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その言葉に、ルフは涙をながす。
「ありがとう。恩に着る。本当にありがとう」
やっと本当の姿に戻ることができる、ルフはそう言うと、ぶるり、とその体を震わせた。
その震えで山が振動する。一迅の風が吹き、山の頂には暗雲が立ち込めてきた。かと思うと、その雲が高度を下げ、ルフの体を埋め尽くす。
やがて。
その雲の中から、一羽の大きな鳥が現れた。
「……ロック鳥」
思わずそう口に乗せる。
「そう。我はロック鳥の魔神。長らくこの姿に戻ることができず、今こうしてお二人の前に姿を表わすことが可能となった。感謝いたす」
ロック鳥。ペルシア圏で良く取り上げられる伝説の巨大な白い鳥で、象であれば三頭ほどを纏めて持ち上げることが可能であるという。
「あっ、ルフってロック鳥のことやったか!」
そう。そんなこと、この状態でなければ思い出せもしない。はるか昔に呼んだ千夜一夜物語に描かれていた。ルフとはロック鳥の別名だ。
「あのっ」
その姿にしばし目を奪われていた於菟春だが、突如声を荒らげた。
「於菟春?」
興奮したような彼の状態に、思わず怪訝な顔をのぞかせてしまう。そんな私を気にもせず、於菟春はルフの足元へと近寄っていった。
「触っても良いですか?」
確かに触り心地が良さそうである。寺で飼っている猫にしばらく触れていない分、モフモフした触り心地に飢えていたのかもしれない。私の体は残念ながらモフモフしていないのだ。
「何笑ってるんだよ」
「いや、於菟春ってば滅茶苦茶かわええ顔しとるで」
「なんとでも言えば良いさ。こんなにふわふわのモフモフなんだぜ?」
「君たちは本当に面白い、不思議な客人だ。我で良ければ触るが良い。何なら乗せてやろうか」
「えっ、ロック鳥に?!」
よほど嬉しかったのだろう。目をキラキラとさせて、私もも一緒に聞いていたというのに「聞いたか?! 乗せてくれるってよ」などと報告をしてきた。まったく可愛い男だ。
「わかったわかった。せっかくやし乗せてもらおう」
手元に残るミントティをぐい、と飲み干すと、私たちは絨毯を使いルフの背中へと乗る。
「なんや、空飛ぶ魔法の絨毯で鳥の背中に移動する、ってのも謎な行動やねぇ」
「エレベーターで展望台に行くようなものだろう」
「なるほど?」
ルフが大きく羽根を動かした。
「では飛び上がりますよ」
ばさり。
大きな羽根が空を切る。図体が大きければ、無論翼も大きい。一度の羽ばたきで、十キロと随分と遠くまで進むことが出来た。
その背中は純白の羽根で覆われ、フカフカとしている。
「あ、あれはヴェスパさんでは?」
ロック鳥が横断する海の下では、美しい黄金の髪の毛を波間にたなびかせながら歌う人魚が見えた。
「うむ。あれはヴェスパだな。君たちはあちらこちらで魔神を開放してくれていて、本当に良い方だ」
ルフのその言葉に、於菟春は頭を掻く。
「成り行き上ですけれどね。自由を奪われてるとか、なんだか気分良くないですし」
「あと、冒険っぽいしな」
思わずぽろりと出してしまった本音に、ルフは呵呵と笑う。
眼下には碧い海。そうして目の端には白い美しい港街が見える。
「美しいだろう」
さも己の支配下であるかのように、その景色を自慢するルフに、私たちは是、と応えた。
「この景色を見るも見ないも自分の意思なら、なんてことはない。だが、ソロモンは強制的に見ることを禁じたんだ。あの山に封じるという方法で──」
だが、と言葉を繋ぐ。
「君たちのお陰で、私もヴェパルも助かった。恐らくアスタロトもその半身も」
ばさり、と羽根を水平にし、方向転換をする。
「あまり街に近づくと、人を驚かせてしまう。このまま一度山に戻ろう」
そう言うと、再び黒曜岩の哀しみの集まる山へと、羽根を休ませに戻っていった。
「ありがとう。恩に着る。本当にありがとう」
やっと本当の姿に戻ることができる、ルフはそう言うと、ぶるり、とその体を震わせた。
その震えで山が振動する。一迅の風が吹き、山の頂には暗雲が立ち込めてきた。かと思うと、その雲が高度を下げ、ルフの体を埋め尽くす。
やがて。
その雲の中から、一羽の大きな鳥が現れた。
「……ロック鳥」
思わずそう口に乗せる。
「そう。我はロック鳥の魔神。長らくこの姿に戻ることができず、今こうしてお二人の前に姿を表わすことが可能となった。感謝いたす」
ロック鳥。ペルシア圏で良く取り上げられる伝説の巨大な白い鳥で、象であれば三頭ほどを纏めて持ち上げることが可能であるという。
「あっ、ルフってロック鳥のことやったか!」
そう。そんなこと、この状態でなければ思い出せもしない。はるか昔に呼んだ千夜一夜物語に描かれていた。ルフとはロック鳥の別名だ。
「あのっ」
その姿にしばし目を奪われていた於菟春だが、突如声を荒らげた。
「於菟春?」
興奮したような彼の状態に、思わず怪訝な顔をのぞかせてしまう。そんな私を気にもせず、於菟春はルフの足元へと近寄っていった。
「触っても良いですか?」
確かに触り心地が良さそうである。寺で飼っている猫にしばらく触れていない分、モフモフした触り心地に飢えていたのかもしれない。私の体は残念ながらモフモフしていないのだ。
「何笑ってるんだよ」
「いや、於菟春ってば滅茶苦茶かわええ顔しとるで」
「なんとでも言えば良いさ。こんなにふわふわのモフモフなんだぜ?」
「君たちは本当に面白い、不思議な客人だ。我で良ければ触るが良い。何なら乗せてやろうか」
「えっ、ロック鳥に?!」
よほど嬉しかったのだろう。目をキラキラとさせて、私もも一緒に聞いていたというのに「聞いたか?! 乗せてくれるってよ」などと報告をしてきた。まったく可愛い男だ。
「わかったわかった。せっかくやし乗せてもらおう」
手元に残るミントティをぐい、と飲み干すと、私たちは絨毯を使いルフの背中へと乗る。
「なんや、空飛ぶ魔法の絨毯で鳥の背中に移動する、ってのも謎な行動やねぇ」
「エレベーターで展望台に行くようなものだろう」
「なるほど?」
ルフが大きく羽根を動かした。
「では飛び上がりますよ」
ばさり。
大きな羽根が空を切る。図体が大きければ、無論翼も大きい。一度の羽ばたきで、十キロと随分と遠くまで進むことが出来た。
その背中は純白の羽根で覆われ、フカフカとしている。
「あ、あれはヴェスパさんでは?」
ロック鳥が横断する海の下では、美しい黄金の髪の毛を波間にたなびかせながら歌う人魚が見えた。
「うむ。あれはヴェスパだな。君たちはあちらこちらで魔神を開放してくれていて、本当に良い方だ」
ルフのその言葉に、於菟春は頭を掻く。
「成り行き上ですけれどね。自由を奪われてるとか、なんだか気分良くないですし」
「あと、冒険っぽいしな」
思わずぽろりと出してしまった本音に、ルフは呵呵と笑う。
眼下には碧い海。そうして目の端には白い美しい港街が見える。
「美しいだろう」
さも己の支配下であるかのように、その景色を自慢するルフに、私たちは是、と応えた。
「この景色を見るも見ないも自分の意思なら、なんてことはない。だが、ソロモンは強制的に見ることを禁じたんだ。あの山に封じるという方法で──」
だが、と言葉を繋ぐ。
「君たちのお陰で、私もヴェパルも助かった。恐らくアスタロトもその半身も」
ばさり、と羽根を水平にし、方向転換をする。
「あまり街に近づくと、人を驚かせてしまう。このまま一度山に戻ろう」
そう言うと、再び黒曜岩の哀しみの集まる山へと、羽根を休ませに戻っていった。
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