妖精王の住処

穴澤空

文字の大きさ
35 / 52

35

しおりを挟む
「そういえば葉月さんの彼氏の話、聞いたことないね。あ、言いたくなかったら言わなくて良いから!」

 赤尾さんが両手を振って慌てている。話す間がないくらい、いつも赤尾さんがお見合い話をしてくれるから言わなかっただけなので、気にしなくて良いのに。
 いつものお昼休み。会社の屋上で、私も赤尾さんもお弁当を食べていた。赤尾さんは、最近会社の近くに来ているランチカーで買ってきた中華風のお弁当だ。中華おこわが入っている、と大喜びしていた。

「話すのは構わないんですが、面白い話は何もないですよ」
「いいのよいいのよ。ハッピーな話はオチもサビもなくても楽しいもの」

 赤尾さんが買ってきてくれたイチゴ大福を半分飲み込むと、うーん、と少しだけ考えながら口を開く。

「仕事はコンサルをしていて」
「あら、ということは結構コミュ力高め?」
「すごい高い、気がします。話はどんどん変わっていくし、私のよくわからないカタカナ単語もたくさん出てくる」

 最近の流行りの言葉なのかもしれないけれど、いつもよくわからない言葉がたくさん出てきて、話の半分くらいはわからないのだ。

「たまにテレビで同じ単語が出てくると、おおすごい! ってなるので、やっぱり最先端の現場にいる人は違うんだなぁって思っちゃいます」
「へぇ。写真とかあるの?」

 そう言われて、あれ、と思う。
 そういえば、竜也と写真を撮ったことってなかったかも。そう告げれば、赤尾さんは「今度撮ってきて」と笑った。確かに、彼の写真の一枚くらいは手元にあっても良いのかもしれない。

「カタカナ語といえば、それをここで言うのはどうなんだろう、って思ったのが一つあって」
「なになに! 気になる」
「何を話したのかはもう忘れちゃったんですけど、私が話したことに対して、『アグリーだな』って言ったんです」

 アグリーだな、の部分を竜也の口真似と顔真似でやってみせたら、赤尾さんが大笑いしてくれた。

「やだなにそれ! 同意だな、じゃだめなの? おっかしいの」

 ヒィヒィ言いながら、予想以上に受けたので、私も一緒になって笑ってしまう。

「ねぇ、他に何言ってたか覚えてる?」
「うーん。確か、『これからはコト消費よりトキ消費だ』とか、『時代のナラティブが』とか『グローバルスタンダードが』とか言ってました」

 指を一つずつ折りながら、思い出してみる。今思い出してみても、それ私との会話で必要なカタカナ語かなぁ、なんて思ってしまう。

「すっごい、想像通りのコンサルだねぇ。ベッタベタ」

 赤尾さんの言いたいこと、よく分かる。私も、この人コンサルって感じだなぁと思ったのだ。でも、なんで最後のベッタベタが、少し低い声音だったんだろう。

「普段のデートはどんなことしてる?」
「彼のお仕事が忙しいから、お家デートがメインです。私の手料理を食べたり、家でゴロゴロしたり、です」

 赤尾さんは目をぱちくりとしたあとで、ふぅん、と少しだけ眉間に皺を寄せて笑った。器用な笑い方だ。

「ねぇねぇ、葉月さんは彼氏さんのこと好き、なんだよね」
「はい。結婚したいなって思ってます」
「彼氏とは喧嘩したとき、どんな風に仲直りするの?」

 喧嘩。うーん、喧嘩かぁ。

「今のところ、喧嘩とかしたことないんですよね。揉めるのも好きじゃないから、私が飲み込めるところは飲み込めばいいかなぁって思ってて」
「……そうなんだぁ。でも、ずっとそうやっていくの?」
「私、恋人とか夫とかって、一番近い他人だと思うんです。だから、あんまり何でも口にしちゃうのは、うまくいかなくなる元じゃないかなって」

 安川に思ったことを言えたのは、別にそんなに距離が近いわけじゃないから。赤尾さんに思ったことを言えたのは、赤尾さんが私の話をきちんと聞いてくれるのでは、と思えたから。それに、会社にいる時間での付き合いだからというのも大きい。

 でも、竜也とはずっと生活を一緒にしていこうと思っている。そうなると、変に思っていることを伝えて、うまくいかなくなったら、なんて考えると、怖いのだ。喧嘩して、すんなり仲直りができれば良いけど、そのまま別れてしまったら? 竜也は赤尾さんのように、私の話を聞いてくれるのかもわからない。

「葉月さんがそう思っているなら、今はそれでも良いけどさ。でも、一度考えてみて欲しいな。思っていることを伝えられない相手や、思っていることを伝えたのに、きちんと向き合ってくれない相手って、葉月さんをどう思っているのか」
「私を、どう思っているのか? 私が、ではなくて?」
「そう。葉月さんを──ハイ、これ」
「んがっ!」

 赤尾さんはにっこりと笑いながら、手元のイチゴ大福を私の口に、大きいまま押し込んできた。もごもごして声が出せない。

「あと、食事を作ってあげてるみたいだけど、お家デートのときに、食費ちゃんともらってる?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

【完結/番外追加】サリシャの光 〜憧れの先へ〜

ねるねわかば
恋愛
彼女は進む。過去に囚われた者たちを残して── 大商会の娘サーシャ。 子どもの頃から家業に関わる彼女は、従妹のメリンダと共に商会の看板娘として注目を集めていた。 華々しい活躍の裏で、着実に努力を重ねて夢へと向かうサーシャ。しかし時には心ないことを言う者もいた。 そんな彼女が初めて抱いた淡い恋。 けれどその想いは、メリンダの涙と少年の軽率な一言であっさり踏みにじられてしまう。 サーシャはメリンダたちとは距離をおき、商会の仕事からも離れる。 新たな場所で任される仕事、そして新たな出会い。どこにあっても、彼女が夢を諦めることはない。 一方、光に囚われた者たちは後悔と執着を募らせていき── 夢を諦めない少女が、もがきながら光を紡いでいく軌跡。 ※前作「ルースの祈り」と同じ世界観で登場人物も一部かぶりますが、単体でお読みいただけます。 ※作中の仕事や制作物、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。

ただいまクマの着ぐるみ警報、発令中!

月芝
キャラ文芸
とある地方に、ちょっぴり個性豊かな住人たちが暮らす町があった。 でも近頃、そんな町をにぎわしている変態……もとい怪人がいる。 夜ごと、クマの着ぐるみ姿にて町を徘徊しては、女性に襲いかかり、あろうことか履物の片方だけを奪っていくのだ。 なんたる暴挙! 警戒を強める警察を嘲笑うかのように繰り返される犯行。 その影響はやがて夜の経済にも波及し、ひいては昼の経済にも…… 一見すると無関係のようにみえて、じつは世の中のすべては繋がっているのである。 商店街からは客足が遠のき、夜のお店は閑古鳥が鳴き、関係者の嘆きもひとしお。 なのに役所や警察はちっとも頼りにならない。 このままでは商店街が危うい。 事態を憂い、立ち上がったのは商店街の未来を背負う三人の看板娘たち。 精肉店のマキ、電器屋のシデン、古本屋のヨーコ。 幼馴染み女子高生トリオが、商店街の景気と町の平和の守るために立ち上がった。 怪人に天誅を下すべく夜の巷へと飛び出す乙女たち。 三人娘VS怪人が夜の街でバトルを繰り広げる、ぶっ飛び青春コメディ作品。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

竜華族の愛に囚われて

澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
近代化が進む中、竜華族が竜結界を築き魑魅魍魎から守る世界。 五芒星の中心に朝廷を据え、木竜、火竜、土竜、金竜、水竜という五柱が結界を維持し続けている。 これらの竜を世話する役割を担う一族が竜華族である。 赤沼泉美は、異能を持たない竜華族であるため、赤沼伯爵家で虐げられ、女中以下の生活を送っていた。 新月の夜、異能の暴走で苦しむ姉、百合を助けるため、母、雅代の命令で月光草を求めて竜尾山に入ったが、魔魅に襲われ絶体絶命。しかし、火宮公爵子息の臣哉に救われた。 そんな泉美が気になる臣哉は、彼女の出自について調べ始めるのだが――。 ※某サイトの短編コン用に書いたやつ。

耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。 そこに迷い猫のように住み着いた女の子。 名前はミネ。 どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい ゆるりと始まった二人暮らし。 クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。 そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。 ***** ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※他サイト掲載

処理中です...