝えられない相手や、思っていることを伝えたのに、きちんと向き合ってくれない相手って、葉月さんをどう思っているのか」
「私を、どう思っているのか? 私が、ではなくて?」
「そう。葉月さんを──ハイ、これ」
「んがっ!」
赤尾さんはにっこりと笑いながら、手元のイチゴ大福を私の口に、大きいまま押し込んできた。もごもごして声が出せない。
「あと、食事を作ってあげてるみたいだけど、お家デートのときに、食費ちゃんともらってる?」
赤尾さんが両手を振って慌てている。話す間がないくらい、いつも赤尾さんがお見合い話をしてくれるから言わなかっただけなので、気にしなくて良いのに。
いつものお昼休み。会社の屋上で、私も赤尾さんもお弁当を食べていた。赤尾さんは、最近会社の近くに来ているランチカーで買ってきた中華風のお弁当だ。中華おこわが入っている、と大喜びしていた。
「話すのは構わないんですが、面白い話は何もないですよ」
「いいのよいいのよ。ハッピーな話はオチもサビもなくても楽しいもの」
赤尾さんが買ってきてくれたイチゴ大福を半分飲み込むと、うーん、と少しだけ考えながら口を開く。
「仕事はコンサルをしていて」
「あら、ということは結構コミュ力高め?」
「すごい高い、気がします。話はどんどん変わっていくし、私のよくわからないカタカナ単語もたくさん出てくる」
最近の流行りの言葉なのかもしれないけれど、いつもよくわからない言葉がたくさん出てきて、話の半分くらいはわからないのだ。
「たまにテレビで同じ単語が出てくると、おおすごい! ってなるので、やっぱり最先端の現場にいる人は違うんだなぁって思っちゃいます」
「へぇ。写真とかあるの?」
そう言われて、あれ、と思う。
そういえば、竜也と写真を撮ったことってなかったかも。そう告げれば、赤尾さんは「今度撮ってきて」と笑った。確かに、彼の写真の一枚くらいは手元にあっても良いのかもしれない。
「カタカナ語といえば、それをここで言うのはどうなんだろう、って思ったのが一つあって」
「なになに! 気になる」
「何を話したのかはもう忘れちゃったんですけど、私が話したことに対して、『アグリーだな』って言ったんです」
アグリーだな、の部分を竜也の口真似と顔真似でやってみせたら、赤尾さんが大笑いしてくれた。
「やだなにそれ! 同意だな、じゃだめなの? おっかしいの」
ヒィヒィ言いながら、予想以上に受けたので、私も一緒になって笑ってしまう。
「ねぇ、他に何言ってたか覚えてる?」
「うーん。確か、『これからはコト消費よりトキ消費だ』とか、『時代のナラティブが』とか『グローバルスタンダードが』とか言ってました」
指を一つずつ折りながら、思い出してみる。今思い出してみても、それ私との会話で必要なカタカナ語かなぁ、なんて思ってしまう。
「すっごい、想像通りのコンサルだねぇ。ベッタベタ」
赤尾さんの言いたいこと、よく分かる。私も、この人コンサルって感じだなぁと思ったのだ。でも、なんで最後のベッタベタが、少し低い声音だったんだろう。
「普段のデートはどんなことしてる?」
「彼のお仕事が忙しいから、お家デートがメインです。私の手料理を食べたり、家でゴロゴロしたり、です」
赤尾さんは目をぱちくりとしたあとで、ふぅん、と少しだけ眉間に皺を寄せて笑った。器用な笑い方だ。
「ねぇねぇ、葉月さんは彼氏さんのこと好き、なんだよね」
「はい。結婚したいなって思ってます」
「彼氏とは喧嘩したとき、どんな風に仲直りするの?」
喧嘩。うーん、喧嘩かぁ。
「今のところ、喧嘩とかしたことないんですよね。揉めるのも好きじゃないから、私が飲み込めるところは飲み込めばいいかなぁって思ってて」
「……そうなんだぁ。でも、ずっとそうやっていくの?」
「私、恋人とか夫とかって、一番近い他人だと思うんです。だから、あんまり何でも口にしちゃうのは、うまくいかなくなる元じゃないかなって」
安川に思ったことを言えたのは、別にそんなに距離が近いわけじゃないから。赤尾さんに思ったことを言えたのは、赤尾さんが私の話をきちんと聞いてくれるのでは、と思えたから。それに、会社にいる時間での付き合いだからというのも大きい。
でも、竜也とはずっと生活を一緒にしていこうと思っている。そうなると、変に思っていることを伝えて、うまくいかなくなったら、なんて考えると、怖いのだ。喧嘩して、すんなり仲直りができれば良いけど、そのまま別れてしまったら? 竜也は赤尾さんのように、私の話を聞いてくれるのかもわからない。
「葉月さんがそう思っているなら、今はそれでも良いけどさ。でも、一度考えてみて欲しいな。思っていることを伝えられない相手や、思っていることを伝えたのに、きちんと向き合ってくれない相手って、葉月さんをどう思っているのか」
「私を、どう思っているのか? 私が、ではなくて?」
「そう。葉月さんを──ハイ、これ」
「んがっ!」
赤尾さんはにっこりと笑いながら、手元のイチゴ大福を私の口に、大きいまま押し込んできた。もごもごして声が出せない。
「あと、食事を作ってあげてるみたいだけど、お家デートのときに、食費ちゃんともらってる?」
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*****
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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